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ワークエンゲージメントとは?定義から高める方法まで解説

ワークエンゲージメントが従業員の離職やパフォーマンスに与える影響については日本でも関心が高く、厚生労働省が発表した「平成30年度版労働経済の分析」の中でもその有用性に触れられています。今回の記事では、ワークエンゲージメントとは何か?その定義や測定方法、また、ワークエンゲージメントを高める方法について、詳しく解説します。

目次[非表示]

  1. 1.ワークエンゲージメントとは?
  2. 2.ワークエンゲージメントの測定方法
  3. 3.従業員エンゲージメントとの違い
  4. 4.ワークエンゲージメントを高めるポイント
  5. 5.ワークエンゲージメントを高める具体的な方法
  6. 6.ワークエンゲージメントを高めるメリット
  7. 7.まとめ

ワークエンゲージメントとは?

ワークエンゲージメント(Work Engagement)とは、仕事に対するエネルギッシュで充実した心の状態を指し、従業員のメンタルが健全かどうかを判断する指標のひとつです。 オランダのユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱した概念で、ワークエンゲージメントとは、仕事に対する活力・熱意・没頭の3つが満たされている状態」と定義されています。

ワークエンゲージメントを構成する3要素(ユトレヒト大学シャウフェリ教授提唱]概念図

1.活力(Vigor)
エンゲイジしている人は、仕事をしている時、力がみなぎり、活気に満ちていると感じる。
2.熱意(Dedication)
エンゲイジしている人は、仕事に誇りとやりがいや意義を感じている。
3.没頭(Absorption)
エンゲイジしている人は、仕事をしているとつい夢中になり、のめり込んでいる時の幸福感を感じている。


産業保健心理学の分野では、うつ病など労働者の心の不調についての研究が進み、日本の企業でもメンタルヘルス対策が進みました。ところが、2000年前後から、労働者の幸せ(ウェルビーイング)を考える時、心の不調を防ぐだけでは不十分であり、仕事に対するポジティブな心理状態を高めていくことにも注目すべきであるとする流れが生まれました。

そうした中で生まれてきたのがワークエンゲージメントという概念です。人生の中で仕事が占める時間は決して少なくありません。ワークエンゲージメントに取り組み、心の健康度が高い状態で働ける環境をつくりたいものです。

ワークエンゲージメントの測定方法

ワークエンゲージメントの定方法としては、「ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度(UWES)」が広く普及しています。

【ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度・短縮版(UWES-9)】
以下の9つの質問に0(全くない)〜6(毎日感じる)の段階で回答。36点以上を「仕事にエンゲイジしている状態」としています。
  1. 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる(活力)
  2. 職場では、元気が出て精力的になるように感じる(活力)
  3. 仕事に熱心である(熱意)
  4. 仕事は、私に活力を与えてくれる(熱意)
  5. 朝に目が覚めると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる(活力)
  6. 仕事に没頭している時、幸せだと感じる(没頭)
  7. 自分の仕事に誇りを感じる(熱意)
  8. 私は仕事にのめり込んでいる(没頭)
  9. 仕事をしていると、つい夢中になってしまう(没頭)

出典:「ワーク・エンゲイジメント入門(ウイルマー・B・シャウフェリ、ピーターナル・ダイクストラ著、島津明人、佐藤美奈子訳)」

自分や同僚がエンゲイジしているかどうかを察知できることは非常に重要だと、シャウフェリ教授は述べています。なぜなら、自分や同僚を、もう一度鼓舞し、やる気を起こさせる時期であることを早めに発見できれば、手遅れになる前に手を打てるからです。

年に数回は、従業員にワークエンゲージメントを構成する要素である「活力・熱意・没頭がどの程度あるか?」を問い、従業員のメンタルの健全度をチェックしたいものです。

従業員エンゲージメントとの違い

ワークエンゲージメントは、近年よく耳にするようになった「従業員エンゲージメント」と言葉が似ていることから、どのように違うのかも解説しておきたいと思います。

●従業員エンゲージメントとは?

