HOME > コラム > 特集 誌上セミナー(前編)

感動はホスピタリティから生まれる、
「お客さまの感動」を生み出す秘訣【前編】

特集 誌上セミナー(前編)

『季刊MS&コンサルティング 2013年夏号』掲載
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承下さい。
10月16日、第7回クオリティサービス・フォーラムを浅草橋にて開催いたします。フォーラムでは、「お客さまに選ばれる店づくりの追求」をテーマに、ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)で極めて高い評価を得た企業による事例発表や講演を通じて、商品やサービスによる提供価値向上、また人材育成と仕組み構築によって、既存客を優良顧客に変えるための秘訣に迫ります。フォーラムの開催を目前に控えたいま、クオリティサービスの最大の肝である「お客さまの感動」を生み出す秘訣について、弊社常務執行役員の渋谷行秀が2回にわたりお話しさせていただきます。

「お客さまを喜ばせたい」と、スタッフが感じることが第一歩

ES(社員満足)向上を進めてスタッフのやり甲斐を高め、それをCS(顧客満足)につなげることでファンが増え、企業の収益が向上するという考え方を「サービス・プロフィット・チェーン」と呼びます。サービス業に携わる方なら、しばしば耳にしたことのあるフレームワークかもしれません。現場のモチベーション次第で、店の雰囲気がガラッと変わり、売上まで好転(あるいは暗転)することは、店長やエリアマネージャーなどお店を管理する立場の方であれば実感されていることではないでしょうか。

利益や生産性を上げるには、様々なアプローチがありますが、弊社が提供しているリサーチやそれに基づくコンサルティングは、「現場で働く人の意識・やりがい」にフォーカスしています。理論的に正しい改善計画を立てても、働くスタッフの意識が変わらなければ、目に見える成果を得ることはなかなか難しいものです。逆にお客さまに接するスタッフ一人ひとりが、心から「お客さまを喜ばせたい」と思うことが、お客さまに「満足」ひいては「感動」するほどのサービスを提供するための第一歩なのです。そして、それは顧客満足や店舗業績の向上にとどまらず、スタッフ自身が「仕事が楽しい、やりがいがある」という実感を更に膨らませることにもつながり、サービス・プロフィット・チェーンとしての好循環が始まります。

弊社が最初からこのような考えを持っていたわけではなく、90年代、弊社の独立前の母体であった経営コンサルティング会社に私が属していた頃から、様々な試行錯誤を行ってきました。理論上は効果的な営業管理システムをつくっても現場の反発で定着しなかったり、セールス部門にはセールスステップ毎のデータを採取し、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)の設定を進め、個々人の弱点を特定し、処方箋を書くことである程度の成果があがりましたが、店舗ではどうしたらよいか…といった具合です。

そう悩み続ける中、MSRと出会い、現場のスタッフが最も共感し、やる気になってくれるのは「お客さまからの声」だと気付きました。そこから本格的にノウハウの開発を進め、CSのさらに上の概念としてCIS(Customer Impressive Satisfaction=顧客感動満足)、同様にEIS(Employee Impressive Satisfaction=従業員感動満足)を設定し、それに注目して“お客さまとスタッフの気持ち”に焦点を当てたご支援を始めたところ、現場のスタッフの方々の意識がとても前向きになり、サービス・プロフィット・チェーンの好循環が生まれるようになったのです。

「満足」=「期待通り」では、差別化にはならない

本来、人間には「人や社会の役に立ちたい」という貢献欲求があります。サービス業の仕事を選ぶ人なら尚のこと、お客さまからの「ありがとう」の言葉が何よりの励みになるはずです。

そのため弊社では、方法論の研究以上に、直球すぎるくらい正面から「仕事の原点」、言い換えれば仕事を通して人が成長し、お客さまや社会に喜ばれ、結果として会社が発展するということを見つめています。当然、システム化などより時間がかかりますし、地道なプロセスにはなりますが、その分、他社に真似のできない「組織風土」「学習し、改善する組織」という差別化要素を築くことができます。そんな考えを柱にMSRを提供し、現在では年間4万5000店舗のCS調査と改善活動のお手伝いをさせていただいています。

では、ここから拙著『こうすれば顧客満足を超える店になる』をベースにしながら、「CISの実現」と、それを叶える「EISの実現」について考えていきたいと思います。

【図1】お客さまの満足とは お客さまの満足度合いは、上記の5段階で表すことができる。満足で十分と思われがちだが、それでは差別化は難しい。(『顧客ロイヤルティの経営』佐藤知恭著/日本経済新聞出版社発行を参考に編集)

【図1】お客さまの満足とは
お客さまの満足度合いは、上記の5段階で表すことができる。満足で十分と思われがちだが、それでは差別化は難しい。(『顧客ロイヤルティの経営』佐藤知恭著/日本経済新聞出版社発行を参考に編集)

