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日本の飲食店が海外進出で成功するための『御三家戦略』とは?

飲食企業の海外進出の成否を分けるポイントは何でしょうか?本記事では、さまざまな日本企業の東南アジア戦略顧問を務めてきた、​X INNOVATION CO.,LTD.  代表  秀島耕太氏に講演いただいた「海外で勝つための御三家戦略」や「日本の飲食店が海外進出で陥りがちなミス」「海外で成功する人の考え方」といった内容をレポートします。

日本の飲食店が海外進出の成功をサポート_海外店舗向け覆面調査、ミステリーショッパー

海外進出で成功するための「御三家戦略」

私は、東南アジアの戦略顧問として、さまざまな飲食企業の海外進出をサポートしていますが、その際は現地で定番の飲食店になれるよう、御三家のひとつを目指しましょう」と提言しています。

御三家とは、お客様が外食に行こうと考えた時に、真っ先に頭に浮かぶお店のことです。例えば、皆さんが焼肉を食べに行こうとなった時は、おおむね3店舗ぐらいの候補を思い浮かべて、その中から行くお店を決めていると思います。このように「ある業態カテゴリで最初に名前があがるトップ3店舗」のことを、私はわかりやすくするため「御三家」と呼んでいます。そして、「御三家」に入ることができれば、お客様に選んでいただける機会がぐっと増え繁盛店への道が開けるのです。

日本の飲食店が海外進出で成功するためのポイント_御三家戦略

では、自社のブランドを御三家にするために大切なことは何でしょうか?次に具体的に押さえるべきポイントを説明します。

充分な競合分析

御三家戦略とは、言い換えれば「現・御三家」からお客様を奪って「新・御三家」になる戦略です。ですから、どのブランドからお客様をスイッチさせれば良いのか、真の競合を見極め、十分に分析することが欠かせません。実際には競合分析が甘いケースが多く見受けられます。競合をどう上回るのか、勝算を判断できるだけの分析が大切です。

現地の消費者の頭の中を理解する

現地の消費者の頭の中を理解することも欠かせません。例えば「何を美味しそうと感じるか」は国・地域で違います。日本国内でさえ地域性があるのに、海外ではなおさらです。そのため海外進出をしたい地域の「美味しい」を理解することが欠かせないわけですが、この時、五感レベルで「美味しい」を理解することが大切です。育った環境が違うので、本当に五感が違うんです。例えば、ベトナムのお寿司の売れ筋は黄色やオレンジ色です。味の好み、見た目の好み、香りの心地よさ、食体験を高める音や臨場感――私はこれを“五感ハック”と呼んでいますが、そこまで踏み込んだ「美味しい」の理解が大切です。日本での先入観を捨て、現地の真実をとらえる感性が求められます。

日本モデルで戦わない

日本で成功しているモデルをそのまま輸出する発想で、海外進出する企業が多くありますが、稀なケースを除いてうまくいっていません。現地の人達には、日本人とは違う日常、味覚、文化があります。 日本モデルの輸出ではなく、現地の人達に喜ばれるモデルを開発することが、勝てる海外進出の大事な条件です。

定番8割 、新しい価値2割

現地にあわせたモデルを設計する時は、プロダクトマーケットフィット+αで考えます。プロダクトマーケットフィットとは、現地の方が「いいよね、これだよね」と共感してくれるど真ん中の価値のこと。これが8割。残り2割で、競合である「現・御三家がまだ満たしていないニーズに応える新しい価値」を提供する、この8:2のバランスでブランドを組み上げると、受け入れられやすさと差別化の両立が可能になります。

気張らず払える金額(コストパフォーマンス)

アジアのお客様は値段に対してとてもシビアです。日本のお客様よりもコストパフォーマンス重視ですね。ですから、現地の方が「気張らずに払える金額」の範囲を掴んで、その範囲内に価格を収めることが、中間層向けに商売を大きくしたい場合は大事です。

勝てるPL(損益計算書)づくり

営業利益を確実に出せる店舗にするポイントは、あらかじめ「勝てるPL(損益計算書)」を作っておくことです。私のコンサルティング先では、海外進出店舗の営業利益は25%~30%を目安に置きます。その上で、現地のコスト構造を把握し、原価や人件費、家賃といったコストのパーセンテージを決めていきます。この時、「家賃の上限金額」を決めておくことがとても大事です。良い立地で物件出ましたという時に、少し高いけれど出店してしまうというのが、よくある海外進出失敗パターンです。家賃の上限を決めておいて、その範囲内で物件を探すことが非常に大事だと思います。

