店舗外観

ゲーム機器開発から店舗運営・接客まで。感動を生む店づくりを目指した、全社横断プロジェクトに挑む

株式会社タイトー

東京都渋谷区代々木3-22-7 新宿文化クイントビル15F

会社ウェブサイト:http://www.taito.co.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2009年秋号』掲載
取材:西山博貢、文:藤平吉郎
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

アミューズメント業界では今、顧客満足(CS)への取り組みが進んでいる。その中でも、ゲームセンターなどの施設運営・アミューズメント機器開発大手の株式会社タイトーは、サービス品質の向上と、お客様を夢中にさせ感動を生む店舗づくりを目指した全社横断の取り組み「ハッピープロジェクト」を展開し、業界の先端を行く。その目的と戦略を探った。

「ブランド委員会」を基点に新たなブランド構築を図る

新たなタイトーステーションブランドの構築のため、「ブランド委員会」を立ち上げたのは2007年1月。タイトーステーションブランドの構築に向けた企画・立案を担う、OP事業部オペレーション推進グループ採用教育部・相見将丈部長に、発足の背景を伺った。

「それまで、CSは社内的にはあまり大きなウエイトを占めていませんでした。遊戯機械を置いて、お客様に楽しく 遊んで頂くという受け身の構えでした。マネージャー(店長)の指導により挨拶などの接客に力を入れる店もありましたが、店舗間の格差がありました。つま り、基準をそれぞれが持っていましたが、全社的に統一・明確化されていなかったのです。そこで、暗黙知を形式知に変え、サービスの基準と品質を可視化させ ることがテーマとなりました」

ブランド構築に向けてまず初めに取り組んだのが、看板の書き換えとユニフォームの統一。これには1年以上の時間を要し、08年4月に変更となった。看板は赤を基調とし、かつて一世を風靡したスペースインベーダーのロゴを使用。ユニフォームにも赤を採用した。

OP事業部オペレーション推進グループ採用教育部・相見将丈部長


新生タイトーを具現化するブランド認定制度を導入

時を同じくして、「ブランド認定制度」もスタートさせる。標準サービスレベルを「最低限度のサービスのあるべき姿」とし、チェック項目を大きく3つに分類。

1つ目の「ストアスタンダード」は、お客様が安心して安全に遊べる環境を維持するため、「フロアーの床に汚れや 損傷はないか」「お客様用のイスに汚れや破れ、欠品など不備はないか」などを確認する。2つ目の「タイトースタンダード」は、身だしなみや挨拶、言葉遣い といった項目で、「制服や靴に汚れは目立っていないか」などを見る。3つ目の「サポート」は接客応対やトラブル応対などの項目で、「トラブル対応の後に “また、何かありましたらおっしゃってください”などのプラス一言が言えているか」などとなっている。

これらの全項目に関して、まずはマネージャーがセルフチェックをし、基準点に達していればエリアごとの営業部に 申請。それを受けて、営業部が店舗を2次評価する。これは、マネージャーと営業部との視点のギャップを埋めるためだ。それに合格すると、次は外部のコンサ ルティング会社が、同じ調査項目で評価する。この3段階をクリアするとブランド認定となり、新ブランドの看板と制服を導入することができる。全150店の 認定を目指して始めたが、合格しなければ、新ブランドに移行できないという厳しいものだ。


お客様評価を取り入れたスリースター制度を導入

09年4月、ブランド認定が82店舗まで拡大した頃、サービス品質の向上と、お客様を夢中にさせ感動を生む店舗づくりを目指した全社横断の取り組み「ハッ ピープロジェクト(概念図・下)」の開始を発表。新作ゲーム機も同趣旨の下に開発を推進、店舗における取り組みとしては、ブランド認定を得た店舗を対象と する「スリースター制度」(当初は★★★制度)を新たに導入した。ミステリーショッピングリサーチ(MSR)による新しい評価制度だ。


店舗のサービスレベルの向上や、個人のスキルアップを図る仕組みの構築、さらに店舗ブランドを「タイトーステーション」に統一するなどの事業を展開し、それらの点が線としてつながってきたことから、今年4月から全社的な取り組みとして「ハッピープロジェクト」をスタート。


「ブランド認定に至るまでは、外部のコンサルといえども内部の視点で見ているわけです。そこで、MSRの役割が意味を持ってきます。一般のお客様目線で見て頂いて、感動して頂けたか、また来たいと思って頂けたかを評価するのが目的です」と相見部長。

そして、MSRの得点が高かった店舗に対して、1つ星・2つ星・3つ星を決め、その認定の証となる楯を店舗のイ ンフォメーションカウンターに置くことがルールとなっている。選ばれただけでも優秀店と言えるが、さらに星の数で評価が掲示されるれることで「悔しい」 「恥ずかしい」という感情を生み、3つ星を目指すモチベーションにもつながっているという。

なお、初回にスリースターを取得したのは2店で、マネージャーにはインセンティブとしてアメリカ・ラスベガスの研修旅行が与えられる。

MSR導入の成果について、相見部長はこう語る。

「お客様の視点から、意外な部分が見えるようになりました。どうしても運営側のものの見方をしてしまうので、 我々にとっていいと思う接客が、お客様にとっては逆に嫌な押し付けの接客になっていることもあると気付きました。例えば、クレーンゲームで商品を取れない お客様がいると、声掛けをして取れるようにサポートしていますが、それが過剰になり過ぎると、取るまでのプロセスを楽しめなくさせてしまうこともありま す。接客の難しさを感じますね」


