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店舗ビジネスの従業員エンゲージメントを高めるポイントは?

従業員定着率や業績を改善する方法として、「従業員エンゲージメントの向上」という、組織力を土壌から変えていく手法に注目が集まっています。本記事では、15万5千人超の店舗スタッフに対して行った調査の結果を分析、「パートアルバイト比率が高い」 「顧客とスタッフが直接接する」といった特徴をもつ、店舗ビジネスならではの従業員エンゲージメント向上のポイントをご紹介します。

【利用データ】
調査数:15万5,546件
調査期間:2022年4月~2023年3月
調査手法:従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート
回答者属性:店舗型のビジネスを展開する企業の現場スタッフ(店長・社員・パートアルバイト)

分析の方向►従業員エンゲージメントを2つの要素に分解

従業員エンゲージメントとは、従業員の組織が目指す姿」や「自分自身の仕事」に対する熱意・貢献意欲のことです。つまり、従業員が下記2つのエンゲージメントを持っている状態と考えるとわかりやすいと思います。

①組織に対するエンゲージメント
組織に対する貢献意欲。組織が掲げる理念や目標に共感している、組織に対する信頼感が高い。

②仕事に対するエンゲージメント
仕事に対する意欲。自分自身の仕事に対して熱意を持って取り組み、活力や没頭を感じている。


従業員エンゲージメント2つの要素_店舗ビジネスのエンゲージメント向上を考える


では、「組織に対するエンゲージメント」と「仕事に対するエンゲージメント」を高めるポイントは同じなのでしょうか?実は、調査結果を分析すると2つのエンゲージメントを高めるポイントには違いが見られました。次にその点を解説します。

【関連記事】従業員エンゲージメントと従業員満足度の違いとは?他の似た言葉との違いもご紹介

【店舗ビジネス】 仕事に対するエンゲージメントを高めるポイント

まず、「仕事に対するエンゲージメント」を高めるポイントを報告します。

弊社の従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」の標準設問は5因子36項目から成り立っていますが、うち「仕事に対するエンゲージメント」に関する項目について、評価の高いグループと評価が中程度のグループでは何が違うのかを分析した結果です


表1が係数の差が大きかった項目のランキングです。太字の項目は、アルバイト・社員・店長、すべての職種に共通していた上位項目です。


    表1:「仕事に対するエンゲージメント」に影響の大きい項目

    ●仕事に対するエンゲージメントを高めるポイント

    アルバイト・社員・店長の結果に大きな差はなく、すべての職種に共通していた上位項目が下記です。

    • 改善意識(会社/店舗をもっと良くしたいと思っている)
    • 有意味感(自分の仕事が価値があるものだと感じている)
    • 達成感(達成感を得ながら仕事をしている)
    • 顧客満足の実感(自分の仕事がお客様の喜びにつながっていると実感)

    仕事に対するエンゲージメントが高いスタッフは、お客様の笑顔や感謝の言葉から顧客満足を実感し、仕事が好きになり、有意味感達成感を得、仕事に対する改善意識が高まり、仕事の質が高まっていく。結果、お客様の喜びを実感する機会が増え、顧客満足の実感がさらに高まる、こんな好循環の中にいる様子がうかがえます。

    「顧客満足の実感」が仕事に対するエンゲージメントの起点になっている。この点は、お客様とスタッフが対面で接する機会の多い店舗ビジネスならではのポイントと言えます。


    <顧客満足の実感がポイントになる>

    図1 店舗ビジネスでは「顧客満足の実感」がワークエンゲージメント、従業員エンゲージメントの起点になる

    ●仕事に対するエンゲージメントを高める具体策

    では、具体的には何に取り組めばいいのか?店舗ビジネスにおいて、仕事に対するエンゲージメントを高めるための具体策を、顧客満足の実感を高める施策を中心に下記に紹介します。

