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感動はホスピタリティから生まれる
「お客さまの感動」を生み出す秘訣【後編】

特集 誌上セミナー(後編)

クオリティサービスの最大の肝である「お客さまの感動」を生み出す秘訣について、前編に引き続き、弊社常務執行役員の渋谷行秀より説明します。

まず、初めてご覧いただく方のために、前回の内容を簡単に解説させていただきます。

弊社が提供しているリサーチやそれに基づくコンサルティングは、「現場で働く人の意識・やりがい」にフォーカスしています。お客さまに接するスタッフ一人ひとりが、心から「お客さまを喜ばせたい」と思うことが、お客さまの感動を生み出す第一歩です。さらに、お客さまに喜んでいただく体験は仕事のやりがいをさらに膨らませることにつながり、好循環を生んでいきます。その循環をつくり出すプロセスは地道ですが、その分、他社に真似のできない「組織風土」「学習し、改善する組織」という差別化要素を築くことができます。

【図1】顧客満足度とロイヤルティの相関関係 満足が感動レベルに上がることで、リピート率がぐっと高まる。(『いかに「サービス」を収益化するか』DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編訳/ダイヤモンド社発行を参考に編集)

【図1】顧客満足度とロイヤルティの相関関係
満足が感動レベルに上がることで、リピート率がぐっと高まる。(『いかに「サービス」を収益化するか』DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編訳/ダイヤモンド社発行を参考に編集)

では、そのような好循環を生み出すためのプロセスとはどのようなものでしょうか。それを紐解くために、顧客満足を「期待」と「現実」のギャップから捉え、その上で顧客満足度の状態がリピート率にどのような影響を与えるかを解説しました。現実が期待を上回ると「感動」が生まれ、リピート率は大きく向上します【図1】。サービスを「感動」レベルまで引き上げるための鍵となるのは、“弱み”ではなく“強み”に注目し、それを伸ばす「ポジティブ・アプローチ」でした。強みに目を向けお客さまに喜んでいただくことを目指して取り組むことで、業績的成果につながり、達成感が得られ、自然に弱みに対して「もったいない」という感覚が生まれ、すべての改善がうまく運んでいくのです。

また、「感動」には3つの種類があることをお伝えしました。一つ目がサプライズ、二つ目がプロの技、三つ目がホスピタリティです。このうちミステリーショッピングリサーチのコメントで圧倒的に多く書かれているのは、三つ目のホスピタリティに分類される内容です。ホスピタリティは、経済的価値を上回る付加価値の提供を意味しています。これが、受け手の感動にまでつながっていくのです。

以上が、前篇の振り返りです。ここからは前篇に続いて、サービスとホスピタリティの違いや、ホスピタリティの実現に必要不可欠な、社員感動満足(Employee Impressive Satisfaction:以下、EIS)を高めるためのポイントについて解説いたします。

サービスは等価価値の提供
ホスピタリティは付加価値の提供

【図2】ホスピタリティとサービスの違い ホスピタリティの語源はラテン語のhospes(原義:客人の保護者。それから多種多様な言葉(hospital、hotelなど)に派生し、ホスピタリティに。一般的には人を温かくもてなす心と解釈される。一言で定義をするのであれば、お客様と従業員との間で心と心が通うこと。一方、サービスの語源はラテン語のservus(奴隷)であり、これが派生してサービスに。語源を同じくする言葉には、serve(仕える)、servant(召使)などがある。

【図2】ホスピタリティとサービスの違い
ホスピタリティの語源はラテン語のhospes(原義:客人の保護者。それから多種多様な言葉(hospital、hotelなど)に派生し、ホスピタリティに。一般的には人を温かくもてなす心と解釈される。一言で定義をするのであれば、お客様と従業員との間で心と心が通うこと。一方、サービスの語源はラテン語のservus(奴隷)であり、これが派生してサービスに。語源を同じくする言葉には、serve(仕える)、servant(召使)などがある。

お客さまの「満足」を「感動」レベルに引き上げるには、マニュアルなどに記載しにくい、心からの「ホスピタリティ」が欠かせません。前編では、サービス・プロフィット・チェーン(以下、SPC)や、業績向上につながる顧客感動満足(Customer Impressive Satisfaction:以下CIS)の考え方についてご紹介しましたが、後編では、ホスピタリティに基づくCIS実現の指針とEISについて解説させていただきます。

まずは、【図2】をご覧ください。前編にて、ホスピタリティは付加価値の提供、サービスは等価価値の交換であるというお話をいたしました。しかし、「ホスピタリティは重要だ」と皆が思っているものの、マニュアルにまとめられているようなサービスと何が違うのかというと、なかなか答えにくいものです。

