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課題はテナント同士のつながりづくり。 コンテストやイベントで交流図る。

株式会社東急モールズデベロップメント

http://www.tokyu-tmd.co.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2012年秋号』掲載
取材:西山博貢、文:高島知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

それぞれに個性があり、ジャンルも多彩な店舗が一堂に会する商業施設で、施設としての一体感を持ってお客様を迎えられるようにする人材育成のポイントは、どのような部分にあるのだろうか。開業12年、接遇研修で多数の実績を持つ株式会社センチュリーアンドカンパニーと協力してCS向上に取り組んでいる、株式会社東急モールズデベロップメントのグランベリーモールの取り組みについて伺った。

最寄駅を出ると、そこからまるでひとつの街のように自然に敷地内に足を踏み入れる、そんな構成となっているのが商業施設「グランベリーモール」だ。2000年に開業したアウトレット併設の施設で、現在は約100店舗のテナントを擁する。東急田園都市線の南町田駅の南側に位置し、東急グループの東急モールズデベロップメントが手がけている。

一つの建物の中で回遊通路に面してテナントが並んでいる「エンクローズドモール」と違って、グランベリーモールは各テナントが独立した店構えを持ち、路面店が並んでいるような「オープンモール」のスタイルをとっている。

チェーン展開のテナントも多いため、どこまでSC側が踏み込むべきかは線引きに悩むところだ。佐藤氏は、「モールとしての統一感や、顧客視点でのアドバイスを伝えながら、そういう話ができるようになっていくと、やがて店舗側から意見を聞かれるようにもなる。そうしてともに考えられるようになれば」と話す。


顧客にとっては街歩きの気分で多岐に渡るジャンルの買い物を楽しむことができ、また敷地内に公道があり24時間通行可能なため、近隣の住民が緑多き施設の雰囲気を楽しみに来たり、犬の散歩ついでに毎日訪れることも珍しくない。開業当初は、交通の利便性とアウトレット併設という特性から広域集客を見込んだショッピングセンター(以下、SC)という位置づけだったが、この数年で近隣にマンションも増え、前述のように散歩コースとして立ち寄ってしばらく時間を過ごすような近隣住民も多くなった。

そこで、06年に映画館やフードコートなど時間消費に適したテナントを増床するなど、進化する顧客ニーズに対応してきている。その効果もあり、最近では平日の利用客も比較的多い。客層の変化に伴って、本部では08年頃より「リピーターを増やそう」という方針を各テナントと共有するようになったという。

入店研修は2ステップで展開し、月4回行うファーストステップは館内利用や各種手続きなどのガイダンス、月1~2回行うセカンドステップにモールとして提供したいサービスや価値などを学ぶマインド研修を入れている。

以前は両方とも事務所スタッフが行っていたが、マインド研修は担当者によって内容や伝わり度合いにばらつきが出てしまうことが課題だった。そこで昨年より、接遇研修を提供する株式会社センチュリーアンドカンパニーに委託。笑顔ひとつにしても、具体的な表情まで踏み込んだ研修が実現できるようになった。

同社のプロのマナー講師による覆面調査も導入し、それを踏まえた各テナントとの面談も開始した。以前から覆面調査は行っており、結果も返してはいたものの、フィードバックが不十分だったこともあり、課題が明確にならないまま次の調査が入るというサイクルを繰り返していたという。何度か同社のフィードバック面談に立ち会ったという佐藤氏は「店長の取組姿勢がよく分かって参考になった」と話す。

グランベリーモールマネジメントオフィス総支配人 佐藤和弘氏、営業企画担当 木村有希子氏


また、「気をつけているようで、笑顔と挨拶がまだ足りないという状況があった」(木村氏)ため、今一度、グランベリーモールで大切にしている素敵な笑顔について考えるきっかけとして、この夏に「ベストスマイル賞」選出企画を展開した。モール内で働く約1300人のスタッフを対象に、スタッフ同士で笑顔が素敵な人に投票するというものだ。

投票は任意だが、できるだけ参加を促すために、佐藤氏はこの企画に込めた意図をテナント向けの手紙にしたため、各店に配布。「手紙、見た?」と声をかけながら、店舗を廻ったという。

