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自社農場を経営する食材へのこだわりと、 企業理念の浸透で接客力を高める

インタビューのポイント

豊富な教育・研修機会の創出により、リピート率6割と言われる業界屈指の顧客満足度と、アルバイトの5人に1人が正社員入社する成長環境を実現


株式会社エー・ピーカンパニー

東京都港区芝浦3-13-16 シーダ芝浦5F

会社ウェブサイト:http://www.apcompany.jp/

米山社長のブログ:http://ameblo.jp/yoneblo/


『季刊MS&コンサルティング 2009年夏号』掲載
取材:西山博貢、文:藤平吉郎
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

食材への徹底したこだわりを旗印に、幻の地鶏と言われる「みやざき地頭鶏」を使った和食ダイニングの「わが家」や、地鶏専門居酒屋の「じとっこ」、脂がたっぷりとついた新鮮ホルモンが名物の「関根精肉店」、漁港から直送される新鮮魚介類を提供する「魚米」など9業態を、直営25店、ライセンス10店展開する株式会社エー・ピーカンパニー。4年後の上場に向け、さらに進化を続ける同社の米山久代表取締役社長に、企業理念や戦略などを伺った。

企業理念とミッションの確立で、新たな食の可能性を追求する

「わが家」1号店を八王子にオープンしたのは2004年です。当初は、地鶏を肉屋から仕入れていましたが、安く提供すればもっとお客様に喜んで頂けるという思いから、産地を巡りました。養鶏場から直接仕入れる方が原価率が下がることは分かりましたが、自社の養鶏場ならさらに下げられる。これが結論になり、06年に自社の養鶏場「塚田農場」を始めました。そこで注目したのが、「みやざき地頭鶏」です。店舗が増えるにつれて、契約農家も4軒から13軒にまで増えました。この事実を振り返ってみると、自分たちの事業はただ飲食店を経営しているだけではなく、生産地の第一次産業の活性化にもつながっているんだと、大きな気付きがありました。従来の食の構造に囚われず、時代や消費者のニーズに合った食のあり方を追求することで、もっと新たな価値が見つけられると思っています。

この取り組みを地鶏のモデルだけで終わらせずに、他の全国各地の食材にも広げていけば、本当に世の中を変えられると思っています。そんな想いから、「日本の食のあるべき姿を追求する」というミッションを掲げ、全社で取り組んでいます。

米山久代表取締役社長


商品が持つ本来の価値を伝えるのはスタッフの力

一番大事にしているのは、商品が持つ本来の価値や生産者の想いを、お客様にどう伝えていけるかです。地鶏やホルモン、魚などのこだわりについて、スタッフがきちんと伝えられている店は、リピート率が高いです。客単価3800円で地鶏を食べられるというのがウリですが、この価格と品質が生む感動は、ただ提供して、お会計するだけでは気付きません。スタッフが商品や生産者の想いを自信を持って伝えることで、お客様の感動は2倍にも3倍にも膨れ上がります。

そのためには会社の考え方を浸透させることが重要となります。そこで昨年から、オールAPイベントと呼ばれる全社会議を実施して経営計画を発表したり、今年5月から全6ヵ所のエリアで直接企業理念を社員やアルバイトスタッフと共有しています。

なお、今年初めて新卒採用を行いましたが、志が高く、新しい価値を生みたい、世の中を変えたいという目標のある人財が集まりました。そういうことからも、企業理念を浸透させ、全社員でミッション達成に向かってまとまること、これが大変重要になっています。

わが屋:自社ファームで育った「幻の地鶏」や、選び抜かれた素材で作られるご当地料理を中心とした、わが家のようにくつろげる本格和食ダイニング。


MSRの実施で店舗がレベルアップ

商品力には絶対的な自信を持っていましたが、ただ、どこかで自己満足もあるのではと気付きました。そこで、ミステリーショッピングリサーチ(MSR)を導入することにしました。昨年11月から始め、当初は点数の悪 い店が多かったのですが、徐々に良い店が増えています。点数だけを見て一喜一憂するのは本質ではないと思っていますが、社内の店舗間でお互いが上を目指そうとする競争が生まれてきたのはとても良いことだと思っています。

MSRをやることで、スタッフが気付かないお客様目線を知ること。そして、お客様によりきちんと商品の価値を伝えていけるようにすることが最大の目的です。これを具現化していくには、まずスタッフの意識付けが大切だということに、店も私も気付くようになりました。オールAPイベントで、優秀店長賞、優秀店舗賞などの表彰を行っていますが、今までは売上が評価基準の大半であったところに、MSRの評価も取り入れるようにしたことで、エリアや立地特性で売上がそこまで突出していない店舗でも、スタッフのモチベーション向上につながっています。それも、調査レポートの詳細を各店舗で見ることができるので、みんなが納得感を持てるのが大きいと思います。今後は、MSRの取り組みをマンネリ化させないようにして、店のレベルアップにつなげていきたいですね。