ホスピタリティのある対応は、代金の対価として何をすべきかを出発点にするのではなく、あくまでお客さまの立場で「今、何を求めているのか」を出発点にすることで生まれてきます。それが付加価値となり、感動や感銘につながるのです。

ホスピタリティの実現には社員満足/社員感動満足が必要

当然、代金に見合うだけのサービスを提供するのはビジネスの大前提です。いくら心配りがあっても、料理がおいしくない、皿が汚れているといった状態で感動していただけるはずがありません。ホスピタリティは、十分なサービスがなければ生まれません。サービスがCSを叶え、その上でホスピタリティがCISを叶えるのです。

では、ホスピタリティの実現には何が重要でしょうか。それは、お客さまに「して差し上げたい」という気持ちを持つことです。代金との引き換えではなく、自分で必要だと思った振る舞いに対して「ありがとう」と言われたとき、心と心の交流が生まれます。それは働く側の働きがいや、モチベーションにもつながります。

とはいえ、働く社員に「『して差し上げたい』気持ちを持ちなさい」と言うだけでは意味がないことは、お分かりいただけると思います。働く側が心から仕事や職場に誇りを持ち、前向きな姿勢で取り組んで初めて「して差し上げたい」という気持ちが生まれます。つまり、CISの実現には、社員の心の充足、ESひいてはEISが大きく関わってくるのです。

【図3】ホスピタリティの着眼点 ホスピタリティとは、人間の生命の尊厳を前提とした、「相互性の原理」と「共創の原理」からなる社会倫理である。このことによって、組織の多様な知と知の融合から知恵が創造される。

【図3】ホスピタリティの着眼点
ホスピタリティとは、人間の生命の尊厳を前提とした、「相互性の原理」と「共創の原理」からなる社会倫理である。このことによって、組織の多様な知と知の融合から知恵が創造される。

ホスピタリティを高めるための着眼点として、(1)相互満足、(2)組織のイノベーション、(3)人間性教育、の3つが挙げられます【図3】。

まず、(1)相互満足について。ホスピタリティとは、平たくいえば相手と自分の間で心と心が通うことです。相手に喜んで欲しいと思ってしたことが、相手にも喜んでもらえて、それを自分の喜びとできる。それによって、相手も自分も相互に満足感を共有する。それがホスピタリティの基本です。ゆえに、ホスピタリティを実践することは、スタッフにとっても満足感を高めることになるのです。

次に、(2)組織のイノベーションについて。ホスピタリティの精神とは、相互に共鳴し合い、新たな喜びを互いに創造することです。そのため、ホスピタリティは共創であると言われます。顧客とスタッフの間で多くの共創が生まれる中で新たなサービスのアイデアが浮かび、それが差別化要素になっていくのです。また、社内でもホスピタリティ溢れる風土が生まれれば、社員同士での共創が生まれやすくなります。イノベーションを起こし続けていく風土とは、そのようにしてつくられるのです。

そして(3)人間性教育です。「誰かに何かをしてあげたい」という気持ちは社会倫理に通じるものであり、和の精神や心の豊かさをテーマとする教育にもホスピタリティの概念が活用できます。

二度とない機会の接客~冷やしたぬきの話~

ここで、よくホスピタリティ向上の研修などでご紹介するエピソードをひとつ挙げてみたいと思います。

ある蕎麦屋に、老夫婦が毎週同じ曜日のお昼時に通っていました。注文は決まって「冷やしたぬき」。いつも仲睦まじく食事をしていましたが、あるときおじいさんが一人だけで来店し、席につかずにどんぶりを差し出して「冷やしたぬきを持ち帰りできないか」と言うのです。

しかし、持ち帰りは本部の規定で禁止されていました。店員は何度も丁重に断ったのですが、おじいさんもどうしてもと食い下がります。そこで、店員に代わって店長が事情を聞くと、おばあさんの通院する病院が近かったため毎週通っていたものの、先週、残念ながら息を引き取られたとのこと。最後の食事に、おばあさんの大好物だったこの店の冷やしたぬきを遺影に捧げたい、というのです。

「そういう事情ならば、用意させてください」店長はそう答え、二人前の冷やしたぬきを持ち帰り用に準備しました。「今日は、御代はいただきません。大好物とまでおっしゃってくださったことを、嬉しく思います。ご冥福をお祈りいたします」と店長が伝えると、おじいさんは涙を流して帰られたそうです。

お客さまの気持ちを汲んだ対応であったことも大事なポイントですが、それ以上にこのお話の中で気付いていただきたいのは、二人が最後に来店したとき、つまり結果的に二人のこの店での最後の食事となった席を、誰かが接客したということです。そのとき、果たして二度とない時間にふさわしい最良の対応ができていたでしょうか。

