
飲食店の「多店舗展開」を成功させる運営戦略―VANSANの挑戦―
2014年の1号店オープンから10年余りで91店舗まで店舗数を拡大するなど、急成長している株式会社VANSAN。その成長の土台には「どの店舗でも同じ顧客体験を再現する」ための人への投資や仕組みづくりがあります。今回は、その成長を支える独自の運営戦略について、同社マーケティング部ならびに運営部 部長の金澤 鉄哉氏 にお話を伺いました(本記事は2025年7月に開催したセミナーの講演レポートです)。
VANSANが多くのお客様に支持される理由
私たちのブランドVANSANは、「高級イタリアン」と「ファミリーレストラン」のちょうど中間にあたるポジション――私たちは「カジュアルイタリアン」と呼んでいます――を狙っています。
具体的には、手づくりの料理、お客様の目の前で仕上げるなど「ちょっと驚きの体験メニュー」、そして、人の温かさが伝わる接客。こうしたコンセプトを大切にしながら、自宅の近所でちょっと贅沢な食事をしたい時に選ばれるお店になれるように取り組んでいます。
【図1】VANSANが目指すポジション

VANSANは、この「カジュアルイタリアン」というポジションを確立できたことで、ママ会、ファミリーでの食事、職場の飲み会、カップルのデート、そして、近隣にお住まいのお客様の普段使いまで幅広い利用シーンでご利用いただけるブランドに育ちました。結果的に、再来店率はとても高くなっています。
また、駅前などの一等地ではなく、住宅街など地元の人が気軽に歩いて来られる場所にも出店が可能で家賃を抑えられることもあり、直営店の投資回収期間は平均2.3年と高い水準にあります。

お話を伺った、同社 マーケティング部・運営部 部長 金澤氏
多店舗展開を支える運営戦略
先述の通り、VANSANは「高級イタリアンとファミリーレストランの中間」を狙ったブランドです。
このポジションで提供する接客には「正確さ・スピード・基本的な丁寧さ」にプラスして「ちょっとした感じの良さ」が必要だと私たちは考えています。例えば、お子様連れのお客様に声をかける、SNS映えする料理を提供する時に一言添えるといった柔軟な対応です。

「ちょっと驚きの体験メニュー」はSNSで拡散され口コミや集客につながっている。
これを実現する「運営力の高さ」や「温かさが伝わる接客」など"人"がVANSANの強み
VANSANの多店舗展開が成功している理由のひとつは、この「スタッフ一人ひとりの接客力で作られるお店での体験」がお客様に支持されているからです。しかし、人の力で作られる顧客体験を、フランチャイズを含めた全店舗で再現するのは決して簡単ではありません。VANSANでは、それを可能にするために「3つの仕組み」を中核に据えた運営戦略を展開しています。

仕組み1|理念浸透
笑顔で挨拶しましょうと決めても、そこに「心」がないと良い接客にはなりません。そのため、私たちは"感動創造"という経営理念に対するスタッフ一人ひとりの理解を育むことに力を入れています。
各研修の中で理念の意味を伝えたり、Eラーニングシステムでいつでも理念について学び直しができる環境を整えているのはもちろんですが、理念は行動につなげてこそ意味があります。VANSANでは「伝える→理解する→行動につなげる→継続する」というステップを丁寧に踏みながら、理念浸透を図っています。具体的には【図2】のように、理念浸透を毎日の流れ、毎月の流れに組み込み、学んだ理念を行動につなげてもらう流れを意識的に作り出しています。
【図2】理念を行動につなげる流れ

仕組み2|店舗状態のダッシュボード化
多店舗展開を支える2つ目の仕組みは「店舗状態のダッシュボード化(重要なデータの一覧化)」です。理念の浸透度を含め、各店が今どんな状態にあるのかをリアルタイムに確認できます。
【図3】はダッシュボードの画面例です。今日の現時点までの売上、予算達成率、現在の配席状況、今の出勤人数が一覧でわかります。以前だったら電話や臨店で確認していた、「忙しいのにホールが回ってない」といった状況の原因が店舗に行かなくても数十秒で把握できます。
店長は現状を正しく判断できますし、本部やSVも、どの店舗の調子が悪いのか、それはなぜか、そして、どう支援すべきかをスピーディーに意思決定することができます。
【図3】ダッシュボード画面例
各店の状態をリアルタイムに把握できる

