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部長クラスからアルバイトまで“巻き込む”姿勢で全社のCS向上へ


株式会社サガミホールディングス​​​​​​​

『季刊MS&コンサルティング 2013年冬号』掲載
取材:金澤 則幸・文:高島 知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

名古屋を拠点に約150店舗の和食レストランを運営する株式会社サガミホールディングスでは、数年がかりで抜本的なCSおよびES向上に取り組んでいる。「クレドプロジェクト」や「ありがとうキャンペーン」といった独自の企画で社内を活性化、来店客から「お店が元気になった」「笑顔が増えた」などの声が増え売上も好調だという現在の活動について執行役員管理部グループマネージャーの鷲津年春氏と人事課ブロックマネージャーの三谷正和氏に伺った。

一部店舗への実施を経て、全店でのMSR導入へ

和食麺処「サガミ」をはじめ、そば・うどん、牛しゃぶなどさまざまな和食業態のラインアップを揃える株式会社サガミホールディングス。東海地区を中心に、現在では関東、関西、北陸まで事業エリアを拡大している。

同社では、事業拡大に伴って増えるパートやアルバイトスタッフとの意識統一を図り、さらに質のよいサービスを提 供していくために、数年前より現場力強化を目的に実施した「クレドプロジェクト(経営理念を経営の武器と位置付け上手に活用し、業績の向上につなげるプロ ジェクト)」をはじめ、「笑顔キャンペーン」「スピードキャンペーン」「ありがとうキャンペーン」など、さまざまな企画を実施している。同時に、2009 年よりミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)を導入。選抜した50店舗での実施を経て、4年目となる2012年は、より全社的な取り組みとしてい くために全店に導入し、また店長向け研修も全店で行った。

MSRを導入した1年目は「どうしても点数にこだわってしまった」と、同社執行役員管理部グループマネージャー の鷲津年春氏は話す。「点数を指標にしつつ、コメントなどの内容を中心に見られるようになったのは2年目以降ですね。現場も同様に、初年度は点数に一喜一 憂してしまうので、そこから具体的な行動に移すのが大変難しかったです。最初の頃はMSRの結果に基づいて店舗で行った具体的な改善運動を店長に書面で提 出させていました」(鷲津氏)。

現在では、まずMSRの調査結果を本部が受け取った後、各店舗に報告。それを元に、同社で用意した「振り返りシート」を用いて、スタッフが個人個人で感想を記入する。それをパートのリーダーが集約し、MSRの結果と併せてミーティングを実施している。

ほかにも、調査関係の取り組みとしては従業員アンケートを実施しており、こちらは経営層に共有。気になる部分は、役員が店舗を訪れる際に店長や現場スタッフとの話題に上げるなどして活用している。

「サガミ」、「あいそ家」は座敷席のある大型店舗で、喉の通りの良い和麺が主力であるため、グループでの利用はもとより、3世代・4世代家族での来店や、60~70歳代の団塊世代の利用には最適。正に時代の変化に適した業態と言える。


一人の声で全体を変える、その重みを知ってほしい

鷲津氏によると、長年導入している店舗では、MSRをどう使えばいいのかを理解している人も増えてきたそうだ。 「お客様の声に耳を傾けて、それに対応していくことに、当初は『たった一人の意見で変えるなんて』という反発の気持ちもあったと思います。ですが、一人の 声だから軽んじていいわけはありません。従業員には、むしろ『一人の声で全体を変える』、その重さを知ってもらいたいと思って進めてきました」。

一方、今年からMSRを導入した店舗では、個々の感想を記した資料は店長が集約。段階的に導入したため、当然ながら数年目の店舗と今年が初年度の店舗とで活用度合いに差があるのが現状だ。これをなくしていくのが今後の課題だという。

「やはり1年目は葛藤もありました」と話すのは、同社人事課ブロックマネージャーの三谷正和氏。「自分たちの “おもてなし”を変えなければ、という気持ちはあったものの、それまでも自分たちなりに努力していたので、低い点数が出てしまうと『今までやってきたもて なしは何だったのか』と気が抜ける様子も見受けられました。ただ、結果は真摯に受け止めて、現場のマネージャークラスへの指導の仕方などにも活かすように しました」。

以前は本部の考えに基づいて接客やおもてなしに関する指導をしていたが、実際には現場に落とし込まれていないこ とが分かったという。そこで、MSRの結果を受けてまず現場の意見を聞き、どのような方針なら現場に定着するかを考えながら指導するようにしていったとこ ろ、例えば従業員の側から「笑顔を心がけよう」と名札にスマイルマークのシールをつけるようになるなど、積極的な姿勢が現れ始めたという。「1年をかけ て、指導の仕方も見直していきました」と三谷氏は振り返る。

右:執行役員管理部 グループマネージャーの鷲津年春氏、左:人事課ブロックマネージャーの三谷正和氏


現場の緩やかな変化と、利益向上のバランスが課題

MSR導入2年目には現場の積極性も増し、3年目になるとパートやアルバイトスタッフの参加意識もかなり高まっ た。「3年かけてようやくベースが仕上がったという感覚がありますね。先ほどの名札のマークや、自分たちでアレンジしたディスプレイの案、子どもさん向け のツールなどの新しいアイディアが現場から生まれていきました。店の雰囲気も温かく和らいで、これまでのサガミとは違うなと感じるようになりました」(三 谷氏)。

店長クラスの変化には、2年目から行っている「成果発表会」も奏功しているようだ。「華々しく壇上で発表する同僚の姿を見れば、それまで意識が低かった店長も意識を改める機会になります」と鷲津氏は話す。

