catch-img

「サービス変革」と「需要の創造」を柱に、 全社一丸となって飛躍を目指す

株式会社東急スポーツオアシス

http://www.sportsoasis.co.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2012年冬号』掲載
取材:西山博貢、文:高島 知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

さまざまな商品やサービスが飽和状態を迎え、機能や施設などのハード面が整っているのは当たり前となってきている今、かつてそれらを売りにしていた多くの業態で、スタッフのホスピタリティというソフト面を充実させることに注目が集まっている。会員制スポーツクラブもそうした業態のひとつだ。「サービス変革」と「需要の創造」をスローガンに掲げ、CSとES両輪の向上に取り組む東急スポーツオアシスにお話を伺った。

首都圏および近畿~広島エリアに31店舗を展開し、約10万人の会員を擁する東急スポーツオアシスでは、3年ほど前から全社を挙げてサービスの充実に力を注ぎ、CS向上に本腰を入れている。店舗の自主性を尊重しながら、全社でベクトルを合わせる地道な努力を重ねてきた。同社サービス推進本部 サービス推進 ゼネラルマネージャーの桐畑達也氏は、「今ようやくトップの考えが現場レベルまで浸透してきた段階。模索しながらも前進している手応えはあるので、今年からはいよいよ結果を出していきたい」と話す。

東急スポーツオアシス サービス推進本部 サービス推進 ゼネラルマネージャーの桐畑達也氏(左)と、サブマネージャ


同社がCS向上を命題に掲げた発端は、2009年に現代表取締役社長・小野寺泰氏がトップに就任したことだ。それまでも、顧客サービスの充実を目標の一つとして認識し、現場での試行錯誤を続けてはいたものの、同社における第一の指針として明言されたのはこれが初めてのこととなった。  施設を建てれば人が集まるという成長市場の時代を脱し、工夫をしなければ顧客が簡単に離れてしまう状況に対して小野寺氏が打ち出したのは、「サービス変革」と「需要の創造」の二本柱。十人十色ではなく“一人十色”といわれるほど多様化し、かつ懐事情は厳しくなっている消費者に「スポーツクラブ」という時間の使い方を選択していただき、かつ数ある施設の中から選んでいただくには、ハード面の充実は当然として、顧客に合わせた最大限のホスピタリティを提供し、心惹かれる新たな付加価値をもって需要を生み出すことが重要だ、とする考えである。これは言い換えれば、ハードではなくソフトを差別化要因にするという意思の表明だ。

同社では270人ほどの社員、アシスタントと呼ぶアルバイトやパートのスタッフが約1000人、さらに業務委託契約を交わす約1000人ものインストラクターが日々業務にあたっている。しかも、現場で顧客に直接対応しているのは、ほとんどがアシスタントやインストラクター。企業理念や行動指針を共有し足並みを揃えるのは、容易なことではない。

だが、顧客に向き合う姿勢を何より重視すると掲げたことで、全社が進むべき方向が明確になった。さらに、トップ自らが全国を回り、メッセージを直接従業員に届けていった。決して右肩上がりとは言えない、展望の見えづらいサービス業において、このメッセージは従業員にとって大きなよりどころとなったのだ。

「これまでもCS向上に関して知恵を絞ってきたつもりでしたが、店舗ごとに現場の事情も異なっているので、どこまで本部が関与すべきか迷うところもありました。それが、トップからこの二つのメッセージが提示されたことで、サービスを担う現場スタッフにも伝わりやすく、本部の私たちも動きやすくなったと思います」(桐畑氏)。

戸塚店のエントランス:お客様がオアシスを毎日利用したいという気持ちになっていただけるよう、”笑顔で挨拶”を大切にしている。


グループ企業間で連携し、事例や知見を共有

お客様に心地よい時間や体験を提供するために、全グループ企業で取り組んでいく『サービス・ウェイ・フォーラム』を開催。

こうした同社の動きに追随するように、東急不動産グループとしても、2009年よりグループの強みを活かした活動を開始した。その取り組みの一つが、同社および東急リゾートや東急ステイなど施設運営事業を展開している5社による「サービス・ウェイ・フォーラム」だ。年に一度代表者大会を開催し、グループ企業間で情報や知見を共有しながらCS向上を図っているほか、半年に一度の間隔で独自の顧客アンケートを実施し、CSの順位を出すなどして切磋琢磨しているという。

