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積極的に現場からの意思を取り入れる「ボトムアップ組織」を目指して

株式会社ソシエ・ワールド

東京都新宿区西新宿2-7-1

ウェブサイト:http://www.hair.socie.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2009年春号』掲載
取材:小林栄貴、文:西山博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

職人気質の美容師が多く、サービスよりも技術を重視する考え方が色濃く残る美容業界。そのような中で、いち早く「組織として顧客感動満足の向上に取り組む」ことの必要性・重要性を認識し、ミステリーショッピングリサーチを導入した株式会社ソシエ・ワールド。ヘアー事業部マネージャー 中井孝二氏にお話を伺った。

「個」と「組織」の兼ね合いが難しい美容業界

まず美容業界全体の現況として、美容師という「個人」と、店舗や会社という「組織」との兼ね合いが難しいと言えると思います。

昔に比べれば少しずつ変わってきているのでしょうが、やはり依然として職人気質の美容師が多いですね。技術に関して向上心が強いという点については、職人気質も決して悪いことではないのですが、そうした考え方の延長として、「自分より技術が優れている人の話しか聞かない」という傾向がみられ、組織としての統制が効かない状態になりがちです。また、美容室では「店」ではなく「美容師個人」にお客様が付くことが多いのも事実です。美容師が店を移ると、お客様も一緒に移動してしまう。そういう現実があるから、マネジメントする側もあまり強く言えないという側面があり、美容師はいつまで経っても「個人でやっている」という感覚が抜けないのです。

しかし弊社では、美容室を単なる美容技術を提供するだけの場にはしたくないという想いがあります。お客様に喜んで頂くことが目的であって、美容技術はそのための手段の一つに過ぎないのです。

実際、弊社には「お客様が取れるフロント担当者」がいるのですよ。何の技術提供もしないフロント担当なのに、お客様から「あなたに会いたくて来たのよ」と言って頂けるのです。これも、お客様が美容室に求めているのは技術だけではないという、一つの証拠と言えるのではないでしょうか。


スタッフのホスピタリティ教育が最優先課題

ただ、残念ながらそういうスタッフはまだ一握りであって、全店舗を並べて見るとサービスレベルにはバラつきが見られる状態でしたので、こうした状況を改善しようと、これまでも色々な取り組みを行ってきました。

その一つに、ある非常にCSの高い美容室の事例を研究テーマとして勉強会を開いたことがあります。ところが、出店しているデベロッパーに合わせた上質な接遇をモットーとしているソシエヘアーに対して、その美容室はアットホームな接客を売りとした美容室だったために、「ああいう接客は、うちのブランドとは馴染まない」という意見が出て、結局浸透しませんでした。

しかし、この勉強会の反応を見ていて、気付いたことが一つありました。それは、サービスの根幹にあるホスピタリティの精神の部分を、まずは育てていかなくてはならないということです。確かに、勉強会の事例で取り上げた美容室と弊社では、ブランドの方向性は大きく違いましたが、「お客様に喜んで頂くために」という基本的な考え方については、学ぶべき点がたくさんあったはずです。しかし、スタッフの感性が十分ではなかったために、目に見える手法の部分だけを見て、「うちとは目指すべき方向が違う」という結論しか導けなかった。そのことが問題であるということに気が付きました。


様々な定性的・定量的変化が生まれた背景

そうした課題を解決するためにミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を導入して、今月で8ヶ月目になりました。成果として、スタッフの意識が変わってきたということを強く感じています。

例えば、ミーティング等の場での発言が目に見えて増えましたね。それも、今までは指示を受ける側だったスタッフの発言がものすごく増えてきて、改善のためのアイデア等を積極的に提案するようになりました。これは、MSRをやることによってアイデアが浮かぶようになったというよりも、今までもきっと色々と言いたいことはあったのでしょうが、MSRを通じて「お店のためなら、自分も発言して良いんだ」という意識が芽生えたということではないかと思っています。

MSRの成果が、数字にはっきりと表れている店舗もあります。そこは店長もまだ新人で、立地やその他のスタッフといった条件にも特別なところはない、むしろ条件的にはあまり良くないという店舗なのですが、8ヶ月間の全店平均が166点の中、初回調査は165点からスタートし、その後8ヶ月間の平均は179点と全店のランキングでも上位3位に入るほどにまでなっています。さらに、顧客感動満足が高まってきた結果ということなのでしょうが、売上も伸び続けています。それも、微増というレベルではなく、前年同月比で大手人気チェーンが平均97%~100%であったのに対して、110%というような伸びです(2008年9月~12月平均)。客数、再来店率、客単価も全て伸びています。