3年かけてようやく、という実感の通り、こうした改善活動は数字に表れにくく、即効性があるわけでもない。その点は、同社でもすんなりとは受け止められなかったようだ。

MSRの結果を現場のスタッフで共有し、改善点についてミーティングを重ねる一方、パートやアルバイトスタッフへの研修に注力。お客様の要望に柔軟に応えようという“おもてなし”の姿勢が備わってきた。

「MSRで分かる声にしっかり対応しても、それですぐに前年比120%の売上になるわけではありません。その点 は、本部から目に見える成果を求められているブロックマネージャーなどはジレンマがあったと思います。特にMSRを導入した頃は経営も厳しい状況でしたの で、1円でも利益をという命題と、現場の意識から変革していこうという活動とは『にわとりが先か卵が先か』という矛盾がありました。今もゆっくり変わって いくのを待てないのが現実なので、温かな雰囲気を保ちつつも、危機感を持たなければと思います」(鷲津氏)。

段階的に導入したことによる店舗ごとの意識の差に加えて、同じ時期に導入した店舗間、またブロックマネージャーの間にもやはり温度差はある。事実、昨年 行ったブロックマネージャー向けの任意の研修に「全員は集まらなかった」ことを鷲津氏は指摘する。「ただ、数年かけた店ではお客様もすぐ分かるほどの明ら かな改善が見られているので、今後も道筋を立てて取り組もうとは思っています」。

3年前から行っている成果発表会の様子。当時は選抜店舗のみでのMSR導入だったが、2012年からは全店舗での導入となり、店長同士さらに切磋琢磨することになりそうだ。


アルバイトスタッフの研修を、夏休み期間に全国で実施

2012年から全店舗でのMSRを導入したことと併せて、同年はアルバイトのスタッフを巻き込んでいくことにも 注力した。「さらなる売上の向上を目指すには夜間の変化を求める必要がある」(鷲津氏)との考えのもと、本年度は春と夏の年2回、エリアごとにパートやア ルバイト向けの研修を実施した。特にアルバイトスタッフには夏休み期間の参加を見込んで夏期に昼間と夜間の研修を設けた。

これには大きな成果があった、と三谷氏は話す。「入ったばかりのアルバイトスタッフも、研修直後から身だしなみが整い接客態度が向上するなど、目に見える変化があって驚きました」。

このような全社的な動きが可能となったのは、どういった要因によるのだろうか。鷲津氏は、「以前はどちらかとい うと各エリアの営業部で取り組んできましたが、今年から人事部の管轄で全国的に推し進めています。これも、同じ役職の部長たちが理解を示し、力を貸してく れたからだと思っています」と、協力者がいたことを成功の理由に挙げる。鷲津氏自身、2012年2月に営業部から管理部門へと異動し、「自分が引っ張ると いうより“営業部を巻き込む”視点が必要だと感じた」と話す。

また、他の部長、さらに顧客と多くの人に見てもらえればそれだけ指摘があるはずとの考えに至ったという。「サガ ミである以上、おもてなしの点ではどのサービス業界にも引けを取りたくないという思いがあります。MSRに厳しい意見が書いてあると聞けば、わざわざ原本 を確認していた時期もありましたね」。

歴史がある店、あるいはベテランの人ほど、顧客の声を受け止めてそれまでのやり方を変化させることは容易ではない。同社でも、決して最初からスムーズだったわけでないようだ。

「現場の戸惑いと同じように、部長クラスの中にも『何千組のお客様のうちたった一人の意見じゃないか』と言われ る人もいました。でも、そういう人ほどMSRによる変化が分かると強く賛同してくれました。例えばお子様用のジュースが少ない、種類が炭酸ばかりという意 見を汲んで、実際に種類を増やすなど、すぐに判断してくれたのはありがたかったです」(鷲津氏)。

ミーティング風景:当初は「一人の意見で変えるなんて」という戸惑いもあったというが、現在では足並みもそろい、「現場への落とし込みがしっかりできている」と三谷氏。


“おもてなし”の向上を経営方針として今後も重視

数年間の取り組みを通して、今では複数の店舗で来店客から「雰囲気が良くなった」との声が聞かれるほど変化した株式会社サガミホールディングス。業績向上のための効率化 と、マニュアルを超えた来店客への丁寧な接客はときに相反するが、「実際にお客様に接するパートやアルバイトスタッフと、顧客満足を目指す精神を共有でき たことで、細かな気配りを自主的にしてくれるようになった。それがお客様に伝わっているのだと思います」と三谷氏は話す。

また、研修を導入したことで、積極的な人とそうでない人との足並みもそろい、ベテランのスタッフからは「若いアルバイトスタッフまで研修を受けられてよかった」との声も聞かれているという。

CS向上の活動にゴールはない。「今後も経営方針としてサービスの質の向上にこだわっていくことは変わらない」 と鷲津氏は強調する。「今では、お客様のために例えば小さなお子様のためのヌードルカッターを導入するなど道具に頼るだけでなく、もっと精神的なサービス を引き上げていこうという意識がだいぶ芽生えていると実感しています。臨機応変に対応できる人材を育てるのは、私たちの永遠の課題ですね」。

直近の経営視点での指摘は、客数の増加だ。料理の質やキャンペーンなどの企画でも一定の集客力はあるが、「それ は“おもてなし”があって初めて成り立つもの」と鷲津氏。一方、三谷氏もCSとES、そして業績について「できるだけ数値化して分析・評価して、現場に フィードバックしていきたい」と話す。今後も現場の意識改革と売上向上の両面に力を入れていく。

■ビジョン:No.1 Noodle Restaurant Company
■グループ経営理念
 ・食文化を通じて地域社会に奉仕すること
 ・企業を通じてお客様に奉仕すること
 ・「食」と「職」の楽しさを創造する企業


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