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誇りと連帯感を持って働ける職場環境を目指して

株式会社CORE

埼玉県さいたま市浦和区仲町1-10-1 ポラムビル3F


『季刊MS&コンサルティング 2010年秋号』掲載
取材・文:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

全国に15社・72店舗の加盟店舗を抱えるゼルネットワークという組織がある。ゼルネットワークは、本物の美容師を育てることを理念とする、渋谷のジュニアスタイリスト向けアカデミー「ゼルプログレ」などを初めとした業界随一の教育施設・システムを有した、全国各地で魅力ある美容師を育てるためのグループ組織だ。運営委員を務める株式会社CORE(以下、コア)取締役マネージャーの小川陽介氏に、美容業界の課題と展望について伺った。

美容師を目指す人が減っている

美容業界の人材採用は、完全な売り手市場だ。ある美容学校では、約60人の学生に対して求人票700社、求人数4000人、説明会実施社数150社が集まるという。美容業界は給料や福利厚生よりも夢や志向性を重視する人が目指す業界であったが、最近は美容学校への入学者数自体が減ってきている。厚生労働省健康局生活衛生課の発表によると、2009年度の美容師免許の交付件数は2万3109件。ピークだった05年度の3万1545件から約22%落ち込んだ。さらに、化粧品メーカー、ネイリスト、エステティシャン、アパレルなどの業界でも、美容学校を出るようなファッションに強い関心のある人財を欲しており、卒業後の進路も多様になってきている。店舗数の増加率からみると、美容業界は将来的な人財不足に陥ることがほぼ確実な状況だ。

取締役マネージャー 小川陽介氏


労働環境の現状

農林水産業や理美容業・飲食店等のサービス業は自営業の場合を除き社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険)への加入が義務付けられているが、「美容業界の実際の社会保険の加入率は4%程度で極めて低い」と小川氏は話す。小川氏によれば、「適正な経営状態で社会保険料を支払うには、最低でも従業員一人当たりの月間売上が60万円程度は必要」というが、国民生活金融公庫総合研究所編「小売業の経営指標 情報通信、卸売・小売、飲食店、宿泊業、医療、福祉、教育、学習支援業、サービス業(2006年版)」によると、美容師一人当たりの月間平均売上は52万5000円。

また、美容師として実力を付けるためには、勤務時間外での修練も必要になる。知識や技術の習得にどこまで残業代を認めるかという問題は微妙であり、他業界と一概に比較できるものではないが、子供を美容学校に入れるかどうかの実質的な最終決定権を握る親が、給料や労働時間などの待遇面を気にする傾向を強めているという。元々人財の定着率が低く、新しい人を採用し続けることで経営の安定化を図っていた美容室にとって深刻な現状だ。しかし、働きやすい風土や福利厚生に魅力があれば、優秀な人財が残るようになるはずだと小川氏は考えている。


人材育成を重視した組織体制と制度づくり

「スタッフが明るく元気で楽しく仕事ができる環境がなければ、お客様を喜ばせることは難しいと思います。無理に笑顔を作ろうとしても、不自然になってしまうでしょう。美容業界を本当に良くしていこうと思うと、目先の利益よりも、美容業界の社会的地位、待遇を向上して人財の定着率を上げていかなくてはいけないと考えています。そのためには、福利厚生や人財育成のための投資が必要だと思います」

そのような考えを持つコアでは、ゼルプログレでの研修機会を提供する他、昼間でも技術の練習ができるように専用の練習会場を用意するなど、教育体制を充実させている。、また、海外への社員旅行など、福利厚生にも力を入れる。

また、「若手スタッフに売上を上げるスキルを付けさせてあげることが、そのスタッフの人生をつくってあげることになる」という考えの下、コアではスタッフの育成を重視し、店長自身の売上に対する評価は評価全体の2割程度で、残り8割は店舗全体の売上やマネジメントについて見ているという。また、現在30~40歳代のベテラン店長に、「技術的にも人格的にも優れた一流の美容師」を育てる人財育成の専任職となってもらうことも検討している。

昼間でも技術の練習ができる専用練習場での練習風景。多くの美容室ではアシスタントは営業時間外に練習するのが通例だが、練習機会を増やすことによってアシスタントのスピーディな成長を促す。充実した教育と福利厚生を実現するための取り組みだ。


