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顧客満足をつくるのは従業員。温かみのある店づくりに注力

株式会社キタムラ スタジオマリオ

http://www.studio-mario.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2012年冬号』掲載
取材:西山博貢、文:高島 知子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

「より多くのお客様が、気兼ねなく来られる場所にしたい」。そう語るのは、株式会社キタムラ マリオ営業部取締役事業部長の岡林一郎氏だ。同社が展開する写真スタジオ「スタジオマリオ」では、顧客の自由度が高いシステム面だけでなく、小さい子供も心地よく過ごせる温かみのある対応も、口コミやリピート来店の要因になっている。成長著しい業界において、顧客を魅了し続ける秘訣を伺った。

写真の質だけでなく、接客対応が気持ちよくされてこそ、また行きたい、節目はここで、と顧客の背中を押すことができる。

かつて一般的だった、個人経営のいわゆる“街の写真館”に代わり、近年は子供を中心に家族写真を手軽に撮れる写真スタジオが全国的に増加している。ショッピングセンター内に店を構えるチェーン店も多く、入学式や七五三のシーズンを中心ににぎわいを見せている。少子化により子供一人にかける金額が比較的高くなっていることや、改めて家族の絆を大切にしたいと考える人が増えたことなどから、厳しい経済環境下にあって市場が拡大している数少ない業態だと言えるだろう。

「スタジオマリオ」は、カメラ用品販売および現像プリント業の老舗であるキタムラが展開する写真スタジオだ。1996年に開業後、順調に出店数を増やし、現在では全国に約340店舗を運営している。縮小しつつあるフィルム関連商品のスペースを利用する形で、「カメラのキタムラ」店舗内スペースに開設するか、隣接したテナントに出店してきた。この6、7年は店舗運営業態をサポートする株式会社フランチャイズアドバンテージとともに構築した事業戦略に基づき、年に40店舗ほどのペースで出店攻勢を続けており、特に2011年は春から秋にかけて予想以上に売上が伸張したことから、当初予定の30店舗増を60店舗に修正。事業に弾みをつけている。

株式会社キタムラ マリオ営業部取締役事業部長の岡林一郎氏。岡林氏は、全国42ブロック約340店舗の状況を常に把握し、各ブロック長やそれぞれの店舗の店長とともに業績の向上に注力している。


マリオ営業部 取締役事業部長の岡林一郎氏は、統計数字上から少子化は間違いないものの、写真スタジオの市場は拡大の手応えを得ていると話す。「これまでも、個店で見れば伸張していましたが、2011年までは利益を新規出店にあてていました。ただ、延々と市場が広がり続けるわけではないので、2012年からは新規出店よりも既存店のさらなる活性化に力を入れ、事業全体の収益化に軸足を置いていきます。お客様にも、全国的に店舗が増えていることから、こうした写真スタジオをまったく初めて利用するという人は少なくなっています。つまり、お客様の目が厳しくなっている。そこで、これからは一層のサービス強化が必要になってくると考えています」。

東京・セブンタウン小豆沢店店長の阿部明日香氏。最高の時間を過ごしていただけるように、スタッフ全員でご家族の思い出の価値を高めるお手伝い。


電話予約から商品のお渡しまで一連の対応が再来店を左右

同店の大きな特徴は、まずは利用の仕方が自由であること。基本撮影料で一家族何パターンでも撮影でき、衣装も好きなだけ選べる。撮影後に、パソコンで写真を見ながら、台紙付き引き延ばしプリントやアルバムなどを好きなように組み合わせていく仕組みだ。また、撮影データを(すぐ買うこともできる)手頃な価格で買い取ることもできる。そのプリントを、カメラのキタムラ店舗に出してもらうことを意図しているわけだ。

次に、スタジオの作り込みが挙げられる。あらかじめ照明を含めた機材関係のセッティングを整えておくことで、スタッフは最小限のトレーニングでプロの水準の撮影をすることができる。特に、繁忙期の9月~12月はパートタイマーであるパートナー社員を増やしているため、撮影技術をスピーディに習得できる仕組みが店舗運営の円滑化につながっている。

そして、特に力を入れているのが、顧客対応だ。気分が変わりやすい子供をリラックスさせ、いい笑顔を引き出せなければ、リピート来店は見込めない。同店では、顧客に対するサービスを8つのシーンに分けて、それぞれの質の向上に努めている。具体的には、予約を受けるまでの電話対応、お出迎え、衣装選び、着付け・ヘアメイク、撮影、アルバムなどのセレクト販売、お見送り、そして仕上がりを渡す際の対応だ。写真の質だけでなく、これら一連の接客対応が気持ちよくなされてこそ、また行きたい、節目はここで、と顧客の背中を押すことができるというのが同社の考えだ。

