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スタッフの自主性を伸ばして、顧客が「楽しめる」店を実現

株式会社コスメネクスト

http://cosmestore.net/company/


『季刊MS&コンサルティング 2011年秋号』掲載
取材:西山博貢、文:高島 知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

「@cosme(アットコスメ)」といえば、今や女性なら知らない人はいないほど親しまれている、日本最大級の化粧品クチコミサイトである。そのサイトと連動した店舗が、2007年3月に1号店をオープンした「@cosme store(アットコスメストア)」だ。サイト上で人気の商品をはじめ、ブランド横断的にさまざまな商品を扱っていること、またお客様の側に立った接客がリピートを促している。

「比較して試したい」ニーズを正面から捉えた店舗

今では珍しくない“クチコミサイト”や“レビューサイト”だが、99年末にオープンした化粧品クチコミサイト「アットコスメ」は、それらクチコミサイトのパイオニアともいえるだろう。さまざまなブランドの化粧品について横断的に、かつ膨大に一般ユーザーの意見が聞ける仕組みは、多くの女性に受け入れられ、現在ではユニークユーザー600万人、クチコミ件数800万件という規模になっている。

アットコスメがプロデュースする「アットコスメストア」は、その名の通り、同サイトと連携した店舗だ。売り場には、サイトのコンセプトと同様に、多数のブランドの化粧品が並列に置かれている。複数ブランドを扱うという点では百貨店やドラッグストアも共通しているが、同店の際立った魅力は、複数ブランドの商品を比較しながら紹介してもらったり、試したりできる点にある。サイト上でのランキングを表示するランキングコーナーや、人気商品が試せるトライアルコーナーなど、他の化粧品販売業態にはない独自の販売方法を採っている。

同店を運営するコスメネクスト取締役の遠藤宗氏は、同店の特長についてこう話す。「化粧品の販売方法には、百貨店などで販売員がお勧めする『カウンセリング』と、ドラッグストアなどでお客様が自分で選ぶ『セルフ』があります。百貨店の販売員は通常ブランドに所属していて、自社ブランドについてのみ説明します。ですが、お客様の側からすれば、ブランドAとブランドBの化粧水を比べたい、というケースが非常に多い。そこでアットコスメストアでは、ブランド横断的に対応できる販売員を置き、なおかつお客様自身でも自由に試せるコーナーや環境を充実させて、カウンセリングとセルフの両軸をカバーできるようにしたのです」。

この意図は、「違うブランドの商品を比べて選びたい」「説明を聞きたいときもあるが、自由に見たいときもある」といった女性のニーズを真正面から汲むこととなり、旗艦店のルミネエスト新宿店は現在1日1500人から2500人の来客がある状態だ。6店舗全体の月間来客数は15万人にも上っている。

コスメネクスト取締役の遠藤宗氏。同社は「アットコスメ」を運営するアイスタイルの100%子会社。


化粧品クチコミサイトとして女性に親しまれている@cosmeとの連携により、他店ではできない情報提供や売り場展開が可能になっている。サイトでクチコミをチェックして、店舗で試したり、実際にアドバイスを受けたりと、お客様にとって自然な流れが構築されている。


顧客満足の結果でしか客単価は高まらない

同社では、前述の「セルフ」と「カウンセリング」の間に、「ナビゲーション」そして「ライトカウンセリング」という購買方法があると考えている。ナビゲーションとは、たとえばアットコスメのサイトを反映したランキングやクチコミPOPなどのガイドを使ったもの。ライトカウンセリングは、無料の肌診断などだ。同店のスタッフは、ナビゲーションの設置およびライトカウンセリングにあたりながら、ブランド横断的な商品紹介を行っている。

ブランド専属の販売員はそのブランドしか勧めないのが当然だが、それゆえにお客様にとっては「その商品が本当に自分に合っているのか」という不安や、「ブランドは好きだが全てを揃えられるほどの経済的余裕はない」というようなハードルもある。それらを取り払ったのが、アットコスメストアの接客だ。

遠藤氏は、同社の方針として、「お客様一人当たりの単価は追わない」ことを挙げていると話す。「当店のコンセプトは、『楽しく選べる』こと。客単価を上げろと指示すれば、どうしても購入を無理に促す雰囲気が出てきてしまいます。客単価は、お客様が満足した結果でしか高まりません。だから、お客様に満足していただき、また来ていただく、そのサイクルを縮めようというのが店舗との共通認識です」。

現在都内5店舗、福岡に1店舗を構える。いずれも坪数や客層が異なるため、「常に模索中」と遠藤宗氏。


接客をMSRで確認、接客の「量」と「質」を向上へ

リピートやクチコミによる新規顧客の誘引を推進するため、同社では接客の“量”と“質”をそれぞれ向上させようと取り組んでいる。

“量”とは、お客様への声かけの回数などを指す。会員客はもちろんのこと、より多くのお客様にアットコスメストアの楽しさを知っていただけるよう、新規のお客様への声掛けにも力を入れている。同時に、来店客数や買い上げ率などの数値の推移も随時確認している。