従業員エンゲージメントとは、組織が目指す姿と自分自身の仕事の双方に対する、従業員の熱意と貢献意欲のことです。

●ワークエンゲージメントとの違い

つまり、ワークエンゲージメントが従業員の「仕事に対する心理状態」のみに焦点を当てた考え方であるのに対し、従業員エンゲージメントは「仕事に対する心理状態」と「組織に対する心理状態」の両方に焦点を当てた考え方である点が異なります。従業員エンゲージメントの中に、ワークエンゲージメントが含まれていると考えても良いでしょう。

従業員エンゲージメントとの違い


関連記事:従業員エンゲージメントと従業員満足度の違いとは? 他の似た言葉との違いもご紹介

ワークエンゲージメントを高めるポイント

次に、ワークエンゲージメントを高めるには、何がポイントとなるのかをご紹介しましょう。

●「仕事」と「個人」の2つの資源を充実させる

ワークエンゲージメントを高めるには、2つの資源、「仕事の資源」と「個人の資源」を充実させることがポイントとなることが研究であきらかになっています。



〈仕事の資源〉
同僚や上司からの支援、キャリア開発の機会など、仕事におけるストレスをやわらげるとともに、仕事への意欲を高める「組織が持つ資源」

(事例)

  • 同僚のサポート、同僚との交流
  • 上司との良好な関係
  • 建設的なフィードバック
  • 正当な評価、組織でフェアに扱われること
  • 成長できる機会、キャリア開発の機会
  • 仕事の自律性(いつ、どのように働くかを決定する自由)
  • 明確な役割、責任ある仕事
  • 意思決定への参加


〈個人の資源〉
自己効力感など、仕事への動機づけとなる「個人の内面にある資源」

(事例)
  • 自己効力感(うまく実行できるという自信)
  • 自尊心
  • 楽観主義
  • レジリエンス(粘り強さ)


●ワークエンゲージメントは伝染する

ここまでお読みになった方は、「部下に建設的なフィードバックができる上司がいて、上司や同僚との関係性が良好な職場」であれば、従業員一人ひとりのワークエンゲージメントが高まることは経験上、想像に難くないのではないでしょうか。

しかしながら、同時に「その状態をつくり出すのはむずかしい」と感じられる方もいるでしょう。


その時は「ワークエンゲージメントは伝染する」という事実がヒントになります。「伝染する」とは、仕事にエンゲイジしている人たちと一緒に働いている周りのメンバーは無意識のうちに彼らの高いモチベーションや熱意の影響を受け、楽観的な気分になり、仕事に対する動機づけが行われ、自分の仕事に対しても情熱を感じ始めるということです。

​​​​​​​従業員全員をエンゲイジしようと思うと困難を感じるかもしれません。まずは、可能性の高そうな従業員を念頭にワークエンゲージメントを高める施策を打つことで、組織全体のワークエンゲージメントをも底上げしていくことができるのです。

ワークエンゲージメントを高める具体的な方法

最後に、ワークエンゲージメントを高めるためのより具体的な施策もご紹介しておきます。自社にあった施策をぜひ取り入れてみてください。

●1on1ミーティングの定期開催
上司との良好な関係やサポートがワークエンゲージメントに大きく影響を及ぼすことを考えると、部下を支援するための上司が部下と1対1で話す機会の確保は重要と言えます。

「目標を達成するために妨げとなっている点の確認やアドバイス」「キャリアの展望」といった、業務に直結する内容だけでなく、「頑張ってくれたことに対する言及」「社内で高く評価されている点のフィードバック」 など、ポジティブな気持ちになれる内容を盛り込み、部下が成長実感や自己効力感を持つことのできる時間にすることも重要です。

●メンターや教育係の配置
エンゲージメントさせることが得意な人材を、メンターや教育係として配置する施策も有効です。上司とは別に頼れる相手が存在することは重要です。

●ボトムアップ型の組織づくり
上層部で決められたことを十分な説明・納得がないままにこなす環境ではワークエンゲージメントは高まりません。従業員の声に耳を傾けたり、業務遂行上の裁量権を拡大するなど、トップダウンではなくボトムアップ型の組織づくりが有効です。


●職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化
同僚間でのサポートや同僚とのポジティブな交流がある職場はワークエンゲージメントを高めます。「チームメンバー同士の理解を深めるワークショップの開催」「定期的な交流会の開催」といった従業員同士の人間関係を深める施策に加えて、「商談がまとまった」「お客様に喜んでいただけた」といったポジティブな情報を祝う組織風土をつくることも有効です。


●現状把握からの最適な施策の検討
ワークエンゲージメントを高める施策は数多くあります。ワークエンゲージメントの現状を把握するために従業員に対するアンケート調査を行ってから、施策の方向性を定めることは、ワークエンゲージメントを高めるための第一歩として重要です。

ワークエンゲージメントを高めるメリット

では、ワークエンゲージメントを高めることで、企業経営においてはどのようなメリットが得られるのでしょうか?