    <「お褒めの言葉」と「クレーム」は2対1の割合で>
    お客様からのクレームを店舗スタッフにも共有している企業は多いと思います。しかし、目にするお客様の声が「クレーム中心」になってしまうと、仕事への自信や有意味感が薄れていきます。自分達の仕事はお客様に必要とされている、そう強く実感できる「お褒めの言葉」をふんだんに店舗に伝えることは有効なエンゲージメント向上策です。

    <店内アンケート結果を即日見られるようにする>
    自分が働いた今日、その日に届いたお客様からの声が店舗スタッフにもたらす影響は大きなものです。お褒めの言葉なら喜びや達成感に、不満の声なら次は改善しようという改善意識につながります。店内アンケートをすでに実施している場合は、勤務終了時にその日の評価(特にお客様の顔が思い浮かぶコメントによる評価)をチェックできるようにするといいでしょう。

    現場主体のCS改善活動
    店内アンケートや覆面調査を使った、店舗スタッフ主体のCS改善活動を推進することも有効です。お客様により喜んでいただくための作戦を自分達で考え、取り組み、結果、顧客満足を実感できる瞬間が増え、働きがいが高まる。「現場主体のCS改善活動」は、そんな好循環を生み出します。


    <自社のビジネスの意義を本部から定期発信する>
    私たちの仕事は何のためにあるのか?その意義を本部から定期的に情報発信することも、仕事に対するエンゲージメント向上につながります。地道な積み重ねになりますが、漢方のようにじわじわ効く、優良策と言えます。

    繰り返しになりますが、
    店舗ビジネスにおけるエンゲージメント向上を考える際、「顧客満足の実感」が重要な要素になる点は必ず押さえてほしいポイントです。エンゲージメント向上施策を考える際のひとつの視点として頭の片隅に置いておいてほしいと思います。

    【関連記事】「感動リレープロジェクト」と「働きがい診断」が両輪 現場スタッフが輝けるマネジメント

    【店舗ビジネス】組織に対するエンゲージメントを高めるポイント

    次に、「組織に対するエンゲージメント」を高めるポイントを報告します。 従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」のうち、組織に対するエンゲージメントに関する項目について、評価が中程度グループと評価が低かったグループでは何が違うのかを分析した結果です。

    表2が係数の差が大きかった項目のランキング、太字の項目は、アルバイト・社員・店長、すべての職種に共通していた上位項目です。

    表2:「組織に対するエンゲージメント」に影響の大きい項目

    ●組織に対するエンゲージメントを高める要素

    組織に対するエンゲージメントを高めるポイントについては、職種で違いが見られました。


    <すべての職種に共通>
    すべての職種に共通していた上位項目は下記です。

    • 心身の健康(心身ともに健康に働けている)
    • 達成感(達成感を得ながら仕事をしている)
    • 適正な評価(自分の仕事が適正に評価されていると感じている)
    • 改善意識(会社/店舗をもっと良くしたいと思っている

    心身ともに健康に働ける労働環境であるかどうか、仕事を通して達成感を得られ、適正な評価をしてもらえているかどうか。これらの要素は、組織に対するエンゲージメントを高める基礎条件となっています。


    <アルバイト・社員>
    アルバイト・社員の、組織に対するエンゲージメントに影響が大きかったのは「信頼」「言行一致」など、店長への信頼度を示す項目です。

    表3は店長への評価項目にマークした表です。仕事に対するエンゲージメントを高める要素と比較して、組織に対するそれは、店長に関する項目が多くランクインしているのがわかります。


    表3:「店長への評価項目」の割合

    表3 店長への評価項目の割合_店舗ビジネスの従業員エンゲージメントへの影響度


    店舗ビジネスの場合、それぞれの店舗が遠く離れた立地にあることが多く「一国一城の主」の雰囲気が強くなります。そのため、組織に対するエンゲージメント向上においては「店長への信頼度」の影響が大きくなっていると考えられます。


    <アルバイト>

    ​​​​​​​また、アルバイトの場合は「人間関係」が上位にランクインしています。アルバイトにとって最も身近な組織である店舗における人間関係が、組織に対するエンゲージメントを高めるポイントとなっています。