毎日たくさんのお客さまに対応し、慣れが出てくることもあるかもしれませんが、お客さまにとっては一度きりの機会。そんな気持ちを常に心に留めて接することが、すなわちホスピタリティの発揮につながります。

このお話をすると、管理者の方はもちろん現場のスタッフの方々も、自分の仕事にどんな意味合いがあるのかを深く考えてくださいます。

現場の主体性が、社員感動満足を実現させるポイント

お客さまとの接客はどんな時も一期一会であると心に留めながら接客をしていけば、自然と一人ひとりのお客さまに目がいき、気配りの行き届いた接客が習慣となっていきます。人は言動によって他人から「こんな人だ」と思われていますから、行動が習慣化すればまるで人が変わったように見え、人格が変わり、人間関係が変わることで、やがて人生も変わっていきます。

【図4】MSR優良店に共通するミーティングの開き方 MSRで高得点を取り続ける店では、上のような内容に当てはまるミーティングを行なっていることが多い。

【図4】MSR優良店に共通するミーティングの開き方
MSRで高得点を取り続ける店では、上のような内容に当てはまるミーティングを行なっていることが多い。

もしかしたら、遊ぶお金を得るために時給目的で働いている人にそのような話をしても、すぐには理解してもらえないかもしれません。しかし、1時間を費やして時給分の金銭を得るだけなのと、時給に加えて人への思いやりの意識や行動の習慣が身に付き、ひいては人格まで高められるのとでは、後者の働き方は、10倍20倍もの価値があります。その経験、言い換えれば“心の貯金”は、その人がアルバイトを辞めたとしても、生涯にわたって自身を助けてくれる財産となるのです。CISを高める活動は、決して会社の業績向上のためだけではなく、働く人の心の豊かさ、人生の豊かさにつながっていきます。これがEISの本質なのです。

【図5】現場の改善サークル どのような業種であっても、現場の改善サークルを回していくことで、現場の顧客対応力が高まり、模倣されにくい企業文化をつくっていくことができる。

【図5】現場の改善サークル
どのような業種であっても、現場の改善サークルを回していくことで、現場の顧客対応力が高まり、模倣されにくい企業文化をつくっていくことができる。

ではここからは、どうすれば実際にEISを高められるのか、実例から学んでいきたいと思います。実は、CISが実現できている店舗には、ミーティングの開き方やMSRレポートの活用方法に共通の特徴があります。例えばMSRのスコアが非常に高いお店ではいずれも、ミーティングでの店長の発言率が低く、現場に主体性を持たせる話し合いが行われています【図4】。MSRの結果分析もスタッフが主体的に考え、マイナス材料ではなくプラスに目を向け、コメントを重視するように促しています。また同時に、【図5】に示した現場の改善サークルが機能しているのもポイントです。

これらの活動からは、あるキーワードが浮かび上がります。それは、「主体性」・「自主性」です。人は誰でも、自分で考え、決めたことにはやる気が起こります。命令として押し付けるのではなく、現場の一人ひとりが考えている状態こそが、EIS・CISの向上につながり、改善サークルを回していくのです。

 心理的な動機を提示し、社員満足を社員感動満足に引き上げる

社会心理学や行動科学にいくつかの理論がありますが、EISの実現という観点から特に参考になるのは、アメリカの臨床心理学者ハーズバーグの「動機付け・衛生理論」です。給料や職場環境など(衛生要因)の解消だけでは人は充実感を感じにくく、責任感、達成感、成長感など(動機付け要因)の実感を得ることで安定的な充実感が得られる、という内容です。

何がモチベーションの源泉になるかは、人によって異なります。例えば、若手社員の方に「仕事のやりがいは何ですか?」と聞くと、達成感や成長感であると答える方が多いです。一方で、ご年配のスタッフの方に同じ質問をすると、ほとんどの方が「お客さまや仲間に喜ばれること」と答えます。先ほどの動機付け要因の中で言えば、達成感や成長感よりも、有意味感が大事だということです。

業績は結果として上がるものであるのと同じで、オペレーションを改善していく時にも、オペレーションの改善にだけ焦点を当てていては、本当に得たい効果は得られません。地道な活動にはなりますが、EISの高い組織を実現することが、結果的に店舗や事業の改善につながるのです。


前編はこちら:感動はホスピタリティから生まれる、「お客さまの感動」を生み出す秘訣【前編】


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(著・渋谷行秀、商業界)
ISBN-10: 478550417X ISBN-13: 978-4785504175
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