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人的資本経営時代のリスキリング、企業が知るべき重要性と取り組み方

リスキリングとは、今とは違う業務に就いてもらうために、従業員に新しいスキルを身につけさせることです。DXに対応できる人材の不足などを背景に、社内に足りないスキルを獲得する方法のひとつとして注目が集まっています。また、本記事で解説する「リスキリングへの取り組み方」や「従業員の学習を成功させるポイント」には、人材育成のヒントが詰まっています。リスキリングの導入を考えていない方もぜひご参考になさってください。

目次[非表示]

  1. 1.「リスキリング」とは?
  2. 2.「アップスキリング」「リカレント教育」との違い
  3. 3.企業がリスキリングに取り組むメリット
  4. 4.リスキリングが注目される背景
  5. 5.人的資本経営時代のリスキリング 「5つのステップ」
  6. 6.リスキリングを行う時の注意点 「学ぶ意欲が生まれる環境づくり」
  7. 7.まとめ

「リスキリング」とは?

リスキリングは、英語では「Re-skilling」と表記され、「職業能力の再開発」などと訳されます。ひらたく表現すると、「企業が従業員に新しいスキルを身につけさせ、そして、新しい業務に就かせること」を指します。
 
企業経営の文脈でリスキリングに取り組む際は、成長分野や新規事業に人材をシフトすることで、雇用を守りつつビジネスを成功させるためのリスキリングとなりますので、①新しい業務に就くことが目的のスキル獲得、②企業主導の学び直しという特徴を持った能力開発の手段になります。

似た言葉と比較すると、リスキリングについての理解が深まります。次に「アップスキリング」と「リカレント教育」との違いについてみていきましょう。
 

「アップスキリング」「リカレント教育」との違い

●アップスキリング とは?

アップスキリングとは、「現在の業務の専門性をさらに高めるために新しいスキルを身につけること」です。現在の業務のための学び直し=アップスキリング、新しい業務に就くための学び直し=リスキリングである点が大きな違いです。
 

●リカレント教育 とは?

リカレント教育とは、就労と学習を繰り返すことでスキルを磨いていく手法です。新しいことを学ぶために現在の職を休職または離職することを前提にしており、「働く→学ぶ→働く→学ぶ」のサイクルを繰り返しながら、個人が継続的に学ぶ取り組みのことを指します。

学習を終えた後、従業員は元の職場に復帰する場合もあれば、身につけたスキルを生かして新たな職を探す場合もあります。つまり、リスキリングは企業が従業員に課す教育である一方で、リカレント教育は従業員の自発的な学びである点が両者の違いです。 


《リスキリングの位置づけ》

図1_リスキリングとアップスキリング、リカレント教育の違い_人材開発、従業員育成を考える​​​​​​​

●リスキリングの具体例

さて、言葉の定義が続いたので、企業がリスキリングに取り組むべきケースについて、具体的なイメージが持てるよう、次に一例をご紹介します。

■業務効率化を進めるため、現場をよく知るスタッフから人材を選びAIスキルを習得してもらう。
■顧客管理をデジタル化するため、適任者にITスキルを習得してもらう。
■オンライン販売を強化するため、適任者にデジタルマーケティングを習得してもらう。

このように、現在はDXを推進するために、デジタルスキルを持った人材を育成することを目的にしたリスキリングが多くなっています。

しかし、リスキリングの考え方やノウハウは、次のケースのような、企業が新しいビジネステーマに取り組むため、自社に今いない人材が必要になるケースにおいても応用が可能です。


■高価格帯の業態を出店する戦略があり、求められるサービス品質を提供できるスタッフが新たに必要になった。
■顧客の環境意識の高まりに対応するため、リサイクルプログラムの推進やサステナブルな素材についての専門家が必要になってきている。


人手不足の現在においては、「外部からの人材採用」とともに、「リスキリングによる社内からの人材獲得」も念頭において人事戦略を考えることが重要になります。

企業がリスキリングに取り組むメリット

さて、リスキリングにはどのようなメリットがあるのでしょうか。次に4つのメリットを整理します。

●人手不足への対応
自社に足りないスキルを持った人材を確保することができます。特にデジタル技術やAIに強い人材など、需要に供給が追いついておらず採用が難しい人材の確保において、リスキリングは有効な施策です。


 企業文化に馴染んだ社内の人材を活用できる
外部からの人材採用の場合、他部門との人脈の構築や仕事の進め方に慣れるまで時間がかかります。スムーズに仕事を進められる社内人材を最大限に活用できる点はリスキリングの メリットです。

競争力の向上
リスキリングの一連の流れを構築することができれば、変化する市場に対応するための最新のスキルを安定して獲得できるようになり、競争上の優位性を確保できます。

