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スタッフの自主性や共感を重視し、 国内市場のさらなる開拓へ弾み

プレッツェルジャパン株式会社

http://www.auntieannes.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2012年秋号』掲載
取材:西山博貢、文:高島 知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

2010年11月、池袋東口に日本初号店をオープンしたプレッツェル専門店「Auntie Anne's(アンティ・アンズ)」は、日本人にはあまりなじみのなかったプレッツェルのおいしさとともに接客の親しみやすさでも受け入れられ、現在では関東に11店舗を展開中だ。急成長の要因と、人材育成やフランチャイズ展開など今後の展望を伺った。

“プレッツェル”というと、日本ではハードタイプのスナック菓子がイメージされることが多いが、その概念を打ち破ったのがプレッツェル専門店のアンティ・アンズだ。1988年にアメリカで生まれたアンティ・アンズは、もちもちとした生地とたっぷり楽しめる大きさでたちまち人気を博し、FC展開を推進して今では世界24カ国で約1,200店舗を経営するまでに成長している。

大宮駅前店


日本では、2010年2月に運営母体であるプレッツェルジャパン株式会社を設立、同年11月に1号店をオープンした。アイスクリームショップ「コールド・ストーン・クリーマリー」や、ドーナツショップ「クリスピー・クリーム・ドーナツ」などの日本への導入と運営支援を行っているコンサルティング企業の株式会社リヴァンプが手がけている。  プレッツェルジャパンは企業理念として、「たくさんのプレッツェルを通じて、たくさんの笑顔を届けよう」と掲げている。言葉に注目すると非常にシンプルだが、これにたどり着くまでの経緯に同社が経営において大切にする精神が既に現れていた。この理念は、創業時のメンバー5人で「何を大事にしていく会社にするのか」を徹底的に話し合った末に生まれたものなのだ。 元々、アメリカのアンティ・アンズにははっきりと明文化した理念がなかったのだが、リヴァンプにはこれまでの事業運営経験から、企業経営には理念が非常に重要だという共有認識があった。同社出身であり、現在プレッツェルジャパンの代表取締役社長を務める小松俊介氏は、当時のことをこう振り返る。

「私を含め、創業時のメンバーは、それぞれが想いをもってこの新事業に参画してきました。その想いの分、個人の生き方や価値観と企業の方向性がある程度合致していないと、これからスタッフが増えて母体が大きくなったときにベースがぶれてしまう懸念がありました。そこで、まず一人ひとりが自分の人生において大切にしていることを紙に書いて持ち寄り、共通点を探りながら『何を大事にする会社なのか』を明確にしていきました」

「Auntie Anne’s」にはテイクアウト専用店とイートイン併設店の2種類がある。「テイクアウトのみの店では、どうしてもお客様に接する時間は限られますが、それでも気持ちのいい接客はもっと追求していけると思います」と谷口氏。


 店舗の訪問時は、接客側に一緒に入る

そうして集約したのが、事業を通してお客様はもちろん従業員、取引先など関係者すべてを幸せにしたい、それによって自分も成長したい、というビジョンだった。まだ日本市場にないソフトタイプのプレッツェルを、日本の食文化として定着させるために、一つでも多くプレッツェルを食べてもらいたいという気持ちを込めて先の理念にまとめ上げた。また、これを実現するために「誠実であれ、正しくあれ」「常に挑戦しよう」など5つの行動指針をコアバリューとして明文化した。

当然、その後に次々と加わる新メンバーも、理念に基づいて一緒に進んでくれる人でないといけない。そこで社員やアルバイトスタッフの採用では、アンティ・アンズの価値観に心から共感するかどうかを重視したところ、「自然と素直な人、前のめりすぎるくらい積極的で純粋な人が集まった」と小松氏は話す。

その中心となるのが、現在同社で唯一のスーパーバイザー(以下SV)を務める谷口久枝氏だ。「コールド・ストーン・クリーマリー」での働きぶりがリヴァンプ経営陣の目に留まり、当初は1号店の店長として声がかかった。約半年後にSVとなり、次々と新店舗がオープンする中でアルバイトスタッフの面接に立ち会い、今でも各店舗を回りながらより良い運営を模索しているという。