そもそも“CS=顧客満足”とは何でしょうか。弊社では、「お店に入る前の気持ち=期待」が「お店を出たときの気持ち=現実」と等しい状況を「満足」と捉えています。現実が期待を上回れば満足は喜び、そして感動になり、逆に下回れば不満、場合によっては被害者意識をもたらしてしまいます。(【図1】「お客さまの満足とは」参照)

業種によって異なりますが、ある程度順調に経営しているお店の調査であれば、概ね7割程度のお客さまが「満足」以上をつけるでしょう。ただ、その中で「感動」レベルに至るのは2割程度にとどまるのが普通です。この状況を70点と考えれば安心してしまいがちですが、満足は単に「期待通り」ですから、お客さまの印象に残りません。

外食産業を例にとって考えてみましょう。東アジアのように、業界全体が伸びている状況なら、たとえ満足以上が5割に満たなくても、市場の拡大と共に自店も一緒に伸びていくことも出来るでしょう。

一方、日本の外食市場規模は97年の30兆円をピークに今や24兆円を切っています。このように市場が縮小傾向にある中で、満足レベルで“満足”していたら、隣の店舗に負けてしまいます。サービスの標準化の時代から差別化の時代に突入したいま、満足を喜びへ、喜びを感動へと引き上げることこそが生き残りの策となるのです。

2ストライク・1ボールのポジティブ・アプローチ

【図2】顧客満足度とロイヤルティの相関関係 満足が感動レベルに上がることで、リピート率がぐっと高まる。(『いかに「サービス」を収益化するか』DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編訳/ダイヤモンド社発行を参考に編集)

【図2】顧客満足度とロイヤルティの相関関係
満足が感動レベルに上がることで、リピート率がぐっと高まる。(『いかに「サービス」を収益化するか』DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部 編訳/ダイヤモンド社発行を参考に編集)

次に、「顧客満足度とロイヤルティの関係」を表した【図2】をご覧ください。この図には、二つ重要なヒントが隠されています。一つ目は、満足が感動になると、ぐっとリピート率が上がり、業績向上につながる可能性が高いこと。もう一つは、満足未満の状態を満足まで引き上げても、リピート率の向上にはあまりつながりそうにないということです。

CSの重要性はどの企業も認識していますが、CS向上に取り組んだ結果「業績も伸びているか」と問いかけると、YESと答えられる企業は多くありません。91年からの2年間、第一次CSブームと言われましたが、その出発点が「お客さまの苦情を聞くこと」でした。マイナス点・クレームをなくすことがCS向上策だと考えられていたからです。しかし、グラフが示す通り、マイナスをゼロにするだけでは、実は業績にあまり影響しません。

そこで大事なのが、「不満を満足にする活動」と、「満足を感動にする活動」を別のものとして捉えることです。前者ももちろん大事ですが、後者を推進しなければ業績やサービス・プロフィット・チェーンの好循環にはつながらないのです。

では、どうしたらCSを「満足」レベルからさらに上へと引き上げられるのでしょうか。弊社が注目したのは、“弱み”ではなく“強み”に注目し、それを伸ばす「ポジティブ・アプローチ」です。

【図3】物事を改善する際の2つのアプローチ 左は、マイナス要素(弱み)を見付けては改善する「ネガティブ・アプローチ」。右は、プラス要素(強み)を見付けて、その強みをより伸ばそうとする「ポジティブ・アプローチ」。

【図3】物事を改善する際の2つのアプローチ
左は、マイナス要素(弱み)を見付けては改善する「ネガティブ・アプローチ」。右は、プラス要素(強み)を見付けて、その強みをより伸ばそうとする「ポジティブ・アプローチ」。

【図3】は、物事を改善する際の二つの異なるアプローチ方法です。左の「ネガティブ・アプローチ」は、まず問題を見つけ、問題がなくなるように取り組むやり方、いわばマイナスを埋めていくやり方です。対して右の「ポジティブ・アプローチ」は、強みの発見をスタートとします。お互いの価値を認め、意見交換を通じて強みを伸ばしていくやり方です。弊社では、この「ポジティブ・アプローチ」の考え方をHERB(MSRをきっかけとして現場の気付きを促し、ホスピタリティのある組織へ導くプログラム)をはじめとする研修のベースとして取り入れています。強みを伸ばすことで競合店との差別化につながり、満足を感動へと引き上げることが可能になるのです。

もちろん、お客さまの不満を無視して良いわけではありません。そこで、弊社ではプラスの面とマイナスの面に2対1程度の割合で注目することを提案しています。仮に、野球のストライク・ボールのカウントに置き換えれば、強みに着目するアプローチをストライク、弱みをなくしお客さまの不満を満足にするアプローチをボールとして、2ストライク・1ボールというイメージになります。