標準化のポイントは同じ目線を持つこと

これらの活動を続ける中で、課題が見えてきた。「サービスというのは自主性を養うことだと思っています。トップ ダウンではなくボトムアップを狙っていましたが、なかなか主体的な取り組みにつながらなかった」(相見部長)。ブランド認定制度の開始当初は、主体性を重 視して本部からの働き掛けをあえて少なくした結果、認定店舗は上期で13店と低迷。そこで、下期からは営業部会議や部長会議などを通じて働きかけを強め、 なぜクリアできなかったのかを検証し、クリアするために何をいつまでにやるかなどのスケジュールを明確にした。その結果、下期には申請する店舗が増え、通 期で82店舗が認定されることとなったのだ。

しかし、こうしてブランド認定店舗を増やすことには成功したが、今度はCSレベルの継続・維持の状況が店舗に よって大きくばらつくという新たな問題が発生。結果として、認定のための改善活動となってしまっていたことが浮き彫りとなった。ここでもまた、自主性をど のように引き出すかというのが共通した課題だった。

それを改善するために意識し続けたポイントが、本部から現場まで全員が「目線を合わせる」ことだ。店舗のチェッ クは営業部長とSVが一緒に回り、別々にチェックしてすり合わせし、ギャップがある場合は同じ基準にしていく。次に、SVとマネージャー、さらにマネー ジャーとアルバイトリーダー、そしてアルバイトと目線を合わせ、ブランド基準のブレをなくしていこうとしている。

そして、現場への落とし込みで効果を発揮しているのが店舗ミーティングだ。マネージャーの思いや目的を伝えるだ けでなく、課題となっているチェック項目に対してロールプレイングを行い、クリアしていくというもの。ミーティングを開くことで、マネージャーとアルバイ トのコミュニケーション機会が増えたことから、店舗の運営がスムーズになるというメリットも出てきたという。

また、ブランド認定を取得した店舗の中には、オリジナルのマニュアルを作ったり、挨拶や声掛けのキャンペーンを 実施するなど、独自の試みをする店があることが分かった。そこで、広報の協力を得てヒアリングを実施し、その中から特筆すべき例をピックアップして社内報 に「店舗のツボ」というコーナーで毎月掲載した。成功事例の水平展開を狙う。


接客スターコンテストでモチベーションをアップ

前述のスリースター制度は店舗の運営を対象としたものだが、接客を行うスタッフを対象としたユニークな試みが、 「接客スターコンテスト」だ。これは、接客に対してインセンティブを与える場を作ろうと、ブランド委員会発足と同時に始めたもの。全国の営業部が管轄する 店舗で、自選・他選のアルバイトの中から投票で候補者を選出。営業部でブランド認定のチェック項目に沿って得点を付け、各店の上位2名が決勝に進む。ディ ズニーランドホテルで行われる決勝では、ファイナリストが会場に設置されたゲーム機でお客様役に対して3分間のロールプレイングを行う。本部の審査員と ディズニーランドのシニアバイザーが審査員となり、トップを決める。優勝者には、スリースター制度と同様にアメリカ・ラスベガスの研修旅行が与えられる。 また、出場者には星のロゴ入りバッチが与えられ、これがステイタスとなる。なお、コンテストの翌日はディズニーランドを楽しみ、接客など学ぶべきことに関 してのレポートを提出させている。

もう一つの狙いは、接客が素晴らしい人たちのノウハウを共有し、標準化させることにある。決勝会場の様子を収録してDVDにして全店に発送し、店舗ミーティングで接客向上のツールとして役立てている。

接客スター制度は今年で3回目を迎えた。優れた接客技術を有するアルバイトを評価し、モチベーションの向上につなげるのが目的だ。大会翌日には参加者がディズニーランドを楽しみ、遊びながら接客を学ぶというのは、アミューズメントのタイトーならではの試みと言える。


ブランド認定が目的ではなく継続・維持こそが肝心

昨年3月、ブランド作りの一環として、タイトーアミューズメントスクールを開校した。海老名にある開発センター の中に疑似フロアを設け、新入社員研修を実施。また、昨年からスタートしたフランチャイズビジネス(FC)のOff-JT研修(※)にも活用している。ま た今後は、FCに対するブランド評価制度の導入やコンテストへの参加も決定し、正式に動き出している。一方、アルバイト採用時の導入部分の研修が弱いこと から、今年度はトレーナーの育成を図っていく。

※Off-JT:職務の遂行を通じて教育を行うOJTに対して、職場を離れて行う人材教育のこと。

また、従来のオペレーションマニュアルは形骸化してきたこともあったため、マニュアルを刷新。ブランド認定のた めのチェック項目にはそれぞれ、マニュアルの適用ページが記されており、できていないとチェックを入れられた場合は、すぐに具体的な改善ポイントが分かる ようになっている。

このように、ハード・ソフト両面の整備を進め、3年目にして全体が線として機能するようになった。

なお、今年からブランド認定制度を一部改定している。これまでは、営業部審査の後に、外部のコンサルタントによ る審査という流れだったが、この間に本部審査を入れた。これは、接客に対する意識は向上したものの、クレンリネスなどの店作りができていないという反省点 があったためだ。そして、改めて認定された82店舗全店を本部で再チェックし、不合格となった店舗に関しては、1ヵ月以内に改めて再申請して、合格となら なければブランド認定のはく奪となる。認定を取ったらそれで完結ではなく、継続・維持することがCSの向上には重要という点に立ち戻ったわけだ。

同社の和田洋一社長は、「最高の物語の提供」という理念を掲げると共に、「原点回帰」を説く。


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