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定着率60%→80%を実現 スタッフを元気にするバンダイナムコ流CS・ES改善とは?

株式会社バンダイナムコアミューズメント
https://bandainamco-am.co.jp/

ゲームセンター「namco」「ナムコランド」、テーマパーク「ナンジャタウン」、室内施設「あそびパーク」等を全国で250店舗以上展開する株式会社バンダイナムコアミューズメント。同社の半年以内アルバイトと契約社員(以下スタッフ)の定着率を60%から80%にまで改善させた「もっと元気チーム」の取り組みを、チーム立ち上げメンバーの営業企画ディビジョン事業企画部デピュティゼネラルマネージャーの甲斐啓介氏にお聞きした。


「もっと元気チーム」という面白いネーミングですが、発足の経緯をお教え頂けますか?

もっと元気チームは、「スタッフに元気になってもらう活動であれば何でも取り組む」というコンセプトのもと、3年前に発足しました。

当時はトップダウン色が強く、業績が芳しくない状況もあって、現場スタッフはとても疲弊していました。弊社は装置産業であるため、コンテンツによって業績が左右される部分はあるのですが、人の手がまったくいらないわけではありません。清掃、POPの設置、商品の陳列を始め、クレーンゲームで商品を取ったお客さまと一緒に喜ぶようなホスピタリティ対応など、施設を運営している以上、人の手は必要であり、それによって運営状態が変わってきます。そのため、スタッフのモチベーションアップは急務でした。

また、スタッフが活き活きと働いている企業を調べてみると、業績や顧客満足度(以下、CS)よりも従業員満足度(以下、ES)を重視していることが分かりました。みんなで究極のお客さま満足を追求しようと言っても、スタッフがやる気になっていないと、活動が進んでいきませんので、まずはESから取り掛かるべきということは必然だと思いました。そのため、1年目はES改善を行い、2年目からCS改善に取り組むと、順番をつけました。


(写真・左から)ロケーションビジネスカンパニー 施設営業ディビジョン 営業統括部 もっと元気チーム 川﨑 一則氏、乾 武史氏、甲斐 啓介氏、吉田紗綺氏、小島 敏氏


どのような取り組みをされているのでしょうか?

1年目の方針であるES改善を実現するために、まず始めに考えたのは、「もっと元気チームが出来たことで、スタッフに『何か変わった』と実感してもらう」ことでした。こちらから「これをやってください」とか「こうなりました」と言ってしまえば明らかな変化を感じてもらいやすいのですが、それではトップダウン色が強くなってしまいます。もっと元気チームは現場スタッフを元気付けるチームではなく、あくまで現場スタッフが自分たちで元気になるキッカケを作るチームでありたいと思っていました。

そこで、チームミーティングで、ボトムアップ型で「何か変わった」感を出すアイデアはないかと議論した結果、「毎日〇〇」のような日めくりカレンダーに着目し、「これの当社版を作ろう」ということで、「毎日、岩さん」という活動を開始し、1年後に冊子を作りました。

「毎日、岩さん」とは、弊社施設事業部門トップ岩屋口治夫の写真と「笑顔が一番!」など岩屋口本人考案のポジティブなメッセージを入れた365日の日めくりカレンダーです。店舗には毎日1枚ずつ配信し、「どのように使っても良いので、毎日見てほしい」とお願いしました。その結果、PCのスクリーンセーバーにしたり、休憩室に張り出したり、デスクマットにしたりと、各店舗でさまざまな使い方をしてくれるようになり、多くの店舗が朝礼の際に、メッセージを唱和し始めました。


冊子「毎日、岩さん」(一部抜粋)


毎日ポジティブなメッセージを発していると人の意識は自然と変わっていくもので、最初の頃は「これは無理だよね」と言っていたものが、「これ難しいけど、やってみない?」と、徐々に前向きな会話が生まれるようになってきました。また、写真を毎日見ているせいか、スタッフの中で岩屋口が来店するとサインや写真を求めるなどアイドル化されていきまして、店舗スタッフのモチベーションが上がり、岩屋口に来店してほしくて頑張るといった、当初想定していなかった副次的な効果も生まれました。

365日やり切った翌年は、1年間岩さんに元気を貰った分、今度は自分たち自身が仲間を元気にしようと、全国の店舗と各部署から仲間へのメッセージをリレー形式でつなぐ「毎日元気!」を開始し、現在も継続しています。

こうした取り組みの結果、次第にスタッフのモチベーションも上がっていき、店舗の雰囲気も変わっていったのですが、さらに取り組みを進めようと思うと、今度は人手不足がネックとなってきました。そこで、人手不足解消のため、スタッフの採用率と定着率を高めることに着手しました。