 ●離職率の低下
リスキリングは、従業員からすると新たな成長の機会、新たなキャリアパスとなります。スキルや可能性を引出してくれる機会がふんだんにある環境では、従業員のエンゲージメントが高まり、 離職率の低下にポジティブな影響を及ぼします。また、最新のスキルにチャレンジできる環境があることは、採用市場においてもポジティブな影響があります。

リスキリングが注目される背景

●技術的失業の時代

リスキリングという言葉に火をつけたのは、世界経済フォーラムです。

2018年から3年連続でリスキル革命をテーマとした会合が行われ、2020年のレポートでは、「第4次産業革命によって8,500万件の仕事が機械などに置き換えられる一方で、9,700万件の新たな仕事が生まれると予想される中、今のスキルセットでは対応しきれない」「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」ことが宣言され、世界に衝撃を与えました。


このように、デジタル産業や成長産業で雇用の絶対数は増えるにもかかわらず、新しく増える雇用に必要なスキルを多くの労働者が持っていないために失業が生まれる「技術的失業」という社会課題が深刻になってきています。そして、この「技術的失業」を少なくしていくためには、衰退産業から成長産業へ労働者が移動できるようにする必要があり、リスキリングに大きく注目が集まっているのです。


職種別の人材需給ギャップ(2015 年対比)

※出所:三菱総合研究所「内外経済の中長期展望 2018-2030年度」


●人的資本経営の時代
人的資本経営の流れからもリスキリングに注目が集まっています。
 
「人的資本経営」とは、人材に積極的に投資し、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値を高めていく経営手法です。産業構造が変化する中で、人的資本や知的財産などの「無形資産」が企業の競争力を左右するようになってきており、注目が集まっている経営手法です。

その重要性から、上場企業においては、2023年3月決算期より有価証券報告書で人的資本に関する情報の開示が義務づけられたことは記憶に新しいかもしれません。



さて、この人的資本経営の取り組みをシンプルに整理すると、次の2点を実行する経営になります。

1.経営戦略を実現するために必要な「人材の質と数」を特定する
2.現在の人材状況とのギャップを埋めるための人材戦略を立案・実行する


つまり、人的資本経営は、これまでのように既存の人材やスキルを出発点に経営戦略を考えるのではなく、経営戦略を出発点として必要な人材やスキルを特定し、確保していく経営と言えます。

そして、ビジネス環境の変化の速さ、人手不足時代といった経営環境の中で、必要な人材と現状の人材のギャップをスピード感を持って埋めていくためには、自社の外から必要人材を持ってくる採用施策だけでは十分とは言えなくなってきています。そこで、リスキリングに関心が高まっているのです。


経済産業省が2022年にとりまとめた「人材版伊藤レポート2.0」では、人的資本経営の実行に向けて「人材戦略に求められる3つの視点・5つの共有要素」が整理されていますが、リスキリングは共通要素のひとつとして示されています。

【関連記事】人的資本経営とは?その基本から成功事例まで総解説 
【関連記事】人的資本の情報開示義務化とは?簡単解説

人的資本経営時代のリスキリング 「5つのステップ」

リスキリングは、あくまで経営戦略を実現するために必要な人材を社内から獲得するための取り組み(人材戦略)となります。この観点から考えると、人的資本経営への取り組み方と整合性の取れた進め方を意識することがおすすめです。次に、リスキリングに取り組む際の5つのステップをご紹介します。


《リスキリングの効果的な進め方—5つのステップ》

ステップ1.経営戦略と現在の人材のミスマッチの測定
企業経営におけるリスキリングの目的は、新たな経営戦略を進めるに当たって、足りない人材を獲得することにあります。そのため、経営戦略から逆算して、既存の従業員において何のスキルがどのくらい不足しているのかを測定することが最初のステップとなります。

ステップ2.ミスマッチを埋める方針の選択
人材のミスマッチを埋める施策はリスキリングに限らない点に注意が必要です。リスキリング以外の代表的な人材獲得手法は「採用」や「M&A」です。これらの施策とのメリット・デメリットを比べた上で、自社にとってはどの方法が最適か判断します。ブームになっているリスキリングを導入するためのリスキリング計画とならないように注意することが必要です。


自社に適した人材獲得の手段を選ぶ
図2_リスキリングへの取り組み方_人材獲得手段の種類_人材開発、従業員育成を考える


ステップ3.リスキリング対象人材の選定、キャリア目標のすり合わせ
人材ギャップを埋めるためにリスキリング施策が有効と判断したスキルについては、「対象人材の選定」を行います。近しい業務にすでに従事している、学習意欲や能力が高いなどの要件で人材を選定し、評価面談や1on1などを通して、個々人のキャリア目標とすり合わせていきます。

ステップ4.学習環境を用意する
教育手法には、「社内研修」「社外研修」「オンライン講座」「外部教育機関への参加費補助」「他社留学」「越境学習」などさまざまな手法があります。対象者やスキル内容に合わせて、最適なものを選択しましょう。また、リスキリングは企業主導で行う「業務」になります。業務時間内に学べる学習環境を用意することも重要です。