もちろんビジネスですから絶対はありません。ですが、これらのポイントを押さえ御三家のポジションを狙うことで、海外進出で勝てる確率を戦略的に高めることができます。

飲食店の海外進出の成功事例

ここまで述べてきたようなポイントを押さえ、アジアで大成功されている、株式会社イートファクトリーが展開するブランド「屋台居酒屋  大阪  満マル」の事例を紹介します。

月商から見る「満マル」の成功

「満マル」の海外進出プロジェクトは2014年夏にスタートし、翌2015年3月にはホーチミン店を開業。さらに4年後の2019年3月にはマニラ店を開業と、着実に海外展開を進めてきました。今、ホーチミン店は開業から約10年で月商2,000万円を超え、マニラ店も約6年で月商5,000万円に到達しています。フラっと立ち寄り、サクッと飲み食い、ゴッツー美味いのに、メッチャ安い!」をコンセプトに、現地の消費者の日常に根づいた長く支持されるブランドへと育っています。

「満マル」マニラマカティ店(2019年3月オープン、総席数170席)

海外進出時の「課題」と「戦略」

山口社長はアジア各地を視察でまわり、「日本とは喜ばれるポイントが違うように感じる、大阪で喜ばれている業態をそのまま持ち込んでも難しいのではないか」という課題感をお持ちでした。そこで、現地や競合店に詳しい私に声がかかり、「日本モデルをどう売るか」ではなく、「現地の消費者の定番飲食店となるモデルをどうつくるか」という視点から、ブランドの再設計がスタートしました。

満マルの成功は、「現地のお客様に喜んでいただけるお店を作りたい」という軸がぶれなかったことにあると思います。喜んでいただくターゲットは日本人ではなく、あくまで現地の消費者。この点をぶらさずに、メニューや価格、店の外観、すべてにおいて現地のお客様の価値観や感覚を視座にいれたブランドの再設計を進めたことで、現地の方に選ばれるブランドへと育っていきました。

◆満マルが"現地で選ばれる店"となったブランド再設計(一部を紹介)◆
(1)ブランド名に「IZAKAYA」を取り入れるが、日本の居酒屋の輸出ではない
ローマ字のIZAKAYAは、現地では「イケてるジャパニーズレストラン」と認識されています。お酒を飲む場というよりも、今風の和食店・ファミリーレストランのイメージです。ブランド力を高めるために「IZAKAYA」を店舗名に使いますが、そのイメージを踏まえたブランド再設計をしています。
(2)フードとアルコールの比率の現地対応
日本の居酒屋はフード:ドリンクが概ね5:5ぐらいが多いですが、アジアだとフード:ドリンクは8:2から9:1程度です。ドリンクはソフトドリンクも含むので、アルコールの注文は本当に少ない。これは、アジアのお客様は食事と飲酒をわける傾向にあるからです。この傾向を踏まえたブランド再設計をしています。

「日本で当たった型」が、必ずしも現地で当たるとは限りません。「満マル」の海外での成功は、現地のお客様の定番の飲食店になれたからだと考えています。

日本の飲食店が海外進出成功をサポート_海外店舗向け覆面調査、ミステリーショッパー

日本の飲食店が海外進出で陥りがちなミス

戦略顧問として海外進出を支援してきた経験、また、18年間のベトナム駐在を通して多くの日本企業の成功と失敗を見てきた経験から「日本企業が海外進出の際に陥りやすいミス」があると感じています。海外進出を検討する際は、次のポイントに注意していただきたいと思います。

自分が美味しい=相手も美味しいではない

日本モデルの再現で勝てると思ってしまい、失敗する。その根底にあるのは「自分が美味しいと感じるなら、相手も美味しいと感じるだろう」と無意識に判断してしまうことです。海外進出の際は、「自分が美味しい=相手も美味しい」となりがちな感覚を捨てられるかが重要です。日本国内ですら関東と関西でうどんの出汁が違います。まして海外となれば、食文化や歴史が違い美味しさの基準は大きく変わります。海外進出を考えているエリアの「味の地域性」を理解し、そのうえで自社が思う美味しさとミックスしていく発想が必要です。

現地理解が甘い

現地消費者と競合についての分析が甘いケースが見受けられます。消費者の成熟度ひとつとっても日本とは違います。例えば、日本のイタリアン業態。今では本格的なメニューを出すお店がたくさんありますが、イタリアンが入ってきた頃はケチャップとパスタを組み合わせたシンプルなナポリタンから始まりました。ブランドを成功させるためには、味覚の成熟度、味の地域性、食生活など、現地の消費者を深く理解することが欠かせません。

