【第8回クオリティサービス・フォーラムレポート】 社長業は、社員一人ひとりの幸せを願って命がけ



株式会社坂東太郎

代表者:青谷 洋治 代表取締役
所在地:茨城県古河市高野540-3
設立年月:1975年4月
URL:http://www.bandotaro.co.jp/
事業内容:外食産業
展開するブランド:ばんどう太郎、かつ太郎、海のさむらい、他
社員数:正規183名、パート・アルバイトなど2,000名


※『季刊MS&コンサルティング 2015年冬 特別号』掲載
※記載されている会社概要や役職名などは、講演(掲載)当時のものです。ご了承ください。


「働かせたくない」と言われて

私ども坂東太郎は、平成24年度おもてなし経営企業選に選出していただきました。私が涙が出るほど嬉しかったのは、賞をいただいたのが私ではなく、会社でもなく、「従業員ご一同様」だったことです。日本という国が、間違いなく働く人一人ひとりに目を向けていることの表れではないでしょうか。これも、働く人の大きな誇りになるだろうと思います。選出の連絡を受けてすぐに、スタッフに「皆が頑張ってくれたから表彰されたよ」と報告しました。

私どもの会社は経営理念に「親孝行・人間大好」と掲げています。創業した39年前当時は、親孝行というのは当たり前すぎて、経営理念としてはなかなか理解されにくいところがありました。

ですが私どもは、若い人の働く環境をつくりたいと思うからこそ、こうした理念を掲げたのです。きっかけは、こんな出来事でした。店を始めたころ、一人のアルバイトを採用させていただきました。書面で親御さんの承諾を得ていたはずが、実は本人が印鑑をついていたもので、親御さんは何も知らなかったのです。


あるとき、私の目の前で、彼は親御さんに連れ去られました。「お前の会社で働かせたくない、飲食店といえども水商売だ」と、そう言われたのです。39年前の話です。当時は街の食堂もそのように見られることがありました。

これをきっかけに、私は「どうやったら、この会社で働くことを親御さんに認めてもらえるか」と考えるようになりました。飲食業ではありますが、ネクタイを買い、Yシャツを買い、身なりも整えました。


「志」を持つことの大切さ

うちで働く人が、周りから憧れられる存在になって欲しい。昔の話ですから社名を挙げても良いかと思いますが、目指す姿を明確にしようと、皆の憧れの的だった全日空のキャビンアテンダント、当時でいうスチュワーデスさんを目標にしました。そして、料理人はパイロットです。食の仕事も、命を預かる仕事です。そんな大きな志を持って、皆で一丸となり日々の仕事に邁進してきました。

その積み重ねを経て、「女将さん制度※」を取り入れた今では、女将さんから「うちの子が女将さんの姿で授業参観に来て欲しいと言うんです」と、そんな声を聞くまでになりました。信じられますか?子どもたち、またお母さんにとって、うちで働くことが誇りなのです。39年かかって、やっとここまで来られました。

私どもサービス業は、接客業と言われることもありますが、私は「接客」という言葉はできるだけ控えています。お客さまと接する間だけではなく、店の玄関に入られるところからお見送りまでが仕事です。仕事を通して人として学び、それを家庭にも持ち帰ってほしいと考えています。

研修を終えたスタッフが家に帰り、子どもの呼びかけにいつもより大きな返事をしたら「お母さん変わったね。お母さんみたいになりたい」と言われたそうです。店で得た学びを家庭に持ち帰り、家庭が良くなると、地域も良くなり、ひいては日本が良くなる。経営者一人ひとりの志の高さが、日本を変えていきます。

私は子どものころ、おふくろに「志」という言葉を何度も聞かされました。今は情報があふれていて、ひとつのことを地道に積み上げていくのが難しくなっているように思います。そんな時代だからこそ、志の大切さを紐解いて、「私たちは何のために仕事をするのか」を改めて考えてみてはどうでしょうか。

※女将さん制度:同社では、各店に1~2人、接客・おもてなしの要として、割烹着やたすきがけ姿の「女将さん」が存在し、おもてなしを支えている。


お天道様が見ているよ

当社では毎年、一人ひとりお世話になった方へ感謝の手紙を書いています。今年はそれに加えて、お母さんに手紙を書こうという社長命令を出しました。私のように、おふくろが早く亡くなっていたら、お母さん代わりの方に感謝を伝えよう、と。感謝の反対語とは、何でしょうか?私は「愚痴」だと思います。日々感謝しながら働くのと、愚痴をこぼしながら働くのとだったら、行動が変わるのは明らかです。

今日ここに学びに来られた経営者の方々は、「いい会社をつくろう」という志を持った社長さんばかりだろうと思います。社長業は、命がけです。働く人に対して命がけで、一人ひとりの幸せを願っています。若い人には古臭く思われるかもしれませんが、私は時代を問わず、社長に求められる姿勢は変わらないと思っています。また、志の高い社長さんには、儲け主義の会社とではなく、同じように周囲からいい会社といわれる会社と仕事をしていただけたらと思います。

最後に、私のおふくろがいつも言っていた昔の言葉を、改めて新しい言葉としてお伝えしたいと思います。それは、「お天道様が見ているよ」という言葉です。どんな仕事も、お天道様が見ているからしっかりやりなさい、努力は裏切らないと、そう捉えています。当社でいう「親」は、生みの親だけでなく、上司や先輩など、お世話になった全ての人をいいます。私どもはこれからも「親孝行」を大切に、そして働く人を大切に、邁進して参りたいと思います。

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