これから訪れるCS時代のキーワードは「自由裁量」と「人間力」


国際ホテル・レストラン・ショー

ページ内の写真は第37回国際ホテル・レストラン・ショー。「HOTERES JAPAN」「フード・ケータリングショー」「厨房設備機器展」は、ホテル・旅館など宿泊施設やレストラン・フードサービス業界から約90,000人が一堂に会するアジア最大級の合同展示会。今年は86,710人が訪れ、849社がブース出展を行い、盛況を博した。


『季刊MS&コンサルティング 2009年秋号』掲載
取材・文:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

日本は消費者の要求レベルが高いと言われている。期待通りではなく期待以上のサービスを提供することが、これからの時代で益々求められてくるだろう。今までのCS(顧客満足)の考え方を改めて捉え直す時であり、その実現のためには、現場スタッフへの自由裁量と、それを支える人間力がポイントになる。

今の時代のCSは、お客様の期待値を超えること

満足とは期待値と実際のサービスへの評価が等しい状態のことですが、CSをそのまま訳せば、顧客満足、つまり期待通りの対応を目指す活動と捉えられがちです。このような意味では、ホスピタリティ産業(※1)において、CSは既に当たり前となっています。

ホスピタリティ産業の中でも特に接客が重要視される宿泊業や飲食業では、期待以上のサービス、そして感動を提供するという考え方が浸透しつつあります。つまり、期待通りの対応が規定されているマニュアルを超えたアクションが、感動を呼んでいるのです。それが、今の時代のCSの考え方と言えるのではないでしょうか。


CSは義務付けられない

お客様の期待イメージを形作る要素は、ホスピタリティ、設備、商品、価格、提供される場所、ブランドイメージなど様々で、事業コンセプトによってそれらのバランスと期待値レベルは変わってきます。安定的なCSを獲得するためにそれらの比重を工夫した事業開発も盛んに研究されていますが、後述する日本における文化的背景の下では、やはり接客によるホスピタリティが評価に及ぼす影響は大きいと言えます。

そう考えた時、仕事という概念が期待品質を満たすことだと捉えるならば、CSは仕事ではなく気持ちが形作るもの。提供する側にとって、期待値を満たせばそれに対する対価は受け取れますから、CSは仕事として義務付けられるものではありません。しかし、期待値を満たすだけではお客様がリピートする確率は確実に落ち込んでいくでしょう。そこで、仕事として義務付けられないCSをいかにして向上させていくのかが課題となります。


サービスが無料の日本では、動機付けの仕組みが必要

文化的な背景に触れますと、欧米では、チップ制度がありますが、日本にはありません。チップ制度は、サービスに対する対価でもあり、そこに自身の評価が反映されるので、自己のスキルや評価に対する意識も高く、モチベーション向上にも繋がる要因になっていると思います。

その反面、日本ではサービスが無料という概念があります。価格とサービスに対する期待値はお客様によって異なりますが、総じて、目に見えないものを求める感覚が強いと言われているのです。例えば飲食店では、呼んだらすぐに来てくれるのが当然、と思われる方が多いでしょう。このように、日本では当たり前の基準が高いので、スタッフがCSを追求することに対する動機付けとして、働き甲斐や自己成長を実感できる環境を用意することが重要となってきます。


自由裁量で判断できる余地を残しておくこと

ホスピタリティで有名なあるホテルでは、月に一定額以内であれば、自分の判断でサービスを行っても良いという裁量権を現場スタッフ個人に与えています。これはCSのキーとなる非常に重要なポイントです。お客様の期待値を超えるサービスは個別に定義されますから、CSを向上させるには、少なからず現場判断に裁量権を残しておく必要があるのです。上司に判断を求めるのではなく、スタッフ個人の判断、感性に任せる。ここでのスタッフの取り組みは、誰が決めるわけでもなく自身で決めることになりますので、スタッフも本当に喜んで頂きたいこと、お客様のお役に立ちたいことを考えます。個人の人間力も問われ、また磨かれます。サービス業を行う人材は機転が利くことが大切だと言われる所以もここにあるのではないかと思います。

スタッフの人間力が高ければ、適切な判断をし、CSを高めると同時に、裁量権を与えるに当たって起こる企業としてのリスクは小さくなります。また、自由裁量が自己成長を実感させ、スタッフもサービスをすることが喜びになります。逆に、それがなければ楽しくありませんから、モチベーションは高まりません。


個を活かすサービスの実現のために

これからの日本は、個性は豊かになっていく一方、人口が少なくなることは目に見えています。また、ダイバーシティ(※2)が進むと、個の判断を活かしながら共通のイメージを目指したサービスを行うということは非常に難しくなります。特に、サービス業であれば、スタッフは正社員、派遣社員、アルバイトと雇用形態も幅広く、年齢の差も大きくあります。このような現場で、お客様と直接的な接点を持つスタッフが、マニュアルを超えた自身の判断で行動し、スキルアップを図りながら、高いモチベーションを維持することがCSまた業績にも大きく影響を及ぼします。CS向上のためには様々な要素がありますが、スタッフ個々人が活躍できる現場の自由裁量と人間力の育成が、これからの時代のキーワードとなっていくのではないでしょうか。

(※2)ダイバーシティ:性別や年齢、人種・国籍の違いにとどまらず、勤続年数や役職、経歴、生育環境、価値観、働き方などの深層的な多様性を受け入れ、多様な人材の違いをプラスに活かして組織のパフォーマンスを上げようとする動き。


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