インバウンドの成功体験をそのまま輸出

「うちのブランドはインバウンド需要があるから海外でも通用する」と判断するのは早計です。お客様が旅行時に飲食店に求めるものと、生活している地元で飲食店に求めるものが違うからです。ざっくり言うと、異文化体験のために来日している時に求められるものは、本場や本物。生活圏で求められるものは、安全安心、居心地、コスパの良い価格です。現地で継続的に支持されるためには、現地消費者にとっての「定番の飲食店」になる必要があるのです。

想定家賃をオーバーした物件を押さえてしまう

先ほどもお伝えしましたが、「良い物件が出た」と契約してしまい、結果、家賃負担が重くなり、利益が残らないというケースをよく聞きます。「家賃の上限を決める、その範囲内で物件を選ぶ」、この点は徹底していただきたいポイントです。

日本円に換算する癖が抜けない

「日本円に換算する癖が抜けない」も早急に修正すべき点です。例えば、ラーメンであれば980円ぐらい1000円を割る値段がいいよねみたいな日本円の感覚があると思うんですね。この感覚で考えてはいけないということです。当然ですが、現地の方は、現地通貨で高い・安いを判断します。適切な価格設定をできるようになるために、日本円に換算せず、現地通貨だけで語れる感覚を身につけることが大切です。

セミナー時間だけですべてはご紹介できませんが、その他にも「現地スタッフのメンタリティー理解不足」「現地法人の設立スキームが甘い」「為替変動への備えがない」など日本企業が陥りがちなミスがあります。これらをおさえブランドを設計することで、大きなミスを事前に防ぐことが大切です。

「海外で成功する人」の3つの考え方

最後に、ここまでのまとめとして、私が思う「海外で成功する人が共通して持っている考え方」についてご紹介します。

1.ホワイト力

ホワイト力とは、先入観を白紙にして「現地の事実をそのまま観察する力」です。日本での成功体験はいったん脇に置き、現地の消費者、現地の競合、現地の社会を素直に見ることこそが海外での成功への近道です。「彼を知り己を知れば、百戦危うからず」という言葉があるように、まずは、彼=現地を正しく知るために、先入観を持たずに観察しましょう。この点が進出後の成否を左右すると思っています。

2.マーケットフィット思考

マーケットフィット思考とは、顧客が欲しがる形で価値を届けることです。日本人ではなく、現地の消費者を念頭にブランドを設計しましょう。繰り返しになりますが、日本モデルの輸出ではなく、「現地消費者のニーズに自社の強みをあわせていく」という発想が重要です。マーケットフィットを忘れないことで、定番の飲食店への道が開けます。

3.マーケットフィット・イノベーション思考

自社ブランドが守るべき中心的な価値は守りつつ、継続的に改良し続けるという考え方です。最終的に目指すのは「現地の生活者にとっての御三家」です。その地位を奪取し、維持するためには、継続的な改良が必要であり、それこそが海外で長く勝つための忘れてはならない思考です。

日本の飲食店が海外進出で成功するためのポイント_海外で成功する人、成功する経営者の考え方

総括

日本の飲食店が海外で成功する鍵として、本セミナーでは、

日本で当たったモデルの輸出では、海外で失敗してしまう可能性が高い
・海外で勝つには、現地消費者の定番のお店(御三家)の一角に食い込む必要がある
・そのためには、先入観を捨て、競合と現地消費者への理解を深めることが必要不可欠

といったポイントを解説いただきました。海外進出企画のヒントとしていただければ幸いです。また、MS&Consultingでは、海外出店した飲食店に対する顧客評価やQSCチェックにご利用いただける「グローバルビジネスMS(海外店舗向け覆面調査)」をご提供しています。世界50ヵ国で日本品質での覆面調査のご提供が可能です。詳しい資料はこちらからダウンロードいただけます>>サービス資料のダウンロードはこちらから

日本の飲食店が海外進出成功をサポート_海外店舗向け覆面調査、ミステリーショッパー

※本記事は2025年8月に開催したセミナーの講演レポートです。
※記載されている数値や固有名詞などはセミナー当時のものです。
※執筆:株式会社MS&Consulting 並木彩華、監修:同 津川泰士 

MS&Consulting 津川泰士
MS&Consulting 津川泰士
株式会社MS&Consulting執行役員。リサーチ部、システム開発部、コンサルティング部を経て、現在は「東南アジア調査事業」「外資系企業の調査支援」「人手不足解消のための特定技能人材の受け入れ支援」などを担当。

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