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ヘアサロン業界の構造的課題

オーバーストア化が止まらないヘアサロン業界の切り札とは

『季刊MS&コンサルティング 2010年秋号』掲載
文:MS&コンサルティング編集部
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。
売上金額ベース、2008年は見込額、2009年は予測額。矢野経済研究所「理美容市場に関する調査結果2008」美容・施術別市場規模推移より

売上金額ベース、2008年は見込額、2009年は予測額。矢野経済研究所「理美容市場に関する調査結果2008」美容・施術別市場規模推移より

10年ほど前、カリスマ美容師ブームをきっかけとして、ヘアサロン業界は一躍世間から注目されるようになり、市場規模も雇用規模も大きく成長した。しかし、ブームの過ぎ去った今、人口減少の影響も受け、ヘアサロン業界は円熟期を過ぎて徐々に衰退期を迎えつつある(図1)。

サービスの大部分を人的な労働力に頼っているヘアサロンは、機械や設備による合理化・省力化が困難と言われている。一方、人件費を抑えることで事業を継続しやすいという側面もあり、構造的に仕組み化や組織化が進みにくい業界であると言える。

 オーバーストア化が収益を圧迫

また、ヘアサロンは開業に当たっての店舗建物、設備・備品などの投下資本が比較的少なくて済むことから参入障壁が他業種に比べて低く、新規開業が容易であるため、必然的にオーバーストア化を招きやすい体質を持っている(図2)。

日本の人口が減少傾向へと転じ始めた一方で、ブームの時代に美容師を志した若者たちが今日、次々と独立・開業しており、ヘアサロン数は徐々に増加を続けている(図3、図4)。それに対して美容師になる人の数は減少傾向にあり、人財・顧客両面における競争の激化がいっそう進んでいることが伺える。

また、サービス業の代表として外食業界・コンビニエンスストア業界と比べてみると、ヘアサロン業界は市場規模と店舗数の推移が相反している(図5)。このことからも、ヘアサロン業界の現状の問題点は、需要の減少とオーバーストア化による客数の減少であると考えられる。


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厚生労働省「経営実態調査報告(平成17年度)」より


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ともに、厚生労働省「経営実態調査報告(平成17年度)」より


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ともに、厚生労働省「経営実態調査報告(平成17年度)」より


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ヘアサロン:市場規模減少に対し店舗数は増加。厚生労働省健康局生活衛生課の発表


さらには、不況でパーマネントやトリートメントの単価が逓減し、全体の客単価を押し下げる要因となっている。その上、客数の減少を受けて販促媒体に広告宣伝費を投下し、安価で集客する割引キャンペーンが恒常化し、収益の圧迫に拍車がかかっている。このような状況の下、カットやシャンプーに特化したサロン、回転率を重視したサロン、サービスの種類を拡充するサロンなど、次々と新しい業態が生まれ、熾烈な競争が繰り広げられている。

YTV(Year Time Value)の考え方

今後、ヘアサロンがより高い生産性を求めようとすると、少数のスタープレーヤーの技術力やサービス力を強みとする「家業」的経営から、特徴ある戦略的な業態開発や、お客様の長期的な来店により安定的な利益を求める「企業」的経営へのシフトが顕著になってくるだろう。そのような流れの中で、今注目を集めているのが「YTV(Year Time Value)=顧客年間価値」という考え方だ。

ヘアサロンは極めて労働集約性が高い商売であるため、月間の従業員一人あたり売上高をいかに引き上げるかを重要指標としてきた。しかし、オーバーストア現象が顕著になってきた近年では、これまでと同じやり方では売上の低下は避けられない。そこで、YTVでは一人の顧客の年間売上高に着目する。1回の売上高は大きくなくても、来店回数が増えれば年間で見ると売上高の増加につながる。