こうした業態設計や注力ポイントの明確化、オペレーションの仕組み化は株式会社フランチャイズアドバンテージが最も得意とするところだ。

また、2011年より、さらなる顧客満足向上のために株式会社MS&Consultingのミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を導入しているが、特にコメント回答が役に立っていると岡林氏は話す。「相手の顔が見えない電話対応は以前から課題でしたが、コメントにも現れてしまっていたので、改善の必要性を改めて感じました。一方で、衣装を何着でも着られることが思った以上に好評だったので、もっと推していきたいですね」。


人柄を引き出す教育で顧客満足を実現

同店では、大人である親に対しては親身にかつ節度を持って対応し、一方で子供には楽しく撮影できるように子供目線で接する必要がある。マニュアルだけではカバーできない高度な接客力が求められるということは、言い換えればスタッフの対応が顧客満足に直結しているということだ。そのため、「従業員満足を通して顧客満足を高める」との考えに基づき、スタッフ教育に非常に力を入れている。

「顧客対応の良し悪しは、マニュアルや慣れも大切ですが、やはりスタッフの人柄に大いに左右されます。スタジオマリオで働きたいという人は、基本的には子供が好きな人ばかりですが、一人ひとりのポテンシャルをどこまで発揮してもらえるかは、マネジメント側のサポートにかかっています」(岡林氏)。

スタジオマリオ事業は現在、全国の店舗を42ブロックに分け、ブロック長会および各ブロックごとの店長会を毎月行っている。そして、店長会から日をあけずに、店長から店舗スタッフに情報を共有する店内会を実施する。各会では、現場での成功事例を発表するなどして、全体のベースアップに注力している。また、研修にも力を入れており、社員は合宿研修で子供への接し方のほか、印象を左右するマナーやメイクなども学ぶ。

来店:

親しみやすい接客と手頃な価格、またカメラのキタムラからの送客などにより、初回来店のハードルを下げている。


受付:

撮影前後のサービスを含めた一連の体験にいかに満足してもらえるかが、再来店を左右する。


着付け:

ヘアメイクや七五三の着物の着付けも基本料金に込みで手がける。これらも短期間で技術を習得できるよう、トレーニング内容の改善を重ねている。


撮影:

短時間で子供の魅力的な表情を引き出し、撮影を実施。スタジオを作り込み、撮影技術を習得しやすくしたことで、仕上がりの均質化を実現した。


衣装替え:

撮影時は、何着でも衣装を選ぶことができる。MSRの結果から、このサービスが予想以上に好評であることが分かったという。


販売:

撮影後に、良い表情や雰囲気の写真を選びながら、アルバムや額装などの購入を決める。「『買いすぎちゃったわ』と言われることもあるが、美味しい店で食べ過ぎてしまうのと同じで、品質とサービスに満足していただいたことの証拠と捉えている」と岡林氏。


入社1年目でも店長。徹底した権限委譲で伸ばす

店舗売上の目標設定からパートナー社員の管理まで、店長に大幅な権限を与えているのも、従業員に対する姿勢として特筆すべき点だ。店長に裁量を与えることで、いち商売人として店を切り盛りする楽しさを味わってもらい、モチベーションを高めている。

新卒入社の社員は、1年目のうちに店長職に就任するのが慣例。2011年度も、春に入社した約40人が同年オープンの新店の店長に次々と就任、10月の時点で全員が店長になっている。パートナー社員は、30~40代の主婦層が中心のため、年若い店長が舵取りをするには難しい部分もあるが、その点でも裁量を与えて店の一体感をつくりやすくすることは奏功しているだろう。

入社2年目の阿部明日香氏も、ちょうど1年前に板橋区にある東京・セブンタウン小豆沢店の店長に就任。同店はパートナー社員の平均年齢も20代前半と、他店に比べて低い方だというが、どういう伝え方をしたらスタッフの人柄を顧客満足と売上につなげられるか、サポートの在り方には日々頭を悩ませていると話す。「ただ、肩の力が入りすぎて“指示をする”雰囲気になっても、うまくいかないと思います。毎月の目標も任されているので、たとえば毎朝の日次ミーティングで現状を共有したり、今月はあとどの部分を頑張れば達成できそうかといった具体的な話をしたりすることで、一人ひとりが前向きに仕事に取り組めるようにと考えています。それが顧客満足に結びついて、お客様に『また来ます』と言っていただけることが何より嬉しいですね」(阿部氏)。