●離職率の低下

筆頭にあげられるメリットは「離職率の低下」です。【グラフ①】は、厚生労働省所管の労働政策研究・研修機構が2019年に発表したデータです(人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査(企業調査票、正社員票)) 。ワークエンゲージメントスコアが高い企業ほど、3年前と比較して離職率が低下していることがわかります。

グラフ① 従業員の離職率に関するD.I.

グラフ①従業員の離職率に関するDI(ワークエンゲージメントと離職率の関係)労働政策研究・研修機構データ

※値は現在と3年前を比較した時の従業員の離職率について
「低下と回答した企業の割合」と「上昇と回答した企業の割合」の差分


●新入社員の定着率上昇

た、ワークエンゲージメントスコアが高い企業ほど、新入社員(入社3年後)の定着率が上昇しています【グラフ②】。人材難の時代を迎えている今、注目に値するメリットと言えます。


グラフ② 新入社員の定着率(入社3年後)に関するD.I.

グラフ② 新入社員の定着率・入社3年後に関するDI((ワークエンゲージメントと離職率の関係)労働政策研究・研修機構データ

※値は現在と3年前を比較した時の新入社員の定着率(入社3年後)について
「上昇と回答した企業の割合」と「低下と回答した企業の割合」の差分


●労働生産性の向上

さて視点を変えて、ワークエンゲージメント、言い換えると、従業員の仕事に対する熱意や活力が、企業成果に及ぼす影響を見ていきたいと思います。

【グラフ③】は、「3年前と比較し労働生産性が向上していると思うか?」 の問いに対して、「いつも感じる(6点)/よく感じる(4.5点)/時々感じる(3点)/めったに感じない(=1.5点)/全く感じない(0点)」のいずれかを選んでもらい、そのスコアとワークエンゲージメントスコアの関係を分析したものです。

結果、ワークエンゲージメントスコアが高い企業ほど、3年前より労働生産性が高まったと感じていることがわかります。

グラフ③ 従業員の労働生産性に関する認識(現在と3年前の比較)

グラフ③ ワークエンゲージメントと従業員の労働生産性に関する認識(現在と3年前の比較)労働政策研究・研修機構データ

※「3年前と比較し労働生産性が向上している」 の設問に対する回答を、
「いつも感じる(6点)~
全く感じない(0点)」と スコア化した値を利用。

●顧客満足度の向上

同様に、ワークエンゲージメントスコアが高い企業ほど、3年前と比較して顧客満足度が高まっていると回答しています【グラフ④】。

グラフ④ 顧客満足度に関する企業の認識

グラフ④ワークエンゲージメントの高さと顧客満足度に関する企業の認識(労働政策研究・研修機構データ)

※現在と 3年前を比較した顧客満足度について、「上昇(大幅に上昇+やや上昇)と回答した
企業の割合」と「低下(やや低下+大幅に低下)
と回答した企業の割合」の差分


ワークエンゲージメントに取り組むことは、離職率の低下や労働生産性、顧客満足度の向上をもたらすことが期待できます。

※グラフ出典:「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査(企業調査票、正社員票)」(労働政策研究・研修機構/ 2019年)

まとめ

ワークエンゲージメントを高めることは「離職率の低下」「労働生産性の向上」など多様なメリットを生み出し、多くの企業が抱える課題を解決に近づけてくれます。また、今回ご紹介したポイントや向上施策は、あくまで選択肢のひとつです。重要なのは、いかに貴社にあった方法を見つけるかということです。

弊社は、ワークエンゲージメントを含む従業員エンゲージメント向上に寄与するサービスとして、各種調査やコンサルティングを実施しております。貴社にとって最適なご提案をさせていただきますので、気軽にご相談ください。

チーフコンサルタント 児玉彩子
チーフコンサルタント 児玉彩子
慶應義塾大学 経済学部を卒業後、経営コンサルティング会社に入社。多岐にわたる業界の組織開発コンサルティングに従事。2008年よりMS&Consulting所属。顧客満足度、ならびに、従業員エンゲージメントを高めるコンサルティングを担当。また、従業員エンゲージメントに関するノウハウ研究、コンテンツ執筆も担当。JHMA認定ホスピタリティ・コーディネーター。

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