【第6回外食クオリティサービス・フォーラムレポート】 利益率改善とCISの両立。その基盤になるのは理念の浸透



クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社

URL:https://krispykreme.jp/
本社所在地:東京都渋谷区渋谷3-10-13 渋谷Rサンケイビル8階
設立:2006年6月
店舗数:直営30店(2012年1月末日時点)
ブランドメッセージ
Creating Magic Moments ~魔法の瞬間を創り出そう
展開する全ブランド
クリスピー・クリーム・ドーナツ


※記載されている会社概要や役職名などは、講演(掲載)当時のものです。ご了承ください。


爆発的な人気の影で発生してしまった課題

世界規模で事業を展開するクリスピー・クリーム・ドーナツが日本に上陸したのは、2006年12月のこと。豊かな味わいと甘みが特徴的なドーナツのみならず、店内での製造過程が見える店の造りやサービスの質の高さも話題を呼び、行列が絶えない状況は連日メディアで報じられた。

その売上は、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンの当初計画をはるかに上回り、想定売上高の十数倍を記録した。顧客のニーズに応えるべく、さらなる出店やスタッフ数の増加に力を入れ、3年目までは好調に増収・増益を重ねた。


だが、そうして迎えた4年目。ブランドが世間に浸透するのと時を同じくして、伸び続けていた業績が停滞期に突入した。「大きな原因は、大行列でスタートを切ったことです。それ自体は非常に喜ぶべきことでしたが、その人気に何とか対応してきた結果、企業風土から体質に至るまで様々なひずみが出てしまいました」と、代表取締役社長の上田谷真一氏は話す。

ホットライトが光っている時は、オリジナル・グレーズド・ドーナツが作られているサイン。クリスピー・クリーム・ドーナツだけのおいしさ。

当時、具体的には次の3点が課題となっていた。まず、顧客の要望に応えるべく日々の生産に集中するあまり、十分な理念教育を施せず、企業理念や行動規範を見失っていたこと。

2つ目が、利益率の低下。売上が爆発的に高かったが故にドーナツという気軽な食べ物を扱う店としての適正なコストが見えづらく、人気が落ち着くにつれて収支モデルのバランスの悪さが表面化していった。

そして最後が、スタッフが保守的思考に傾いたことだ。「店舗を回すのに精一杯で、本来はマルチタスクであるべきスタッフたちが分業化して部分最適となり、新しいチャレンジにも目が向きにくくなっていました」(上田谷氏)。


実行の前に理解が必要。理念を簡潔に

メディアを賑わした立ち上げ期を経て、いわば“平常運転”に戻った状態で明らかになったこれらの課題に対し、まず実施したのは「目指すゴールの簡素化」だった。

「もちろん、開業時から理念や行動規範はありましたが、社会人経験の少ないアルバイトスタッフが忙しい中で理解するには複雑過ぎたことに気付きました。簡潔でなければ記憶されず、記憶されないことが実行されるはずはありません。そこで、ブランドメッセージを『Creating Magic Moments~魔法の瞬間を創り出そう』に統一し、スタッフにはこの概念の浸透を徹底的に促しました」。全社での利益率改善とCIS向上の両方を考えた結果、顧客に素敵な時間を過ごしてもらうことこそが事業のベースにあると打ち出した。


利益を圧迫していた人件費の削減にも着手。ここで同社が取った策は、「従業員の自主性を伸ばすこと」。本部の判断でスタッフ数を減らせば、当然現場に無理がかかる。そこで、丁寧なシフト管理で人件費をコントロールしつつ、スタッフのモチベーション向上を図った。「日本人のスイーツに対する感覚は非常に優れているので、スタッフに『お客様がどうしたら喜ぶか』を積極的に考えてもらうようにしたのです。その結果、ハロウィンやクリスマス時期の特別商品などが生まれ、また顧客の話題を呼ぶようになりました」。


さらに、密なミーティングによる本部と店長との意識の統一、他の外資系ブランドとのコラボレーション企画なども積極的に展開した。これらの活動の結果、5年目となる2010年の業績はプラスに転じ、2011年はさらに2桁の増収・増益を達成。見事、V字回復を果たした。

現在同社では、ミステリーショッピングリサーチを使ったミーティングの実施や店舗ごとの販促施策の推奨、また年2回の事例共有会を通して顧客のリピートを促している。昨年から始めた接客コンテストもスタッフの活性化に効果を発揮している。「当社にとってのバブルは終わり」との上田谷氏の言葉は、今後の堅調な成長を感じさせた。

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