施設運営事業を展開する東急不動産グループ内5社による企画「サービス・ウェイ・フォーラム」。業態は違えど、同じようにCS向上の課題に直面している状況を共有し、改善策を探る取り組みだ。


これらホテルやリゾート施設などの業態でも、スポーツクラブと同様、かつては人的なサービスよりもまず施設が充実していることが大きな差別化要因になると考えられてきた。だが、昨今は顧客からサービス面での要望も多く聞かれるようになり、競合他社を含め業界全体で新しい課題に直面している状況がある。

「そもそも、私たちの事業の原点は施設という“ハコ”を提供することではなく、施設の快適さもスタッフによる心からのサービスも含めて、お客様に心地よい時間や体験を提供することです。それならば、各社別々に取り組むのではなく、グループ企業間のチームワークを活かして皆で向き合っていこうと考えて、『サービス・ウェイ・フォーラム』が立ち上がりました」(桐畑氏)。

さらに2011年春、東急不動産グループ内の若手社員を中心に「現場力向上委員会」という分科会が発足した。ここでも、心からの顧客サービスにあたるためには従業員が満足して働いていることが不可欠だという考えの下、事例研究や施策の共有などを行っている。同じくサービス推進本部で主にES向上の施策に取り組む松村嘉奈氏は、「分科会で目標としているのは、現場を笑顔でいっぱいにすること」と話す。「当社のアシスタントスタッフを希望する人にはスポーツ経験者が多く、幸いにもお金のためというより『体を動かすことの楽しさを知ってほしい』というマインドを持った人が多数を占めます。現場のそういう仲間にさらに力を発揮してもらうために、マニュアルの押し付けではなく、気持ちを大事にした育成の手法やフォローの仕方を探っています」。

毎月行っているサービスミーティングにて、「模擬ミーティング」の様子。自分の店と似ている状況にある他店の事例をもとに、どのように現場で共有したらいいのかを話し合う。


サービスレベルを“見える化”し、具体的な行動に落とし込む

顧客へのホスピタリティという目に見えないものを磨くために、同社が成果の“見える化”の策として取り入れているのが、ミステリーショッピングリサーチ(MSR)だ。

スポーツクラブにおけるCSの評価指標としては、大きく「会員顧客の存続率」と、「新規会員の紹介率」が挙げられる。ただ、これらの数値結果をもって、具体的に何をどう改善していけば良いのかまで現場で導き出すことは難しい。そこで、より顧客の気持ちに肉薄し、改善への道筋を立てるために、2010年からMSRを導入した。1度体験してアンケートに答える体験調査からスタートし、2011年夏には3ヵ月かけて4回通ってもらい、都度アンケートを取る「入会調査」を実施した。会員継続の一つの山といわれる、最初の3ヵ月間の心理変化を把握する意図だ。

快適な設備やロケーションを誇る同社だが、現在目指すのはソフトを差別化要因とする付加価値向上。どうすれば消費者に「スポーツクラブ」という時間を選択していただけるかを常に考えている。


桐畑氏は、「点数自体はそれほど気にしていない」と話す。店舗ごとに規模やサービス内容、スタッフ構成が異なるため、傾向も対策もまちまちだからだ。「それよりも、現状に気づいて皆で共有し、日々振り返りながら改善を続けていくのに活かしたいと考えています。もちろん、MSRの結果が良ければ、それは現場のスタッフの励みにもなっています」。

MSRの導入にあたって、松村氏は自らMSRのモニターに登録し、「顧客目線で評価するとはどういうことか」を実際に体験してみたという。「MSRの仕組みや効果を現場のスタッフに伝えようと思っても、なかなか具体的な想像がつかず、下手をすれば警戒されてしまいます。そこで、まずは自分が体験し、自分の言葉で説明できるようになる必要があると思ったのです」(松村氏)。人に動いてもらうには、実感が伴った言葉で伝えなければならないと松村氏は話す。結果、当初の警戒心は徐々になくなり、今ではMSRの意義や効果を現場がしっかり理解し受け止めるまでに至っている。