他の食材でもモデルを達成のため会社の上場を目指す

4年後の上場を目標に掲げていますが、それは店舗展開のための資金調達ではありません。私のビジネスモデルは、地鶏以外の食材でも第一次産業から関わり、加工センターや物流センターを自社で構築することで、これまでにない新しい価値を生み出すことです。ただ、上場で難しいのは、単年、単年で増収増益をしていかなければならないこと、これは株主を見てという意味です。ここが、経営判断としてすごく迷うところです。例えば、新しいブランドの養豚を始め、それが消費者に受け入れられて、店が繁盛したとします。しかし、我々が取り組んでいる価値、つまり、第一次産業の活性化ということも含めると、その豚を取り扱う店が50店舗くらいになって初めてモデルとして形になります。それぐらいの規模にならないとスケールメリットは生まれず、原価を下げ、店の利益率を高められないからです。そういうことから、今期はまだ売上は少ないけれど、数年後に実績が上がるということもあるんです。このあたりが、上場した後に増収増益を続けることの難しさです。


モチベーションの高い希望の持てる職場環境作り

上場を目標としていますが、企業規模の拡大が目的ではありません。年商は100億円くらいまではいくかもしれませんが、それ以上の売上規模は、時代に合っていないのではと思っています。上場以降はカンパニー制にして、5億円、10億円、20~30億円のグループ会社を増やしていきたい。お客様からオーナーが見え、それぞれのこだわりが見える会社でないと、その先は生き残っていけないと感じています。

サラリーマンや管理者を育成するという考え方ではないので、5年後、10年後に、社員が独立していくことを視野に入れ、グループ企業の専務や社長になることを想像しなさいと社員には言っています。ですから、自主性を持って生産性の高い仕事ができる人財を育成していきたいです。

スタッフのモチベーションが高く、やり甲斐を持って働けているのかということが大事ではないでしょうか。経営者や幹部の考えが、どこか独りよがりになってしまったり、ブレてくると、会社がおかしくなってくると思います。スタッフが楽しんでいるか、また、お客様に求められているかということを、いつも気にしていますね。それがないと、会社全体、ブランドも含めて、時代の流れに乗り遅れていることになり、衰退していくと思っています。希望を持って働ける環境で、スタッフ全員の方向性が一致していることが大事ですね。

今年は40億円を達成させて、経常利益2億円が必達の目標です。上場に向けて、幹部は何が足りないのかを洗い出し、その課題に対する解決を繰り返しています。現在の外食産業市場24.7兆円の内、中食が6.2兆円です(※)。今後、更に中食が伸びてくと思いますが、当社は外食をやっているという概念はありません。いわゆる外食というカテゴリーを抜け、「食」という大きなくくりの中でやっていく。流通をかませた問屋業や、魚屋や八百屋で目利きもして、農業もする、ここが当社らしさですね。

※参考「平成19年外食産業市場規模推計について」(財)外食産業総合調査研究センター


接客力を強化するための取り組み事例

昨年12月には「お通し用の壺味噌が美味しい」というお客様の声を聞いたアルバイトが、帰り際に少し手渡したことがMSRで評価された。そこで早速、1組に一つ、持ち帰り味噌をサービスすることを全店で始めている。


「スタッフの方が案内の時に手間取っていた」というMSRのコメントがあり、改善のために今年3月から、店舗の入口にアルバイトの誰もが分かるテーブル配置のボードを設け、スムーズな案内ができるようにした。


もっとお客様の声を聞こうと、トイレにノートを設置。記入された内容は、毎日の朝礼で発表している。また、毎朝、アルバイトが書く「イ・メール」というメルマガを内部向けに送っている。「いいイメージしか湧かないメール」という意味だ。


誰が担当してもお客様に対応できる店内販促の一つとして、全スタッフが、手書きの名刺を持って「次は○○を召し上がって下さい」といったコメントを記入し、活発に名刺交換している。


塚田農場錦糸町店のリピート率は5割と高い。それを把握できるのは、会計時にレジで顧客管理ができるようになっているからだ。顔を覚えている場合以外は、さりげなく聞くなどして入力している。