モチベーションの上がる職場環境づくり

「結局、スタッフのモチベーションがないと、売上は上がってきません。スタッフのモチベーションが上がるには何が重要かいうと、ある目標に対して店全体として具体的にこういう方針で活動をしていく、そのために自分が出来る活動は何か、ということが明確になっていることです。売上に対するモチベーションが上がらないという時は、どんな行動をしたら良いかの具体的方針やプランが分からないからということが多い」

店長会議では、環境問題などの会社全体の取り組みの共有の他、前月の結果報告、検証と改善案を共有・検討するが、特に、検証と改善案の具体的方針を重視している。

「この目標売上を上げるための課題は客単価なのか、客数なのか。客単価ならば、お客様に興味を持って頂けそうな新しいお薦めカラーや、新商品で鮮度を上げる必要がある。そういう背景があるから、新メニューや新商品を皆で作るという流れに発展していく。自分達でカスタムカラーを作って、自由にネーミングしてというような工夫が生まれてくるのです」

また、商品が売れる、売れないという問題も、スタッフのモチベーションにかかっているという。「スタッフがお客様に勧めたいと思える納得感や、目標に対する達成感が感じられるお店は、その時に売上が上がらなくても将来的に必ず上がっていきます」と小川氏は話す。


スタッフがCSで平等に評価される

同じ理由で、評価の平等性も大切になってくるという。コアでは売上・客数・客単価の伸び率をメインの評価指標としているが、常連客が多く経営が安定している老舗店舗ほど伸び率が少なくなる傾向にある。それに対して、新店舗は最新の周辺環境をリサーチした上で出店計画をつくるため、各数値の伸び率が高まりやすい傾向にあり、老舗店舗とは平等な評価がしにくい。そのため、コアではミステリーショッピングリサーチ(MSR)を一つの評価指標としている。「美容室においてCS(顧客満足度)というのは、立地や経過年数に関わらず平等な評価指標となります。数字に直接表れない所も含めて、様々な観点から評価をしてあげられる」のが理由だという。

社内勉強会の様子。お客様に喜んで頂くためのキャンペーン計画などを、各店舗ごとにスタッフ自らが考え意見を出し合う。スタッフの表情は楽しそうだ。


新規客を固定客に―。それには総合力が重要

また、新規客比率は老舗店舗で約5%、目立つ店では10~15%。新規店舗では12~13%になるというが、新規客を店の固定客にしていくことは、指名の少ない若手スタイリストの成長にとって重要なテーマだ。その時大切になるのは、総合力であるという。「10-1=0と言いますが、どんなに担当のスタイリストが良くても、他のスタッフの接客が1つでも良くなければ、そのお客様はもう来なくなってしまうかもしれません。全員が目線を合わせることが大切だと思います」。

サロンの思う顧客満足と、お客様の思う顧客満足は少しずれていると小川氏は話す。お客様満足の基準に対する共通認識ができれば、総合力の強化につながる。

「MSRはお客様の生の声なので、僕の話に全員が心から納得してもらうためには時間がかかることもあるかもしれませんが、お客様が言うのであれば、スタイリストからアシスタントまで全員が、MSRを見てすぐに内容を腑に落として理解できます。すぐには業績には結び付くものではありませんが、お客様目線が企業文化になれば良いと思っています」


職場環境の魅力度の高い企業が生き残る

美容室にとって、働きがいは売上にも重要な影響を及ぼすという。「立地や設備も売上に影響を及ぼしますが、美容室の売上を決定付けるのは、モチベーション・技術・知識・コミュニケーション能力などを含むスタッフの総合力です。スタッフが働きやすくて明るく前向きで安心でき活き活きしていれば、売上は上がります」と小川氏は話す。

激戦の市場だからこそ、働く人にとっての職場の魅力が大切になってくる。「これからは、従業員満足度が高い企業にしか人が集まらなくなっていくでしょうし、従業員満足度が高い職場は売上も上がります。スタッフが魅力を感じて楽しく働ける環境を福利厚生の面も含めて整えていくことが、会社の経営を安定させ、それがさらにスタッフの働く楽しさを大きくしていく。そんな企業でありたいと思っています」と語る小川氏の目には、スタッフへの愛情がにじみ出ていた。


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