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「おもてなし経営」を支える5つの柱

「おもてなし経営企業選」

おもてなし経営企業選

『季刊MS&コンサルティング 2013年春号』掲載
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承下さい。
2012年、経済産業省は、顧客のみならず社員や地域・社会からも愛される経営を「おもてなし経営」と称し、これを実践する企業を選考・表彰する「おもてなし経営企業選」を実施。今年3月に対象となる50社が選ばれた。本レポートでは、株式会社MS&Consultingが同選考の事務局を担当させていただいた経験から、「おもてなし経営企業」の特徴や共通する企業文化などを紹介する。

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【おもてなし経営企業選の概要】

「(1)社員の意欲と能力を最大限に引き出し、(2)地域・社会との関わりを大切にしながら、(3)顧客に対して高付加価値・差別化サービスを提供する経営」を「おもてなし経営」と称し、地域のサービス事業者が目指すビジネスモデルの1つとして普及を図る取り組み。「おもてなし経営」のコンセプトに合った経営を実践している企業からの応募を受け付け(応募期間:2012年9月11日~11月30日)、書類審査(12月)、ヒアリング調査(1月)、現地調査(2月)、選考委員会などを経て、他の事業者の参考となるような企業経営事例を選出し、「おもてなし経営企業選」としてとりまとめた。


 

まず、おもてなし経営企業に必要な心構えについて述べたい。今回選出された50社には、創業10年未満というような歴史の浅い企業はほとんどなく、多くが経営者みずから、長年にわたり経営と真摯に向き合って試行錯誤し、その上で独自のスタイルを導き出していた。

選出企業のひとつ、伊那食品工業(長野県|下写真)では、自社の経営を「年輪経営」と称していた。まさにその言葉通り、顧客や社員、また社会に対する姿勢は、木の年輪が積み重なるように地道に年月を重ねる中で磨き上げられていく。そうしてあるレベルを超えると、「おもてなし経営」と呼べるだけの境地に辿り着けるのだ。芸術家が年数を経て初めて独自の作風を見出し定着させていくように、企業経営もひとつの芸術と言えるのかもしれない。


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突然の大雪でも、朝早くから社員が自然と集まり、自主的に雪かきを行なう。また、年を通してそれぞれの社員が、敷地を越えて周辺も意欲的に掃除する。

 

 

 


 

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会社も街づくりの一環と考える同社では、本社・北丘工場周辺の緑地一帯を「かんてんぱぱガーデン」と名づけ、多種多様な植物を育てている。

 

 

 


 

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朝礼や月例会など、部門を超えて社員が集まる場が数多く設けられている。

 

 

 


 

「おもてなし経営」は、社員のやる気や能力、またはビジネスモデルなどの条件を整えてからでないと目指すことができないと思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、「おもてなし経営企業」では、「おもてなし経営」を皆で一丸となって目指しているということ自体が社員のやる気や能力を高め、独自のビジネスモデルの構築へと至っていることが多い。また、その「おもてなし経営」へのこだわりの度合いにも目を見張るものがあった。たとえば建設廃棄物処理業を営む石坂産業(埼玉県|下写真)は、地域貢献の一環として自社の管理施設面積の大半を「森林パーク」として造園管理し開放しているが、その一見本業とは直接関係がないと思われる森林の手入れは、圧倒的なまでに徹底されていた。


 

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2011年、電気駆動式油圧ショベルを用いた二酸化炭素排出削減事業を開始。屋内作業場での排ガスや排出熱の低減など職場環境の改善が可能となった。

 

 

 


 

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「三富今昔語りべ館」は古民家をそのままに残し、江戸期から昭和初期の衣食住や、仕事にまつわるあれこれを、時代、様式別にわかりやすく展示。堆肥熱で湧かす資源循環による「足湯」もある。

 

 


 

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受け入れや処理待ちの運転手に弁当を販売したり、待機中のトラックのアイドリングストップが可能となる待機場所を設けるなど、運搬業者への「目配り、気配り、心配り」も欠かさない。

 

 


 

そうした数多くの「おもてなし経営」に触れる中で、ほとんどの企業に共通していると思われた要素を皆様にご紹介したく、「5つの柱」として次にまとめた。

【1】理想の人材像に忠実

「おもてなし経営」の風土づくりにおいて最も大事なのは、「人材採用」であると多くの経営者が口を揃えてお話しになっていた。多くのおもてなし経営企業には、理想とする明確な人材像があった。たとえば飲食業を営む物語コーポレーション(愛知県|下写真)は、「意思決定のできる人」を採用の重点項目にしている。そのため、中途採用を積極的に行っているがそれは、応募者は「一度〝退職〟という決断をした人」だからだという。