ハロウィンパレードを毎年開催している。ハロウィンの仮装をしたお客様が、グランベリーモールに集合し、施設内を大行進するイベントだ。毎年大勢の人が集まり、盛り上がりを見せている。


この企画には、笑顔を意識し、投票企画でモチベーション向上につなげる以外に、もうひとつ意図があった。それは、テナント同士の交流を生み出すことだ。「SCサイドとしてはオープンモールの運営に課題も多い」と佐藤氏は話す。「テナント同士が物理的に区切られている分、他店との交流が生まれにくいのです。私は駅ビル開発などを経てこの2月に就任したのですが、施設の一体感の創出や、仲間作りが課題だと感じました」。その対策としても、他店のスタッフを見て投票する企画は有効だと判断したわけだ。

木村氏含め3人のスタッフで約100店舗を担当。契約関係の管理は担当を分けているが、基本的に全ての店を全員が回っており、誰でも対応できるようにしている。


店舗が何を求めているのかしっかり把握し施策に反映

そうして9月上旬、約350人が参加したスタッフパーティーにて、10人のベストスマイル賞が発表された。「効果を継続させるために、選出された人にはベストスマイル賞を示すバッヂを提供し、年間を通してつけてもらいたいと考えています。スタッフの皆さんのモチベーション向上とともに、お客様にもモールとしての取り組みに関心を持っていただくきっかけになれば」と佐藤氏。

店長同士のつながりをつくりたいという意図から、この春には店長研修を講義形式から店長同士のディスカッションを中心とした形式に変更し、研修後に懇親会も行った。テナントの規模はさまざまで、運営母体から届く情報の量にもばらつきがあるため、同じモールで働く店長同士ならではの情報交換を促している。

ベストスマイル賞の発表を9月上旬に開催したスタッフパーティーで行った。懇親会では、棟ごとに席を決めるなど、意識的に今後の交流につながるよう、工夫している。


さらに、今年から施設独自のロールプレイング大会(※)の企画にも着手している。これまでは、施設側が必要だろうと思う研修を単発で企画していたが、“聴く姿勢”を意識して今年3月、スタッフに「どんな研修を受けたいか」というアンケートをとった。そこで接客技術の向上を求める声が多かったこともあり、大会の実施を決定。事前の説明会を通して関心を喚起し、参加希望率も上々だという。

※ロールプレイング大会 制度の強制ではなく、スタッフの声を聴く姿勢を大切にしている。「ロールプレイング大会」は、今年3月にスタッフにアンケートを取り、声の多かった接客技術の向上を目指して実施が決定された。

ロールプレイング大会は、全国的に社団法人日本ショッピングセンター協会(以下、SC協会)が毎年行っており、これまでは施設として積極的に告知・募集はしてこなかった。それが今年は、前述の取り組みなどにより関心が高まり、初めてSC協会の大会への参加希望が複数あったという。今回はモールでの実施時期が合わなかったために予選会を別途設けて参加店舗を選出したが、来年以降は、モール内の大会を予選会と兼ねる予定だ。

館内で行われたロールププレイング大会の予選シーン。株式会社センチュリーアンドカンパニーと協力して企画・運営を行っている。


SC事務所、テナント、テナントの運営母体、と立場の異なる者が関わるSCの運営では、関与の度合いや線引きが常に課題になる。その中でもフラットな立場で、モールのルールはしっかり保ちつつ、一緒に向上していける関係になれればと木村氏。「スタッフのグランベリーモールへの好感や前向きな姿勢は、必ずお客様に伝わり、いい循環が生まれるので、それをサポートしていきたいですね」。

「ここで働けてうれしい、という状態をつくるのが目標です」と佐藤氏は掲げる。テナントのスタッフに“グランベリーモールを好きになってもらう”ことを大事にしていくのが事務所スタッフの意向だ。

打ち水イベント:夏の間、各テナントにバケツとひしゃくを配布し、午後2時の放送を合図に皆で打ち水を行った。ちょっとした施策だが、これをきっかけに顧客との会話も生まれ、施設全体でがんばろうという意識付けにもなる。​​​​​​​

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