心掛けているのは、店舗の訪問時に一歩引いた姿勢で“チェックする”のと同時に、同じユニフォームを着て店長やアルバイトスタッフと一緒に接客に入ることだ。数時間から長ければ1日、「同じ目線で時間を過ごす方がスタッフの個性が分かるし、いろいろな課題に気付くこともできる」と谷口氏は話す。その上で、例えば閉店後などに「今日はどうだった?」と問いかけ、相手の考えや感じていることを聞く。本部の立場から「ここが悪かった」と押し付けるのではなく、あくまで店長やスタッフを主体に課題意識を引き出していくという。共に接客にあたっているだけに打ち解けやすく、話の説得力も増す。

(左から)「Auntie Anne’s」を運営するプレッツェルジャパン株式会社の店舗オペレーションチーム スーパーバイザー 谷口久枝氏、代表取締役 小松俊介氏、マーケティング・PRチーム マネージャー 井川沙紀氏。


各店の状況を把握できる仕組みを探求中

ただ、店舗も10を超え、状況の把握も以前よりしにくくなってきた。そこで今、谷口氏が取り組んでいるのが、店長同士のグループ制度だ。「3店舗ずつに分け、その中で持ち回りでリーダーを決めて、毎日その人を介して3店舗分の状況報告や私から店舗への連絡をやり取りできる仕組みを試しているところです。SVは私しかおらず、全てが試行錯誤ですが、任せてもらえているので、スタッフとの会話を大事にしながら、効果がある方法を自分なりに探しています」と谷口氏。

アンティ・アンズの接客に、マニュアルや決まりごとはほとんどない。その代わり、理念や行動指針を常に口に出して伝えているという。他店で起きたミスも、行動指針に照らし合わせるとどう対応すべきだったのかなど、生きた教材として活用している。

「たくさんのプレッツェルを通じて、たくさんの笑顔を届けよう」の理念どおり、スタッフの心からの笑顔も顧客を引き付ける大きな要因に。MSRの評価を活かし着実に改善するなど、成果を上げている店舗の具体的な取り組みを把握し、別の店舗へと展開している。


また、店舗をつなぐツールの一つとして、本部スタッフが発行するファックス報「週刊ほーりー」がある。お薦めトークの上手なスタッフのトーク例や、季節商品の売上状況などを掲載している。ちなみに“ほーりー”とは本部担当者のニックネーム。スタッフが皆ニックネームで呼び合っているのも、同社の求心力の要因となっている。

本部と各店舗で連携する項目として最近加わったのが、ミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)だ。「いくら本部が見ているといっても、やはりお客様の声に最も店のありのままが表れますし、それを無視することはできません。たった一つの意見でも、書かれたことは事実ですから、真摯に受け止めたい」と小松氏は話す。

MSRの結果が届いたら、谷口氏が重要なポイントにマーキングやコメントを入れて、すぐに各店にFAXしている。それが自然と壁に貼られ、さらにアルバイトスタッフが読んで感じた事を「気付きシート」に記入し、自主的に貼り出している店もあるという。

「アルバイトスタッフの年齢層や学生の割合などによって、店舗ごとにMSRの活用や改善の進捗に差は出てきますが、毎週行っている店長ミーティングで取り組み事例を共有し、水平展開するように努めています」と谷口氏。顧客の声をもっとスピーディーに反映させていくことが、直近の課題だ。

忙しく働く店舗スタッフに簡便なのは、メールよりもFAX。同社では連絡事項のほとんどにFAXを使っており、MSRの結果も自然とスタッフが壁に貼るように。また、「お薦め商品を強化しよう」と、アルバイトスタッフ主導で独自の売上表を貼り出して切磋琢磨している店も。


FC展開に乗り出し国内100店舗を目指す

今後に見据えている展開の一つは、FCでの事業拡大。年内に実現させる予定だという。ただ、FCに際してどの業態でも課題になるのが、理念をどこまで浸透させていけるかという点だ。

「当社が大事にしている価値観は、ある意味では人が働く上で普遍的な内容でもあるので、理解されにくいとは思っていません。FC加盟店も直営店スタッフと同じように、理念に共感してくれる方々に仲間になってもらえればと思っています」と小松氏は現時点での考えを話す。MSRも数値化されている分、「店の状態を客観的に把握し共有するための一つのツール」(谷口氏)として、FC展開の土台作りになると捉えている。

目標は、2015年に国内100店舗。一つでも多く、笑顔でプレッツェルを届け続けて達成を目指す。

ハードタイプのスナックとは違う、もちもちした生地が日本人の嗜好にもマッチし人気を集めているプレッツェル。そのおいしさのために、お店で一から手作りし、焼きたてを提供している。商品ラインナップは定番フレーバーのほか、季節ごとの商品もリリースしている。


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