“質”とは当然、接客のソフト面のことだ。接客の質を向上させるために、1年ほど前からミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)を導入している。「お客様にご満足いただけなくても、それは『もう来ない』という形でしか表れません。どうしたら接客の質を確認できるかを思案していたところ、ある化粧品メーカーのセミナーでMS&Consultingさんの話を聞き、導入することにしました」。


毎月の調査結果について、「『また来たい』の度合いとコメントを大事に見ようと伝えていますが、現場ではどうしても点数を意識してしまうようです」と遠藤氏は笑いをこぼす。興味深いのは、MSRを導入してしばらく経つと、特に指導をしていないのに「経営側が『こうあってほしい』と思うことが、現場から『こうしたらいいのでは』と自然に挙がるようになってきた」ことだ。MSRの結果を受けてスタッフが書くレポートも、明らかに毎月内容が濃くなってきているという。

「導入時のヒアリングを経て、当社の考えや方向性に即した項目を独自の調査票に落とし込んでもらっていますが、それも手伝って、MSRを重ねる毎にスタッフの意識が理念に向かい、CS向上に確かに反映されているという手ごたえを得ています」。さらに同社では、社員のみならず、店舗に常駐する各メーカーの美容部員にもMSRの結果をシェアし、レポートを書いてもらっているという。職務に違いはあっても、お客様から見れば、メーカーの美容部員もアットコスメストアのスタッフも同じだ。こうしてお客様の声を共有することで、現場の一体感も高まる。

MSRの調査結果はデータで送るのではなく、遠藤氏が自ら必要な人数分をプリントアウトして各店舗に毎月郵送しているという。現場が業務に専念できる心配りも、事業の成長に無関係ではないだろう。


徹底的な権限委譲が店舗を活性化させる秘訣

とはいえ、化粧品はアイテムもブランドも価格帯も幅広く、その中から多様なお客様のニーズに応えるのは容易ではない。こうした難しさを、同社では、自主性の高い正社員が接客スタッフを務めること、そしてそれを前提に店づくりの大部分を現場に権限委譲することでカバーしている。

「必要な知識だけでも膨大なので、仕事という以前に元々化粧品が好きで、自主的に学んでいける人でないと、当店のスタッフは務まりません。また、そうした姿勢をバックアップする意味でも、店舗運営のほとんどの部分をスタッフに任せています。自由度が大きい分、ハードな仕事でもあるので、レジを除くほとんどのスタッフは正社員です」と遠藤氏。それに、スタッフ自身のCSに対するこだわりも強く、店舗運営を効率化するため、たとえば商品陳列のためにアルバイトを入れる提案をしたこともあったが、現場からは自分たちで行いたいとの声が上がったという。品出しや値札付けの作業を自ら行うことが、商品知識の充実につながるとの意見だ。

上野店カウンセリングカウンター。


同社の権限委譲の幅は業界では異例なほど大きく、陳列展開や発注する商品の選択、売り方に至るまで、すべて店舗毎に独自で行う。スタッフとなる社員の最終面接には店長が参加し、最終決定には店長の意見が最も尊重されるというから、その姿勢は徹底している。

「自分たちの店だというオーナーシップを持ってもらうためには、店長をはじめスタッフを信頼し、とことん任せることが重要だと考えています。もちろん、我々経営陣が事業展開の責任を負っていますし、店舗のあるべき姿を描き、方向性を示します。また店長たちとも情報共有やディスカッションを密に行っていますが、お客様との接点があるのは現場ですから、そこに“指示待ち”のスタッフがいても仕方ありません。店舗の自主性に任せるのが当社の文化でもあるので、店長はもちろん、スタッフ一人ひとりもどんどん自分で考えて、お客様のためにいろんな施策を試してくれています」。

カウンセリング:メーカー・ブランドに捉われず、横断的かつ気軽にカウンセリングを受けることができ、自分で選ぶための工夫も随所に施されている。

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顧客満足とは、同店に当てはめれば「来て楽しかったかどうか」ということになる。遠藤氏は現場のスタッフに、「迷っているお客様には『今日は試すだけでかまわない』とお客様にどんどん言っていい」と伝えているというが、こうした指針をスタッフが自分たちのやり方で具現化することで、お客様が自由に楽しめる店舗が実現している。

実際のところ、化粧品業界全体は、通販以外は右肩上がりとはいえない。そんな中、お客様志向の店づくりが多くのファンを捉えているアットコスメストアに、協力を申し出るメーカーも少なくないという。「同じ業界にいる者同士、どうしたらお客様により満足していただけるのかを一緒に考えて、業界を盛り上げていきたい」と遠藤氏。成長企業としてだけでなく、業界の牽引役としても、今後の展開に期待がかかる。

ライトカウンセリング:肌診断機を使用したお肌チェックやお悩みをお聞きして、お客様にあった商品と使い方を提案する。


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