MSRの結果は、毎月首都圏および近畿圏で実施している「サービスミーティング」で共有。各店舗から一人以上の担当者を決めて参加を促し、境遇が似ている店舗の担当者同士でグループをつくり、他店の結果を参考にしたり、どういう店にしていくべきかというビジョンを話し合ったりしている。担当者には、ミーティングの場で得たことを店舗に持ち帰ってほかのスタッフに波及させる、CS・ES向上の原動力となってもらうことを期待している。「店舗ごとに温度差があるのは否めませんが、担当者が旗振り役となり、施設内でチームを築いていって欲しいと思っています。そのためのサポートが、私たちの課題ですね」(桐畑氏)。

都内最大級のフィットネス&スパ施設備える新宿店。例えば写真の屋外プールは冬でも快適に利用できる。


CSとESは不可分。現場の活性化に注力

スタッフが仕事に生き生きと取り組めていれば、それがホスピタリティの発揮につながり、CSが向上し、ひいては存続率や業績にかかわってきます。

さらに、MSRで分かるCSのレベルは、そのままESの把握にも役立つとサービス推進本部では実感しているという。サービス面におけるCSが低い場合、その背景には往々にしてスタッフが真摯に仕事に取り組めていないという課題がある。なぜサービス向上に全社を挙げて取り組むのか、その意義が理解できていなければ、本部や店舗マネージャーに言われたから、と表面的な笑顔や声かけをするだけになってしまう。それでは、顧客に本当に満足してもらうことは難しい。

「仕事に生き生きと取り組めていれば、それがホスピタリティの発揮につながり、CSが向上し、ひいては存続率や業績にかかわってきます。MSRの結果を細かく読み解き、何をどうすればいいのかを現場で考えて試す材料にしていきたいですね」(松村氏)。

同社のES向上施策は、店舗のスタッフだけでなく、本社勤務の管理部門などでも実施している。たとえば、本社内の休憩スペースに掲示された「笑顔ボード(写真上)」もその一環だ。顔写真と名前を載せた社員一人ひとりのカードを、血液型や出身地といったテーマごとに分類し紹介していくというもの。本社には店舗のマネージャーやスタッフが直接来たり、彼らからの電話に対応したりすることも多いが、日ごろの業務で密な接点がないので顔と名前が一致せず、どうしてもよそよそしい雰囲気になりがちだったという。加えて、比較的年齢層が高い本社の内勤スタッフ同士のコミュニケーションも、人数が増えるにつれ滞りがちになってきていた。それらを改善するために『笑顔ボード』のような取り組みを積極的に実施している。「ささやかな施策かもしれませんが、社内の雰囲気は確実によくなっていると思います」(松村氏)。

本社内の休憩スペースで展開している「笑顔ボード」。本社を訪れる現場スタッフとの交流のきっかけにしているほか、本社の社員同士のコミュニケーション促進にも役立っている。


小野寺社長は、「同業他社を見るのも大事だが、それ以上に他業界でうまくいっているサービスを参考にするべき」と話しているという。「スポーツクラブは全国各地にあり、一般的なサービスになってはいますが、それでも日本の人口を考えるとまだ3%ほどの人しか利用していません。ここからさらに飛躍するためには、業界の垣根を越えて、いま一般の人に受け入れられているサービスに目を向けて学んでいかないといけないと思っています」(桐畑氏)。顧客、そして従業員に真摯に向き合う姿勢をベースに、さらなる成長につなげたい意向だ。

海を一望できる眺望を持つ横須賀店。体をメンテナンスするだけでなく、楽しみながら心までリラックスできる施設だ


記事のPDFをダウンロード

この記事を読んだ人は、こんな記事も読んでいます。

無料メルマガ会員に登録すると、メールマガジンで
「最新記事」や「無料セミナー・イベント」
情報が届きます!

pagetop