いわゆる社会人として多くの企業が望むような、オールマイティーな人材は実際にはほとんど存在しない。それよりもむしろ、この一点だけは譲れないという点を明確にし、その軸に忠実に採用活動を行うことのほうが、企業風土や一体感の形成につながり、ひいては業績面にもつながっていることが伺えた。

また、明確な軸を持った採用を続けていくと、それにそぐわない人材はおのずと辞めていく。これは決して積極的に排除されるという意味合いではなく、ある種の居心地の悪さを感じ、みずから意思決定をして違う道へと進んでいくのだ。

そうした事情から、離職率の高さを一概に悪とみなすことはできない。冒頭で述べたように、おもてなし経営の実現には長い年月がかかるため、その進行具合は企業によってさまざまだ。まさに風土が形成される途上であれば、離職率が2桁あっても不思議ではないのだ。この点も、採用活動の功績と言えるだろう。


c055-08年に1度の「物語ファミリーコンベンション」は経営理念「Smile&Sexy」を体現したエピソードを共有・賞賛する同社のイベント。この日ばかりは全店舗が休業。社員やアルバイトはもちろん、FC店舗のオーナー、新入社員の家族、新婚の社員の妻まで一堂に会する。


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充実した教育制度によって、社員が成長を実感できることも、離職率が低い理由の一つ。

 

 

 

 


 

【2】理念経営の実践

今回さまざまな企業の経営に接する中で、「おもてなし経営」を実現している企業はいずれも理念経営を行っていることが印象的だった。

どの企業も、信念をもって自社の理念を定め、理念に従って経営を実践し、またそれを現場の社員と共有・昇華させる仕組みや風土があった。そのためにクレドを制定したり、現場での行動指針に落とし込んだりする事例も多いが、そうした“型”は真似できても、それらは本当にただの“型”なのだということを実感した。

選出企業の中で非常に好例だと感じたのは、清掃サービスを提供する四国管財(高知県|下写真)だ。サービス業では「笑顔・挨拶」を大切にするのが一般的だが、同社はこれをただ実行しようとするのではなく、まず「本人が幸せでないと笑顔になれない。心のこもった挨拶もできない」という根本的な課題を突き止めた。そこで、スタッフの家庭の相談にまで乗ってくれるような、スタッフ個人をサポートする制度を整えたのだ。これが、結果的に同業他社との差別化競争から頭ひとつ抜ける理由となるほどの心のこもったサービスを実現している。


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清掃業務や病院サポート業務などに携わるスタッフ。「笑顔と挨拶」を大切にしている。

 

 

 


 

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行動指針である「四国管財ベーシック」や、自分の夢を書き込んだ「ドリームカード」を全員が所持している。

 

 

 


 

また、創業者と社員との精神的な距離が近いことも挙げられる。たとえば、ネットワークエンジニアの派遣事業を行うアイエスエフネット(東京都|下写真と図)では、経営者の動画メッセージを毎月配信している。同社は障がい者や引きこもりなどの就労が難しい人をトレーニングし、派遣できるレベルにまで育てているが、約1700人の正規社員を抱える。そこで動画を活用し、全社員に分け隔てなく、理念に立ち返ってもらえる機会が提供されていた。


 

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社員はみな、スーツを着用する。これが社員の自尊心とモチベーションを高めることにつながっている。

 

 

 


 

(図をクリックで拡大)社員を家族に見立てたバーチャルな組織「CORE(コア)制度」。Copyright ISFnetGroup. All Rights Reserved.

 

 

 

 

 


 

ほかにも、葬祭業の清月記は、一人ひとりが仕事を含めて人生の目標を見つめ毎週ディスカッションする「ゆめ塾」に社長自らが参加するなど、複数の企業で経営と現場を近づける工夫が行われていた。理念を伝えるときに、理念を伝承するための象徴的なストーリーやエピソードをどの企業も持っていたことも、印象的であった。ただ、理念の浸透の仕方にはセオリーのようなものはなく、さまざまな形が存在した。

【3】きちんと利益の出るビジネスモデルがある

これは企業として大前提の話かもしれないが、いずれの企業も、しっかりと利益が出るビジネスモデルを有していた。それも、いかにも高収益を上げられそうな業種などではなく、むしろ収益を重視するなら敬遠されそうな業種にもかかわらず、地道に経営の仕方を模索した上で確固たるビジネスモデルを構築していた。最初から高収益が見込めるビジネスモデルを構築しているから、利益が出ているというわけではないのだ。

前述のアイエスエフネットは、未経験の社員が十分なトレーニングを受け一人前のエンジニアになるまでに約3年を費やしている。工場などで用いられる清掃用の布や軍手などを洗浄し、再利用してもらう事業を展開する日本ウエストン(岐阜県|下写真)では、「循環型社会の形成」を目指し、洗浄時に出る廃水さえも、微生物による廃水処理システムを導入することで、再生処理水として再利用している。このような事業がどうして儲かると思えるだろうか。だが、これらの事業はいずれも同様のサービスと比べ、同等かそれ以上の価格を設定している。顧客がその価格水準、つまりその背景にある付加価値を十分に認めているからできることだ。

