会社の存続のためには、「心のバトンタッチ」が大切

株式会社にっぱん

東京都中央区築地5-2-1 中央卸売市場内 B1棟3F

会社ウェブサイト:http://www.susinippan.co.jp/


『ビジネス通信 2008年1月号』掲載
取材:児玉彩子
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

「魚と米」、そして「作りたての料理を提供する」という二つのコンセプトに基づき、『魚がし日本一』を中心に幅広い業態を展開する株式会社にっぱん。新たな物流のシステムづくりに取り組み、都内60店舗100億円企業を目指す、代表取締役社長の村田氏、取締役営業本部本部長の小柳氏の両名にお話を伺った。

御社では多くの飲食業態を展開されていますが、まずは企業概要のご紹介をお願いいたします。

村田社長:弊社は江戸前寿司の『魚がし日本一』を中心として、創作寿司、和食、居酒屋、イタリアンバールまで、たしかに大変幅広い業態を展開しています。こうした事業展開を外から見ると、いろんなことを器用にやっているというふうに思われるようですが、基本的には中心業態である寿司が持つ二つの要素を理念とし、その理念に基づく展開をしています。

その理念というのは、一つは、魚と米という二つの素材を通じて、少しでも多くの方においしいものを提供するということ。そしてもう一つは、作りたての料理を提供するということです。食べるものは何でも作りたてが一番おいしいですから、作りたての状態を適正な価格で提供して、好きなだけ召し上がっていただくというのが、我々の生業だと思って取り組んでいます。最近いろいろな業態でオープンキッチンスタイルの店舗が増えてきているのも、お客様の目の前で料理を作り、作りたての料理を提供できるというところに理由があるのだと思いますが、寿司というのは昔からオープンキッチンでやってきた業態ですからね。

こうした理念に基づく業態として最近特に力を入れているのは、寿司の立喰業態です。何故かと言うと、江戸前寿司というのはもともとの発祥をたどると、屋台で気楽に「つまむ」もの、現代で言うところのファーストフードだったのです。庶民の家庭には風呂がないので、家族揃って銭湯に行くと、銭湯の周りにはそうした客を目当てに蕎麦などの屋台がたくさん出ていて、そうした中に寿司の屋台もあったようです。現代では寿司というと高級なイメージがありますが、もともとはそうした大衆文化の中から生まれたものですので、気軽に店に入って、好きなものを好きなだけ召し上がっていただきたいという思いから、立喰店を積極展開しています。

代表取締役社長 村田 宣政氏


御社では、都内で60店舗を目標に積極的に多店舗展開を進めていらっしゃいますが、留意されている点はおありですか?

村田社長:もともと、店をやりたいというよりは、ビジネスをやりたい、企業を作りたいという気持ちで事業をスタートしております。そして、企業である以上は企業に携わる人全てに幸せになってもらわなければならないですし、そのためにはそれらの人たちの生活基盤の安定を考えなければいけません。そうなってくると、とても一つの店舗だけでは無理ですから、自然と多店舗展開が必要になってまいります。また当然ですが、一人でも多くの方に弊社の寿司を味わってもらいたいという理由もあります。

こうした展開を進めていく上で留意していることは、地域によって、お客様の消費に関する意識には少しずつ違いがありますので、それを考慮した対応をするということです。

たとえば価格のことについて言えば、新宿と上野では、同じ商品でもその適正価格は違ってきます。チェーンストア理論からすると、同じ商品は同じ値段で売らなければならないということになりますが、価格というのは「周囲の店と比べてどうか?」という相対論ですから、その地域の感覚に応じた価格を設定しなければ、お客様には受け入れていただけません。経営する側からすれば、一律同じ価格で出せるのならそのほうが効率は良いのですけれど、それではお客様に喜んでいただけませんので、それが一番気を使うところです。


店舗数が増えてくるとマネジメントが難しくなってくると思いますが、マネジメントをされる上で意識されていることはおありですか?

村田社長:一言で言えば「凡事徹底」ですね。一定水準のサービスをいつも変わらずに提供できるということ、それができる体制を整えるということに、一番気を使っています。当たり前のことが当たり前にできるというのは、言葉にするのは簡単ですが、実際にはなかなかできることではありません。しかも、組織が大きくなればなるほど、それは難しくなっていきますが、それをできるようにしていくということが大切だと考えています。

そのために一番神経を使っているのは、「言ったことを実行してもらうためにはどうしたら良いか」ということですね。頭では理解しているのに実行が伴わないということは、多々ありますから。これも先ほどの地域と価格の問題と同じですが、一言一句同じように話をしたとしても、人によってその感じ方や解釈は違ってきますので、同じ結果を出すためには、人によって伝え方を変えていくということが必要だと考えています。


御社では昨年の2月から弊社のミステリーショッピングリサーチ(以下MSR)を利用していただいていますが、どういった理由で導入を決定いただいたのでしょうか?