具体的には、それまで各店舗で行っていた募集活動を本部主導で全国一律の募集に変更しました。また、アルバイトの採用面接の内容も、店長に研修を受けてもらい、標準化していきました。その結果、それまで60%だったスタッフの半年以内定着率が、80%にまで改善しました。こうした成果があげられたポイントとしては、先に風土改善を行い、その後で採用改善を行うという順番が良かったと思います。どんなに多くのスタッフを採用しても、風土が良くなければ定着率は上がっていきませんので。

そして2年目からは、CS改善に取り組みました。もともと岩屋口から「ナムコファンを作り続ける」という方針が出ており、それを可視化するために顧客満足度調査「ミステリーショッピングリサーチ」(以下、覆面調査)を活用していました。スタッフにとって何をしたら良いのか分かるように、当初はQ「入店時挨拶がありましたか?」A「はい」「いいえ」というように、チェック型の設問設計にしていました。ただ、覆面調査が店舗のKPIとなることもあって、どうしても総合得点の点数を上げるほうに目が向いてしまい、「この項目を指摘されたので、このアクションを行えばいい」という考えに陥っていました。

覆面調査活用の目的はナムコファンを作るために、どんなことをしたら良いのかを考えることであり、一つのアクションの実施率を高めることではないことを理解してもらいたかったので、Q「また来たいと思いましたか?」Q「店頭を見て、お店に入りたいと感じましたか?」などのお客さまの印象(印象項目)を確認する設問を作り、その項目だけに配点をつけて、アクション項目は点数から除外しました。

印象項目なので、明確な答えはありません。スタッフ自身がお客さまのコメントから答えを見つけていく必要があります。「お客さまにとって、どうするのが良いのだろう」とスタッフ同士が考える過程にこそ、ナムコファンを作り続けるヒントがあると思っています。ファン作りは、スタッフ自身が「これが良い」と思っていることをお客さまに提案し感動してもらう活動だと思っています。アクション項目の改善を繰り返すことは、料理人がお客さまからしょっぱいと言われて、塩加減を変えたら、今度は塩加減が薄いと言われ、また塩を足すとった活動に似ていると感じました。それに対して印象項目の改善は、自分がおいしいと思っている料理が、お客さまにどのように届いているのかを都度確認していく活動だと、スタッフには説明しています。


仲間へのメッセージをリレーでつなぐ「毎日元気!」(一部抜粋)


覆面調査の活用方法のお話がありましたが、従業員エンゲージメント調査「tenpoketチームアンケート」の活用方法もお教えいただけますか?

調査は2つの目的で活用しています。1つ目は、現場の健康診断です。ESはすべての基本になりますので、現場がどのような状態にあるのか、現状を正しく知るために使っています。スタッフのリアルな声も知りたいので、自由に何でも言えるコメント欄を作っています。「改善策を教えてください」などと聞いてしまうと、ポジティブな意見しか出てこなくなり、リアルな声が拾えなくなるので、避けています。

2つ目の目的は、誰にも相談できずに孤立してしまうスタッフを救うことです。本気で相談したいと悩んでいる人のために、自分の名前と連絡先を記入できる欄を作っています。5500名のスタッフの中で1%ぐらいが、この欄に記入してきます。連絡先を記入されたスタッフには、全員こちらから連絡(電話やメール)をして、何を悩んでいるのかヒアリングするのですが、多くの場合は「話を聞いてくれて、安心しました」と言われて終わります。

「誰にも相談できない」という状況を作ることが、スタッフを追い詰めてしまう原因だと思いますので、マネジメントラインから外れたもっと元気チームが話を聞いてあげるのは重要だと思います。もちろん、すべての問題が店長の責任というわけではなく、スタッフ自身の理解不足や人間性の問題もありますので、そういう場合は諭す役割も果たしています。


namcoイオンモール大日店と店内に併設されたKEY’S CAFÉ


今後の取り組みをお教えください。

CS結果指標として「覆面調査の再来店意思の満点比率」、ES結果指標として「半年後の定着率」を設定して、店舗全体の改善を促進していきたいと考えています。そのために、これまでは「企業理念の浸透」と「接客の基本」をテーマとした社内研修を全スタッフ対象に実施してきましたが、今後は新たに「自主性」「チームワーク」「ファン化接客」をテーマとした社内研修と「主体性」「リーダーシップ」「キャリアプラン」をテーマとした社内研修を行い、弊社で働くことが楽しいと思ってもらえる人を増やしていきたいです。

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※文:株式会社MS&Consulting  ブランディング推進部 部長 砺波敬之
※記載されている会社概要や役職名などはインタビュー当時のものです。

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