    表4:アルバイトの場合「人間関係」の影響が大きい
    表4 :アルバイトの場合「人間関係」の影響が大きい_店舗ビジネスの従業員エンゲージメントへの影響度


    部下から信頼してもらえる店長をいかに育成するか、店舗内の人間関係を良好にする仕組みづくりや社風づくりを本部としていかに推進するかが、店舗ビジネスにおいてエンゲージメントを高めるための重要施策となると言えます。

    ●組織に対するエンゲージメントを高める具体策

    組織に対するエンゲージメントを高めるための具体策を、下記にご紹介します。

    <1on1ミーティングの制度化>
    上司と部下が1対1で行う面談「1on1ミーティング」の開催を、店長本人の意欲に任せず、企業として制度化することは有効な策です。部下が抱える悩みや価値観を理解し、ポジティブなフィードバックを繰り返しながら部下の成長をサポートすることは、店長への本質的な評価を高めます。

    <従業員エンゲージメント調査を店長育成に使う>
    店長に「売上計画」や「スタッフ育成計画」と同じように、「スタッフのエンゲージメント向上計画」を考えてもらうことは、スタッフの働きがいを高め、定着率を高めるために重要です。PDCAを数値化できる エンゲージメント調査を、店長育成ツールとして活用することは、組織に対するエンゲージメントを高める有効な策と言えます。

    <ポジティブなコミュニケーションを増やす>
    店舗内にポジティブなコミュニケーションを増やすことは人間関係を良好にします。「サンクスカード」「誕生会リレー」といった、スタッフ同士の人間関係を深めるためのしかけを本部から店舗に紹介することも有効です。

    <エリアマネジメント管理指標にエンゲージメントスコアを加える>

    店長の上司である、スーパーバイザーやエリアマネージャー(以下、SV)が見る数値指標に「従業員エンゲージメントスコア」を加えることも有効な策です。 スコアが軒並み低い店舗は、店長だけでは課題を解決できない可能性が高くなります。そのような店舗をSVが管理指標から発見できるようにし、解決をサポートするのです。離職リスクの早期発見・解決、業績向上の土台づくりにつながります。

    【関連記事】スタッフの帰属意識を高める誕生会リレー
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    店舗ビジネスにおける調査データ研究からわかった従業員エンゲージメントを高めるポイント

    以上、店舗ビジネスで従業員エンゲージメントを高めるポイントをご紹介しました。下記にポイントをまとめます。

    <仕事に対するエンゲージメント向上>
    ・店舗スタッフが顧客満足を実感できる工夫を行い、有意味感達成感改善意識を高める

    <組織に対するエンゲージメント向上>
    心身の健康を保てる労働環境の整備
    達成感適正な評価を感じられる評価制度の整備、制度運用の工夫
    ・部下に信頼される店長の育成
    店舗内の人間関係をサポートする仕組みづくり

    店舗ビジネスにおいても、特に人手不足対策として、従業員エンゲージメント向上を通した離職率の改善が重要になってきています。では、何から始めるべきなのか?まずは、自社の従業員エンゲージメントの現状を把握し、正しい施策を選択できるようにすることが重要です。弊社では、今回ご紹介した従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」のご提供と共に、
    組織のエンゲージメントを改善する「トータルサポート」も行っています。お気軽にお問い合わせください。

    MS&Consulting 錦織浩志
    MS&Consulting 錦織浩志
    東京大学 大学院を修了後、MS&Consultingへ入社。データアナリストとしてビックデータの分析を担当。その知見を活かし、国立研究開発法人 産業技術総合研究所との共同研究の成果として、数々の共著論文を発表。研究テーマ例に「従業員エンゲージメントと顧客満足の関連性分析」「パート・アルバイトの従業員エンゲージメントの特徴」「サービス・ベンチマーキングによるサービス・プロフィット・チェーンの高度化に関する研究(サービス学会BestPaperAward受賞)」など。

    お役立ち資料

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