阿部明日香氏


現在は、全店長の半数が新卒入社の社員、残り半数はパートナー社員を経て社員となった中途入社社員が務めている。その多くは転勤のない契約社員としてエリア限定で勤務しているが、任される仕事としては正社員店長との差はない。また、年に一度は契約社員から正社員への登用の機会もある。「当社のような業態は、やはり現場ありきですから、現場を知らない人を上に立たせることはしません。本部の管理機能のスタッフも、すべて店長経験者。本部勤務を経て、また現場に戻す配属も珍しくありません」(岡林氏)。徹底して現場を大切にする姿勢が、社員を通じてパートナー社員にも伝わっているからこそ、各店が一体感を持ちながらも人柄を活かした柔軟な接客が実現できていると言えるだろう。


七五三の時期以外は図1のレギュラー体制とし、業務をひととおりこなせるレギュラースタッフが中心に活躍。一方、七五三の時期の体制は、業務を特化して育成する短期クルーを効率的に配置し、顧客の回転が滞らないようにしている。スタジオマリオでは、こうしたオペレーション戦略を株式会社フランチャイズアドバンテージと共に検討・策定している。

店舗ごとに上のような人員体制表を作成し、スタッフ一人ひとりが目標や自分のレベルを意識できるようにしている。同時に、店舗内の人員配置を検討する際に欠かせない資料となる。店長や本部がスタッフの状態を把握するのにも役立っている。

「売上を伸ばそう」といった抽象的な指示では、スタッフがどう動いて良いのか分からない。左のようなワークスケジュールは月次・日次で作成しており、業務の流れがひと目で見渡せるようになっている。スタッフの習熟度や配置を考慮しながらの予約設定には不可欠なツールであり、俯瞰的に業務を理解できることから、個々の動きの明確化や全体の意識統一にも貢献。事前にこうしたスケジュールを策定・共有しておくことで、業務の生産性を高めている。


ツールを整備し現状を“見える化”。年間を通して成果の最大化を図る

株式会社フランチャイズアドバンテージ 代表取締役 田嶋雅美氏

【株式会社フランチャイズアドバンテージ企業情報】

東京都港区港南3-6-21コスモポリス品川3603

会社ウェブサイト:http://www.franchising.co.jp/


スタジオマリオの事業をサポートするフランチャイズアドバンテージ代表取締役の田嶋雅美氏(右写真)は、チェーン展開する事業が成功するための重要な要素として「ツール、ルール、マインド」の三項目を挙げている。「サービス業は小規模運営が多いため、必然的にマインドから企業を牽引し、ツールづくりやルールの設定が後回しになるケースが多い」とも語る。「業務の流れやポイントをアルバイトやパートのスタッフさんでもすぐに理解できるようにツールやルールで“見える化”することで、作業効率や成果がぐっと上がります」。

客単価を上げろといっても、スタッフたちが自ら考えて動くには限界があり、かといって店長が細かく分析するには膨大な時間が必要だ。そこで、スタジオマリオでは、フランチャイズアドバンテージと共同してセット商品の注文数やポーズの数、着替えの数などの最適値を設定し、それらを一覧化して実績と比較できるようシートにまとめている。それを基に分析を行い、セット商品に合わせた理想的なポーズ数を短時間で撮れるように、ポーズのバリエーションや撮影技術のトレーニングをパターン毎に訓練する、などの細かく具体的な施策を導き出している。それにより、スタジオマリオのサービス形態の良さを最大限に引き出しているのだという。

また、どのスタッフがどのポジションについているのかも、日ごとに分かるように仕組み化している。店長が自身を含めた全スタッフの得手・不得手を把握し、スタッフ同士が互いに連携を取りながら、シフト調整や予約管理にまでそれらの情報を活用しているのだ。

全店の足並みをそろえて年間で成果を上げていくために、綿密な年間計画・月間計画の立案と共有にも力を入れている。「MSRも年間計画にしっかり組み込んでいます。また、新人スタッフを他店に行かせてMSRを経験してもらうなどもし、七五三シーズンに最良の状態へもっていけるようにカリキュラムを組んでいます」。

スタジオマリオの事業について田嶋氏は、同社のようなパートナー企業も身内として事業の改善にあたれる環境が整っていることも成功要因のひとつだと話す。その分、結果を出す責任はあるが、「経営層から現場の皆さんまで一丸となって取り組めると、我々のできることの幅も広がります」と田嶋氏。お客様や社員だけでなく、パートナー企業とも深い信頼関係を築ける度量の深さも、事業運営のカギと言えるだろう。

代表取締役 田嶋雅美氏


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