改善活動は順番が大切です。あまりに基本ができていなければ、当然お客さまにリピートしていただくことはできませんが、不満の解消ばかり行なっていてもお客さまから感謝されることは少なく、業績的成果にもつながりにくいため、達成感も得られません。

是非、ストライクの方から始めていただきたいと思います。そこで、強みに目を向けお客さまに喜んでいただくことを目指して取り組むことで、自然に弱みに対して「もったいない」という感覚が生まれ、すべての改善がうまく運んでいくのです。

満足を感動に押し上げるホスピタリティとは

【図4】お客さま目線とは 「自分たちが何かをしよう、何をすべきだ」という発想は提供者目線。相手が必要なことを考えることを出発点にするのがお客さま目線。

【図4】お客さま目線とは
「自分たちが何かをしよう、何をすべきだ」という発想は提供者目線。相手が必要なことを考えることを出発点にするのがお客さま目線。

感動していただける店になるためには、「強みを発見し伸ばすこと」「弱みよりも先に強みに注目すること」が重要だと述べました。加えて成果を左右するポイントが、【図4】に示した「お客さま目線で考えること」です。

そんなことはすでにやっていると思われるかもしれませんが、皆でディスカッションして出てくるアイデアは、「挨拶の徹底」「QSC(Quality=品質、Service=サービス、Cleanliness=衛生)の強化」「お客さまの誕生日にはサプライズ」など、いずれも“自分たちが何をするか”つまり提供者目線になりがちです。

人は「期待を上回る」対応をされたときに感動します。それならばまず、お客さまの期待を知らなければいけません。よく、「当店は20~30代の女性がターゲット」などといいますが、20歳と39歳では当然期待する内容も違うでしょうし、同じ人でも誰と来るかによって異なります。夫婦やデートならムードを邪魔しないさりげない接客や距離感、子連れならば親の料理よりまず子どもの料理が出てくることや子どもへの声掛け。同じお母さんでもママ友会ならば、気兼ねなくおしゃべりを続けられるメニュー構成が喜ばれるでしょう。

考え始めるときりがありませんが、これらを常に想像し続けることが、「お客さま目線」になることなのです。「~すること」とマニュアルに記載できない、「この方には~をして差し上げたい」という気持ちが、感動していただける対応の源泉になります。

そのためには、“気付きの教育”が必要です。気付きの力を養うのは簡単なことではありませんが、MSRのコメントを深く読み込んだり、毎日その日の出来事を振り返り感謝する習慣を付けていけば、着実に力を高めていくことができます。

【図5】目指すべき感動満足とは 人の感動は上記の3種類に分けられる。MSRに見られる“感動”コメントで圧倒的に多いのが、(3)のホスピタリティだ。

【図5】目指すべき感動満足とは
人の感動は上記の3種類に分けられる。MSRに見られる“感動”コメントで圧倒的に多いのが、(3)のホスピタリティだ。

ちなみに、感動は【図5】に示した3種類に分類できます。一つ目がサプライズ、二つ目がプロの技、三つ目がホスピタリティと捉えることができます。実は、MSRでは最後のホスピタリティに分類される「ちょっとした気配りに対する感謝のコメント」が圧倒的に多く、また、再来店への影響も強いのです。お客さまからすると、そのときの自分にとってまさに必要だった対応を、要求する前に先回りして受けたというシチュエーションです。

【図6】ホスピタリティの概念 期待を満たすことは、あくまで等価価値の提供であり、サービスである。これを上回る付加価値の提供を、ホスピタリティという。

【図6】ホスピタリティの概念
期待を満たすことは、あくまで等価価値の提供であり、サービスである。これを上回る付加価値の提供を、ホスピタリティという。

混同されがちですが、「サービス」と「ホスピタリティ」は似て非なるものです。【図6】に示した通り、サービスはあくまで「これだけのお金を払うからこうしてほしい」という等価価値の交換。一方、ホスピタリティはそれを上回る付加価値の提供を意味しています。これが、受け手の感動にまでつながっていくのです。

後編では、サービスとホスピタリティの違いについてより詳しく解説するとともに、それを実現するEISの向上についてご紹介いたします。


後編はこちら:感動はホスピタリティから生まれる、「お客さまの感動」を生み出す秘訣【後編】


書籍のご案内

c56-07『こうすれば顧客満足を超える店になる サービス・プロフィット・チェーンの実践ノウハウ』
(著・渋谷行秀、商業界)
ISBN-10: 478550417X ISBN-13: 978-4785504175
amazonからもご購入頂けます(クリックでamazonへ)

導入事例の詳細検索

業態別・導入サービス別・掲載季刊誌の掲載別で事例を絞り込んで閲覧できます。