みやざき地頭鶏(じとっこ):宮崎県と鹿児島県で古くから飼育されている日本在来種の鶏。通常の地鶏と異なり、柔らかく、脂がのって、歯ごたえもいい。


塚田農場錦糸町店 大久保店長のインタビュー

うちの会社の良さは、まず、業態力があること。生産者の顔が分かる食材を使っているので、自信を持ってお客様に勧められることですね。入社してすぐに、宮崎の直営の養鶏場に研修に行かせてもらって、育てるところから、加工、流通まで見ることができました。生き物を育てることの大変さを知っているので、仕入れた食材に対する生産者の想いを、新人研修やミーティングでアルバイトに伝えています。それがお客様にもきちんと伝わること、これが基本ですね。逆に、お客様の声を、本部を通して産地に伝えることもしています。

また、努力したことを認めてくれるところも当社の良さです。私で言えば、まだ飲食経験は2年程なのに、新店の立ち上げなどいろいろな責任ある仕事をどんどん任せてもらえるようになりました。社員を信頼してくれること、それがやりがいにつながっています。

塚田農場錦糸町店 大久保店長塚田農場錦糸町店 大久保店長


塚田農場錦糸町店の取り組み事例

塚田農場錦糸町店では、リピート率向上を目的として、接客力強化に向けた独自の取り組みを行っている。その中でも特に効果があると思われる取り組みをスタッフ同士で話し合い、マニュアルとして整理し、改訂を繰り返し、常に改善を図っている。


■朝礼マニュアル 1→12の順で行う

毎日の朝礼は、必要事項の共有・確認と意識向上に向けて最も効果的な方法を研究し、ルール化している。

ぶっちぎり挨拶

今日のお話

塚ちゃんノート確認

塚田ファミリー実績

ポジション

清掃リーダー

本日の提供トーク

やま

「イメージ訓練! はいっ!」

「ハイ訓練いきます! はいっ!」、「テンションあげていきます! はい!」、「テンポ良くいきます! はい!」、「はいっ!」×連呼

「挨拶訓練いきます! はいっ!」、「おはようございます!」×2、「いらっしゃいませ!」×2、「ありがとうございます!」×4

「今日の朝礼リーダー! はいっ!」、「○○さんお願いします! はいっ!」


■店内販促一覧

お客様満足を高めリピートして頂くために、アルバイトが中心となって作成した、取り組み一覧メモ。この中から、一組のお客様に対し5つ以上の販促施策を実践することになっている。

※印は2回目以降のお客様

提供トーク
商品に付加価値をつける提供トーク

オーダーコントロール
ファーストオーダー時におススメメニューをとる
甘口醤油
 刺身用甘口醤油、お客様が普通の醤油で何枚か食べた後に持っていく
完熟柚子胡椒

無塩の柚子胡椒、お客様が緑の柚子胡椒で何個か食べた後に持っていく
〆のちゃんこ出汁
お会計前にちゃんこ鍋の出汁を味噌汁代わりに持っていく
酢もつ半々(★)
酢もつの味付けを2種類にできることを提案

会社名刺
 お客様の「他にどこかあるの?」の一言を聞き逃さず、会社名刺を持って他店の説明
ぐるなび地図
会社名刺の会話の中でお客様の行動範囲がわかったら、レジ横のぐるなび地図を持っていく

錫のグラス(★)
 水の浄化作用があるグラスを焼酎好きのお客様にすすめる

紫芋空豆
杜氏潤平、紫の赤兎馬の提供時に1個つける。かじりながら飲むと飲みやすくなる
黒糖空豆
黒糖焼酎提供時に1個つける。かじりながら飲むと飲みやすくなる
お通し鍋スープ
お通しのキャベツが余っているお客様のキャベツを100円で鍋スープに煮込んであげる
持ち帰り味噌
帰り際にお通しの味噌という事を説明し渡す、洗ってそのタッパを次回持ってくれば満タンにして入れなおす
塚田シール(★)
特別に仲良くなったお客様の携帯に塚田オリジナルシールを貼る。塚田の良い口コミの促進



■クロージング手順

【例】「提供トーク」→「オーダーコントロール」→「完熟柚子胡椒」→「黒糖そら豆」→「手書き名刺」→「持ち帰り味噌」

上記の例のように一覧の中から一組5つ以上を仕掛ける。提供トークが決まっているので誰でもお客様と仲良くなれる仕組み。お客様のテーブルを見ながらタイミングを考えるので、自分で考える癖・お客様目線につながる。お客様の喜んだ顔を見せることが従業員に飲食の楽しみを伝える一番の薬なので、店内販促自体が誰にでもできる教育制度となる。

また店内販促後はお客様に感想を聞きに行くので、お客様の声を拾うことにもなる。

塚田農場錦糸町店では、お客様に心からお店を気に入って頂くことを「クロージング」と呼んでいるが、クロージングまでの手順と取り組みの趣旨をまとめ、全員で共有している。