当然ながら、収益が不十分なのに福利厚生に力を入れたり、地域への社会貢献活動をしたりはできない。一見、大きな収益化は難しいと思われるモデルで成功を収めているその背景にあるのは、経営者の学びの姿勢とたゆまぬ努力だろう。経営者が研鑽を重ねているからこそ、利益を確保でき、余裕が生まれ、現場の風土づくりや社会貢献に注力できるという流れが生まれている。


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生産工程や品質管理の光景。商品の製造環境および商品の品質は、業界ダントツを宣言している。ライバルをあえて挙げるなら、「それはお客さまの期待と要求だ」としている。

 

 


 

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社内勉強会の風景:ベンチマークしている優良企業や外部講演のVTRを観賞し、「気づき」の共有を行なう。

 

 

 


 

【4】仕事の価値が明確

「おもてなし経営企業」では、会社が最も大切にすべき価値が明確になっており、それに対して全社員が使命感を持っている。言い換えれば、自分たちの存在意義を明確に意識しているのだ。何社か現場を訪れた企業にて、若手スタッフがヒアリングに同席したケースもあったが、皆堂々としていたことが強く印象に残っている。社内で社員とすれ違い、挨拶を交わすだけでも、生き生きとしていることが感じられた。経営者だけが優秀であったり、牽引力があったりするだけでは、おもてなし経営は実現できないのだ。

また、仕事の価値が明確だと社員がそれに集中しやすくなる。「おもてなし経営企業」では、それを後押し、顧客満足が自然と高まるような特徴があることも、複数の企業に共通していた。たとえばスーパー「主婦の店さいち」を展開する佐市(宮城県|下写真)は、同業態には珍しく売上の5割超を惣菜が占めている。300もの品数を30人ほどの主婦のパートスタッフが朝から仕込み、その味が地域の人気を博しているのだが、肝は「レシピがない」ことにある。惣菜の味や作り方は、全て社長の奥様である専務が決める。それを担当のパートスタッフに手取り足取り教え、商品化している。いわば口伝なのだ。レシピを撤廃した理由は、ある日、お客様から味に関するクレームがあり、担当スタッフにどのように作ったのかを尋ねたところ、「レシピ通りに作りました」という答えが返ってきたのみで、作業が機械的になってしまっていたからだ。レシピ通りに作っておしまいでは料理に心がこもらなくなる。自分の担当する惣菜を各自が心をこめて調理し、陳列まで行うという徹底ぶりが、多くの顧客の心をつかんでいる。


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大人気のおはぎ(1個105円)をつくる様子。この看板商品は一人の顧客の声から生まれた。

 

 

 


 

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人気のおはぎコーナー。「棚に入れた瞬間からなくなっていく」ときもある。

 

 

 


 

【5】価値を実感できる働きかけ

仕事の価値が明確であると同時に、仕事の価値を感じられるようにする働きかけがあることも共通している。これはたとえば、顧客の喜びの声や、自分たちの事業の成功が地域の活性化に直接影響を及ぼしていることを実感できるような仕組みがあるということだ。仕事を終えるたびにその価値を感じられれば、毎日目の前のことに一生懸命に取り組んでいくことができる。

たとえば新幹線内の清掃を手掛けるJR東日本テクノハートTESSEI(東京都|下写真)では、1年を経たらパートスタッフの誰もが社員登用の試験を受けられる。現在、管理職の8割はパートスタッフ出身だ。しかし、スタッフのモチベーションを高めているのはそれだけではない。「なぜそんなに仕事を楽しそうにしているのか」と尋ねたところ、「ただ掃除しているだけではない。私たちはお客様に感謝されるのが仕事なのだから、こんな楽しいことはない」という答えが返ってきた。自分の仕事は何であるのかについて、描いているスケールが違っていた。

その背景には、こんなきっかけがあった。あるとき、スタッフのユニフォームをいわゆる掃除業者のそれから飲食などのサービス業で使われるようなデザインへと切り替えたのだ。それはただのユニフォーム変更ではなく、社員の意識を変える具体的なきっかけとなった。それを引き出す工夫を経営層もしていたのである。

経営層から押しつけられるのではなく、向上しようという自発的な心持ちになる働きかけが、おもてなし経営の実現には欠かせない項目だと言えるだろう。


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電車がホームに入ってくると、清掃員が一列になって出迎える。安全確認の意図で行なっているものだが、赤い制服がきれいに整列した姿は壮観だ。

 

 

 


 

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同社が「劇場」と呼ぶ清掃現場。その作業スピードとチームワークは一見の価値がある。

 

 

 


 

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