ダッシュボードでは、営業数値だけでなく、「衛生検査の結果」や「顧客満足度(CS)評価」「従業員満足度(ES)評価」といった、店舗の土台の状態をつかめるデータも見える化しています。
ES評価は半年に1回の頻度でMS&Consulting社の「tenpoketチームアンケート」を行っていますが、私たちの調査では、ESスコアが高いSランクの店舗群は、スコアが低いBランクの店舗群に比べて、売上予算達成率もCS評価も明らかに高いという結果が出ています【図4】。ESスコアは「店舗運営の質を高めるスタート点である」という考えから、私たちはESスコアも把握すべき指標としてダッシュボード化しています。
このように、店舗で起きている状態のすべてをダッシュボードで迅速、かつ、リアルタイムに確認できることがVANSANの営業の質を支えています。
【図4】ES評価による成果の違い
ESの状態で予算達成率からCSスコアまで明確な差が出ている

仕組み3|コミュニケーションラインの確立
多店舗展開を支える3つ目の仕組みは「コミュニケーションラインの確立」です。この仕組みの本質は「賞賛」です。教育内容はEラーニングシステムやOJTチェックなどで標準化されていて、全店で再現性のある運営ができるようになっています。一方で、それだけではマニュアル通りの仕事どまりです。だからこそ、VANSANでは賞賛の場を意図的に設け、「やらされている」から「自分でやる」という自分事への転換を促しています。
①ありがとうバッジ
MS&Consulting社が提供するtenpoketトークの「ありがとうバッジ」機能を使って、スタッフ同士で感謝や賞賛を贈りあえるようにしています。1ヶ月で1,000件を超えるバッジがやり取りされる店舗もあります。スタッフはバッジに書かれた内容を見ることで「どんな行動が感謝されるのか」「どんな行動がお客様や仲間に喜ばれるのか」を自然と学ぶことができ、理念的な行動が少しずつ増えていく仕組みです。
【図5】ありがとうバッジ機能
理念的な行動モデルが日常的に可視化・学習される

②表彰と成功事例の共有
毎月の店長会議で「優秀スタッフ表彰」や「成功事例の共有」を行っています。また、半年に1回のVANSANフォーラムでは「優秀店舗表彰」と「成果発表(理念をどう実行し、どのような成果につなげたのかの発表)」を行っています。さまざまな取り組みが共有されますが、パートナー含めた全員の理念に対するモチベーションが高まる機会、自店で理念を実現するには何ができるのかを考える機会になっています。

「賞賛の機会」を意図的に作りだしている
③OJTチェック
パートナーのスキルやマインドを星1つから5つのグレードで評価する「OJTチェック」を毎月行っています。全スタッフに、自分の現在地と次の目標を把握してもらうための仕組みですが、同時に、目標設定や目標を応援することを通して、店長とパートナーの間に信頼関係が生まれる仕組みにもなっています。
【図6】OJTチェックは「育成」と「信頼構築」の機会

今の若い世代は、承認を「褒め」ではなく「つながりの証」として捉えていると感じます。自分の存在や行動が誰かに意味を持って届いているかにモチベーションがある。だからこそ、「理念的な行動はきちんと見てもらえる、承認される」という設計が大切だと考えています。それがVANSANの「人に依存しながら、仕組みで支える運営戦略」のあり方です。
今後へ向けて
今日は全店で同じ顧客体験を提供するためのVANSANの運営戦略についてお伝えしました。これらのおかげで、VANSANは毎年店舗数を増やすことができています。とはいえ、まだ91店舗。全国のママたちに「イタリアンといえばVANSANだよね」と言われるような店舗数まで広げていきたいと考えています。
『運営品質を落とさない多店舗展開』に成功されている
VANSAN様では、tenpoketクラウドを活用されています!
※本記事は2025年7月に開催したセミナーの講演レポートです。
※監修:株式会社MS&Consulting マネージャー 角 俊英、執筆:同社 並木彩華
※記載されている数値や固有名詞などはセミナー当時のものです。
飲食 |
50-99店舗 |
多店舗展開 運営品質のばらつき改善 |