ステップ5.リスキリング人材を新しい業務に就ける
学んだ後は、本来の目的である新しい業務へ就かせて、成果を出してもらうことを促します。

リスキリングを行う時の注意点 「学ぶ意欲が生まれる環境づくり」

リスキリングに取り組む際は、日本のビジネスマンの多くが、自身のキャリアを磨くための学習習慣を持っていない点を知っておくことが必要です(下図)。「Eラーニングを導入したが従業員がほとんど使わなかった」といった苦い経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。


「スキルアップのために自己負担で実施しようと思っていることがある」と答えた者の比率
(週24時間以上の勤務をする18~65歳の 労働者を対象に調査)

※出所:ランスタッド株式会社「ランスタッド・ワークモニター(2017年)」


日本のビジネスマンが怠慢なわけでは決してありません。リスキリングに取り組む際は、日本のビジネスマンの学習意欲を下げている原因を理解した上で、仕組みを構築することが重要です。以下に、日本の環境をふまえた「学ぶ意欲を生み出す環境づくり」について、具体策をご紹介します。

●学習への挑戦が報われる会社にする

日本は諸外国と違い、新たなスキルの獲得によって自分の年収がいくらあがるのかがわかる賃金相場がありません。つまり、努力してスキルを獲得したことによって「年収」や「ポスト」といった報酬を得ることができるのかわからないということです。

努力の先の魅力が曖昧なままで学習努力を促すのは困難です。リスキリングに取り組む際は、このような日本ならではの背景を理解し、学習の努力の先にある魅力・報酬を会社が準備することが大事です。取り得る具体策を下記に例示します。


・人事評価制度と連動させる
新たなスキルの獲得が、本人の昇給や昇格に直結するように制度を設計します。
・キャリアパスを提示する
採用市場における自分の価値が高まる「経験」という報酬を提示することも有効です。例えば、十分なスキルを獲得できた場合は新規事業立ち上げのメンバーの候補になることを示し、イノベーションの実践という経験を得られることを明示します。


●リスキリングに対する社内の理解度を高める

担当部署がどれだけリスキリングの重要性を訴えても、経営層の熱意や直属の上司の理解がなければ、現場の従業員は動きません。リスキリングを推進する部署だけで導入を進めるのではなく、社内の協力体制を構築することが成功のポイントです。

また、日本のビジネスマンの学習習慣がない一因として「長時間労働」の問題があります。リスキリングはあくまで企業主導のスキル獲得になるため、学習時間の確保への理解も重要です。


・経営層からの定期的な発信
経営戦略の実現にはリスキリングが重要であることを、経営層が繰り返し発信し、優先順位の高い戦略であることを示し続けることは、従業員の学習意欲を高めます。
・上司の理解を促す
上司に学ぶ姿勢があると部下も学ぶようになることがわかっています。「上司自身が学ぶ姿を見せること」「学ぶことの重要性への理解を促すこと」、また、「1on1などを通した学習サポート」といった環境づくりも重要です。



●従業員自身が選択する

 キャリア形成についての教育を受けることが少ない日本においては、自身のキャリア設計を明確に持っている人が少ない傾向にあります。目的意識がないところに、学習意欲は長続きしません。従業員が自分自身でリスキリングの機会に挑戦する/しないを自然と選択できる環境づくりが重要です。

・目標管理制度(MBO)の活用
目標管理制度は、組織目標とすり合わせながら個人目標を定め、その進捗や達成度合いによって人事評価を行うマネジメント手法です。人事評価と連動したこの制度の仕組みの中にリスキリングを織り込むことは有効な施策です。
・キャリア面談や社内公募制度の運用
従業員が自身のキャリアを自律的に考えられるよう促すキャリア面談の実施や社内公募制度の運用も、従業員自身の主体性を引出すために有効な施策です。

まとめ

人材不足の時代に、必要な人材を社内から調達してくる「リスキリング」という手法論をご紹介しました。リスキリングはまだ生まれて間もない手法論ですが、成功させるポイントには、日本企業にこれまで欠けていた「社内人材を活性化させるヒント」「学習の意欲を高めるヒント」が詰まっています。人的資本経営の観点からも、今後もその進化を注視すべきテーマと言えます。

また、MS&Consultingでは多彩な管理職研修を提供しています。社内だけでは補えない人材育成テーマについて、お気軽にご相談・お問合せ下さい。

チーフコンサルタント 児玉彩子
チーフコンサルタント 児玉彩子
慶應義塾大学 経済学部を卒業後、経営コンサルティング会社に入社。多岐にわたる業界の組織開発コンサルティングに従事。2008年よりMS&Consulting所属。顧客満足度、ならびに、従業員エンゲージメントを高めるコンサルティングを担当。また、従業員エンゲージメントに関するノウハウ研究、コンテンツ執筆も担当。JHMA認定ホスピタリティ・コーディネーター。

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