YTVを上げるためにはお客様との信頼関係が重要になってくる。いわば、新規集客に執着する“狩猟型”から、一人のお客様と生涯のお付き合いをする“農耕型”への転換である。それを実現するためには、サロンの方針を明確にし、全従業員が1回の売上高を大きくするよりもお客様との信頼感を培うことに意識を集中できるようにすることが大切だ。

その前提に立つ施策として、「トータルビューティーサロン」への転換を図る繁盛サロンがここ数年増え続けている。トータルビューティーサロンは、カット・パーマ・カラーといったスタンダードなメニューだけでなく、ネイルやフェイシャル、ヘッドスパ・マッサージなど幅広い施術メニューによってお客様の来店を促すサロンだ。トータルビューティーサロンの特徴は各サービスの専門性の強化にある。それがゆえに、受付対応をプロとして行うレセプショニストや専門のカウンセラー、ヘアカラーリスト、ネイリストなど、各技術の専門家同士の連携がお客様との信頼関係を築くためのポイントとなる。

また、ポイントカードや磁気カードの利用は今や当たり前となっているが、その場で次回来店の約束を頂くことで特典を付与する「次回来店予約制度」を取り入れるサロンも増えてきている。しかし、導入しても当初の目的を達成できるサロンは思いの外少ない。特典だけではお客様は動かないのだ。お客様に「また来店したい」と思ってもらうために何より大切なのは、予約~入店~カウンセリング~シャンプー~カット~その他サービス~アフターチェック~スタイリング~会計~退店という一連の流れに関わるスタッフ一人ひとりの、お客様に対する意識である。全スタッフが共通の目的の下で一致団結することで初めて、近い日程での来店メリットをお客様に受け入れて頂くことができるのだ。

お客様との信頼関係を築くために

MS&Consultingでは過去6千件に及ぶミステリーショッピングリサーチ(顧客満足度の覆面調査)によるヘアサロンの調査実績があるが、顧客満足度で満点を獲得するようなレポートには、サロンスタッフの連携が優れているという指摘が多い。あるレポートでは、予約~入店の場面に関して右記のような感想が書かれていた。

YTVを上げるためにはお客様との信頼関係が重要になると述べたが、このケースで言えば、お客様がサロンを利用される際、予約~入店までの間だけで電話担当者、レセプショニスト、店長、スタイリストと実に4名のスタッフが一人のお客様に関わっている。それぞれのお客様対応が重なり合って、お客様のお店に対する印象をつくり上げているのだ。

スタイルやカラーに関する知識や技術はもちろんだが、お客様に気持ちよく過ごして欲しいという気持ちをサロンスタッフ全員が共有していることが、お客様との信頼関係を築くには必要不可欠であると言える。顧客接点を持つ全てのスタッフがスタイリストをサポートするような風土をつくり上げることができれば、YTVの向上により早く近づくことができるだろう。そのためには、スタッフが誇りと連帯感を持って働くことのできる環境が実現できているかどうかを顧みる必要がある。

モニターコメント(一部抜粋)

1.予約対応 (電話担当)

電話はすぐに出て頂け、予約をするのは初めてだとお伝えすると、場所の事を何度も心配してくださいました。『道に迷ったらすぐにお電話下さい』と優しく仰ってくださり、気持ち良かったです。

2.入店 (レセプション)

お店に入った時もすぐに気付いて笑顔で対応してくださり、他のスタッフの方々からも『いらっしゃいませ』と挨拶が聞こえました。店内の雰囲気も開放的で温かみのある色合いに包まれており、初めての来店でしたが、緊張はすぐに解けました。

3.担当者紹介 (店長、スタイリスト)

店長さんがわざわざ挨拶に来てくださり、電話の時に『パーマをかけたいのですがまだ詳しくは決まっておらず、お店に行くのが初めてなので不安』といったことを伝えていたせいか、『今日はパーマのスペシャリストがいるので担当に付けますね』と仰ってくださり、担当の方をご紹介いただけました。おかげで一気に不安がなくなりました。

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