本当にものすごい勢いで伸びたので、どんなふうに取り組んでいるのか聞いてみたら、担当マネージャーが毎月全店舗のMSRの結果を一覧表にしたものを作って、良かった点・悪かった点を朝礼で毎日一つずつ読み上げているということでした。その店舗では、良かった点である入退店時の挨拶をさらに伸ばす為に、店長が全来店顧客に対して必ずご挨拶をし、お客様のお帰りの際にも意識して心のこもったお声掛けを行いました。さらに、自店の改善だけではなく、他店舗の悪かった点を反面教師として、自店ではどうするかを考えて行動していった結果、これだけ伸びることができたと。「これはすごい」ということで、今ではこの取り組みが全店に広がっています。

それから、4ヶ月前には、店長などの現場スタッフを中心とした、全社横断型のプロジェクトが4つ立ち上がりました。先ほど、スタッフが積極的に発言するようになったとお話ししましたが、そうやって発言されたものに対して、言いっぱなしではなく何らかの形に落とし込んでいかなければ駄目だということで、「企画」「集客」「教育」「ホスピタリティ」の4つのテーマごとにプロジェクトチームを作り、それぞれの取り組みを進めています。以前から、社長や本部長等は、「積極的に現場からの意見を取り入れる」と言ってきたのですが、なかなか現場から意見が上がってこないため、結果的にはトップダウンでしか物事が進まないという状況でした。しかし、これらのプロジェクトを機に、ボトムアップの動きをもっと伸ばしていきたいと思っています。


成功体験を積むことが、次のステップへとつながる

MSRを導入したことによって、目に見えて変化している部分がたくさんありますが、全体から見ると、まだ一部の店舗、一部のスタッフが変わってきたという段階なので、今後はこの流れを一気に全店に広げたいと思っています。

また、スタッフの自主性が高まり、積極的な発言も見られるようになってきたので、その次の段階として、自分達が考えて取り組んだ結果としての成功体験を積ませてあげたいと思っています。4つのプロジェクトはそういう意味でも、重要な場となるのではないでしょうか。


お客様に快適に過ごして頂くために ~スタッフのアイデア&工夫~

クッションの形を改良しました!
カット・パーマは、意外と時間がかかるもの。これまでも椅子の背もたれにクッションを置いて自由にお使いいただいていましたが、より快適に過ごして頂くために、クッションの形をバナナ型に改良しました。椅子の肘かけの上に置いたり、抱きかかえたりしやすい形なので、これまで以上に楽に座っていられると、お客様からも好評です。


スタッフの導線を見直しました。
これまでは特に決まりもなかったので、担当のお客様を少しでもお待たせしないようにと、スタッフはそれぞれ最短距離を歩いていました。でも、これだと席に座っているお客様のお顔を見ないで次の仕事に入ってしまうので、「お客様の要求」を事前に察知できない事が多くありました。そこで、店舗の見取り図を使って話し合い、導線を『お客様のお顔を見る動き』に変えた所、鏡越しにお客様のお顔を伺う事ができ、ほんの些細な事でも気が付けるようになりました。


オットマンにこだわる。
洗髪時にオットマン(足乗せ台)を使うかどうかは、これまではスタッフの判断で行っていましたが、スタッフ全員で実際に椅子に座り、オットマンを上げた場合とそうではない場合の両方の体勢を取ってみて、どちらがより楽かを話し合い、オットマンを上げて使うというルールを決めました。


シャンプー台の使い方にもひと工夫。
美容室で使うバックシャンプー台は、背の低いお客様の場合、そのまま背もたれを倒すとやや苦しい体勢になってしまうのですが、これまではお客様のほうで座る位置を直して、調整して頂いていました。でも、「お客様が椅子に合わせるなんておかしい!」というスタッフの意見から、座面に高さ調整用の薄いクッションを準備。すわり心地が良く、すべりにくい素材にもこだわって、どんなお客様でも快適に洗髪時間を過ごしていただけます。


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