小柳本部長弊社の人間は、自社商品の品質の高さにはかなりの自信を持っていると思います。そのこと自体は良いことですが、問題なのは、「良いものを出しているんだから、お客様が来て当たり前」「お客様が来ないのなら、それは価格の問題」という意識に陥ってしまいがちだということです。お客様からすれば、クオリティ・サービス・コストの総合的な観点からお店をご覧になっているわけですから、どれか一つだけ良くても駄目なのですが、弊社の場合は寿司業態ということもあり職人気質の店長が多いものですから、どうしても意識が商品のクオリティだけに偏ってしまう部分があるのですね。当然、それでは駄目だということを指導してきましたが、身内から言われるのでは意識が変わりにくいのか、なかなか意識の改善が進まないという状態が散見されましたので、それならばはっきりと「お客様がどう思っているのか」を従業員に知ってもらおうというのが、MSRを導入した最大の理由です。

ご承知の通り、飲食業の売上は97年以降ずっと前年割れで推移しています。対して企業側は、減っていく分を補う形で出店を続けてきましたが、その構造ももはや維持するのが難しくなってきています。特に都内は、もう出店する余地がありませんから、その次に来る戦略は、既存店が前年を確保するということだけしかありません。しかしそれも、諦めているのが多くの飲食企業の現実ではないかと思います。

では、なぜ企業が顧客を失うのか。ある調査によれば、企業が顧客を失う理由の60%を占めるのは「従業員の無関心な態度」なのだそうです。商品やら、競合やら、さまざまな要素がある中で、それが最大の要因なのです。しかし逆に考えれば、その部分を根本的に改善することができれば、強力な競争力を手に入れることができるということでもあります。MSRでお客様からの客観的なご意見を取り入れることで、そういった力を強化していきたいのです。

もちろん私も毎日どこかの店舗に行ってチェックをするようにはしていますが、何しろスタッフに顔が知られていますから、当然下手な接客はされませんし、良い報告はすぐに入ってきても、悪い情報というのはなかなか上がってこないものです。部下を疑うわけではありませんが、その報告だけを鵜呑みにしているとだんだんと裸の王様になっていってしまいますから、自分にとって都合の良い情報だけに惑わされずに、正しく現場のことを知っておきたいという意味もあります。

また、いただいた調査レポートは、メニューや価格政策にも反映させるといったように、マーケティングにも活用しています。私たちは何百店舗もあるような大チェーンではないので、お客様の声を伺って、今のやり方では駄目だというような部分があれば、今日すぐにでも変更することができます。それが我々の強みでもありますので、その強みを最大限に発揮するためにも、MSRでいただくお客様の声というのは大変重要です。

写真左:小柳本部長


店舗では、調査レポートをどのように活用されていますか?

小柳本部長:残念ながら、至らない点をご指摘いただくこともまだまだありますので、その中でまずやらなければならないことは何かを決めて、一つひとつ凡事を増やしていくという方法で改善を進めています。

現在は4回のMSR調査が終わったところで、具体的な成果が出てくるのはこれからだと思っています。何故かと申しますと、お客様から指摘をされても、1回目は「それは、たまたま」という意識がまだ残っていると思うのです。それが、2回、3回と同じ指摘をいただくようになると初めて、それが偶然でもなんでもない、その店の本質的な問題だということに気がつけるのではないでしょうか。調査も回を重ね、各店でそうした問題がようやく理解できてきた頃ではないかと思いますので、いよいよこれからが重要なところだと思っています。


MSRの他、日次決算システム@bino-FSも導入いただいていますが、こちらについても導入の経緯を教えていただけますか?

小柳本部長:@bino-FSを導入した理由は、店長とミドルマネージャーを集計業務から解放したいということに尽きます。これはおそらくどこの飲食店でも同じだと思うのですが、集計作業というのは、お客様に接しない、言ってみれば無駄な時間です。しかし、それがなければ仕事にならないというもどかしさがありまして、とにかくそれを解消したかったということです。

@bino-FSを導入して良かったのは、店の状況がデータですぐに把握できるようになったということです。しかも売上、人件費、原価率だけではなくて、各メニューの動きまでがわかるという点に、非常にメリットを感じています。なぜかと言うと、弊社では商品の入れ替えサイクルが非常に早くて、それこそ日によって商品を変えることもありますので、そのメニューが売れるか売れないかというのは、マーケティングをする上で大変重要な意味を持つデータだからです。

売れなかったら、なぜ売れないのかを考えなければいけませんが、@bino-FSを見れば、問題は価格にあるのか、商品の品質にあるのか、店の売り方にあるのか、そういったことが瞬時に、ダイレクトにわかりますので、すぐに対策が打てます。マーケティングを行う上で、@bino-FSは本当に役立っています。


最後に、今後の御社の事業展開をお聞かせ下さい。

村田社長:弊社は現在創設20年目ですが、会社の寿命は30年であるという「会社30年説」を吹き飛ばすような形で、今後も永く事業をしていければと思います。

そのために大切になってくるのは、心です。心を次々とバトンタッチしていける仕組みを作っていかないと、会社というのは存続していけないでしょう。理念、ビジョンと言い換えても良いと思いますが、ようするにこの会社で自分が頑張ることによって、会社はどういうふうになっていくのか、そしてそれが自分にとってどのようなメリットをもたらすのか、そうした将来のビジョンが全従業員に対して明確になっていて、それがずっと引継がれていくということが重要だと思います。

こうしたことが実現されている会社をグッドカンパニー、エクセレントカンパニーなどと表現しますが、弊社もそうした会社の仲間入りができるように取り組んでいきたいと考えています。

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