■グランドメニュー提供のポイント一覧

店内販促の一つとして位置付けられている「提供トーク」が簡潔にまとめられた資料。各メニューの訴求の仕方をいつでも思い出せるよう、ポイントのみ簡潔に記載していることが特徴。複数のポイントが記載してあるメニューでは、お客様に合わせて喜んで頂けそうな組み合わせを選ぶことが、スタッフにとっても楽しみの一つとなっている。

お客様満足を高めリピートして頂くために、アルバイトが中心となって作成した、取り組み一覧メモ。この中から、一組のお客様に対し5つ以上の販促施策を実践することになっている。

もも焼き
鉄板が熱い・新鮮なのでレア・お好みで柚子胡椒
香味焼き

鉄板が熱い・新鮮なのでレア
 むねみ焼き
鉄板が熱い・新鮮なのでレア・お好みで柚子胡椒
せせり焼き
鉄板が熱い・新鮮なのでレア・お好みで柚子胡椒

ぼんちり焼き
鉄板が熱い・お好みで柚子胡椒
 レバー焼き
新鮮なのでレア
手羽焼き
(※おしぼり・とんすい)

 むね肉刺身
梅醤油・酢味噌・宮崎の甘口醤油(※刺しちょこ・大堂津醤油後だし)
たたき
宮崎の日向夏ポン酢
ゆっけ
お好みでノリ(※スプーン)
皮ポン酢
宮崎の日向夏ポン酢
 手羽先唐揚げ
(※おしぼり・とんすい)
アボガドのむねみ巻き
宮崎の日向夏ポン酢(※刺しちょこ)
飫肥の天ぷら
宮崎の日向夏ポン酢(※刺しちょこ)
むかでのり
そのままかお好みで宮崎の甘口醤油・生産者の少なさ・つくるの難しい
めひかり唐揚げ
ポン酢(※とんすいにポン酢)
馬刺し
宮崎の甘口醤油(※刺しちょこ・大堂津醤油後だし)
生野菜盛り
秘伝の味噌・宮崎の満潮の塩
つぶしかぼちゃ
クラコットに添えて(※スプーン)
焼き茄子
宮崎の甘口醤油
こぼうの唐揚げ
ピリ辛味噌
とんトロ焼き
鉄板が熱い・お好みで柚子胡椒
バラ焼き
鉄板が熱い・お好みで柚子胡椒
ホルモン焼き
鉄板が熱い・お好みで柚子胡椒
スタミナ麦味噌焼き
鉄板が熱い
温しゃぶサラダ
日向夏ポン酢
枝豆
塩気が足りなかったら宮崎の満潮の塩
味噌漬け豆腐

そのまま

アボガド刺し
宮崎の甘口醤油(※刺しちょこ)
 冷汁
ご飯にかけて
 地頭鶏茶漬け
鶏のスープをかけて


■サイドメニュー提供のポイント一覧:鍋提供トーク

ちゃんこ鍋
かぼちゃは召し上がってもOK・溶かしてスープを甘くする(※柚子胡椒)
モツ鍋
出汁がしょっぱくなったらお声掛けください(※鷹の爪)
水炊き鍋
まずはスープそのままの味・その後ポン酢(※人数分のポン酢)



■サイドメニュー提供のポイント一覧:おすすめメニュー

むね焼き葱生姜
むね焼き葱生姜
生ハム
そのまま
そのまま
たまごとマヨネーズを混ぜて(※マヨネーズ)
スパイシーポテト
マキシマム
冬筍
宮崎の甘口醤油(※刺しちょこ)




■サイドメニュー提供のポイント一覧:その他

お通し
九州ゆかりの食材約20種類を使用した秘伝の壺味噌
杜氏潤平
同じ芋を使用した紫芋空豆
持ち帰り味噌
初めの味噌・何でも合う・また持ちこみで入れ替え
完熟ゆず胡椒
塩を不使用・柚子の皮大き目・手作り・瓶ごとに味違う
〆のちゃんこ出汁
かぼちゃ溶かしてある・味噌汁代わり・もっと野菜の旨味



この他に塚田農場錦糸町店では、独自に全員が参加する部活動を行っている。発案は大久保店長。ミーティング運営部は、ミーティングの管理、内容を記録してまとめる。また、イベントの案内を担当する事務。採用や面接などを行う人事部。イベント部では、花見など月1回実施するイベントの企画も行う。さらに掃除を担当する清掃部。酒屋とのタイアップでお酒のセミナーを開いたり、裏メニューとなり得る商品の説明、ドリンクの発注などを担当するドリンク研究部。顧客管理部では、名刺を頂いたら、名前やメールアドレス、特徴、好きな食べ物などをチェック、管理し、メーリングリストを作成して、メールを送信している。それぞれの部には3人程が所属している。



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