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サービスの理論化 ~感覚ではなく理論に基づいて、「サービスの磨き方」を教えていく~

株式会社プレジャーカンパニー
http://www.pleasure-company.com/

「一日で一組のお客さまが入るかどうか」だったフレンチレストランを、店長として月商1400万円の繁盛店へと立て直した経験を持つ、遠山啓之氏。現在は東京・神奈川を中心に「アジアンビストロDai」などの飲食店を展開する株式会社プレジャーカンパニーのサービスマネージャーとして、店舗スタッフの教育に携わられている同氏に、サービス教育のポイントについてお話を伺った。


経営における「サービス」の重要性

―御社のように、13店舗の規模(5月時点)でサービス・教育の専任者を立てるというのは、思い切った配置だと思います。

弊社では、サービスこそが、他社の店舗と差別化を進めていく上で重要な要素、業績に直結する部分だと考えています。

今はどんなジャンルでも店舗が乱立していて、シビアな時代です。「料理がおいしい」のは当たり前で、料理だけでお客さまを惹きつけられるのは、よっぽど突出したメニューがなければ、多くても来店3回目まででしょう。また、空間で差をつけようにもおしゃれなお店はたくさんありますし、人気が出るとすぐにまねされてしまって、結局似たような店が乱立することになります。

一方で、「サービスの磨き方」というのはなかなかまねできるものではありませんから、そこを磨くことで他社との差別化を図ることができると考えています。というのも、ほとんどの飲食店ではサービス教育を感覚や属人性頼みで行っているからです。そのため、優秀な人がいても、そのスキルを店舗全体や会社全体に広げていくことができません。ですから、たとえ今の弊社のサービスをまねされても、「サービスの磨き方」を他社が知らなければ、サービスで差別化し続けられます。それが専任している意味です。だから私は、サービスを理論的に捉え、理論的に伝えていくことで誰でも高いクオリティーに共有・進化できるよう取り組んでいます。


お話をお伺いした、同社サービスマネージャー 遠山啓之氏。


「サービス教育」の内容

―全社的なサービス教育として、どのようなことに取り組まれていますか?

研修形式のものだと、新入社員や中途採用社員入社時の「オリエンテーション研修」「サービス研修」、サービスの知識と技術を磨く「サービスLAB」、サービス向上に意欲が高いスタッフを選抜して行う「サービス向上塾」があります。向上塾は少人数の塾で、1回6時間の座学で、人間性を磨きサービスの本質から深掘りをしていく内容で行っています。

もちろん現場を大切にしていて、各店舗で一緒に働くことで背中を見せたり直接アドバイスしたりします。ロープレでは月1回1時間半程度の時間を取って営業前に行い、気づきを促します。その他の取り組みとしては、「サービスコンテスト」、御社の「ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)」があります。


「サービススキル」を定量的に測定する

―サービスというのは目に見えない分、教育効果の測定が難しいと思いますが、御社ではどのようにされていますか?

「パートナー(アルバイトスタッフ)の時給の平均」を成果指標の一つとしています。例えばパートナーの時給が900円スタートし、その後はスキルアップに応じて50円刻みで上がっていくとした時、パートナーの平均時給が1000円なら「1000円のスキルの店」ということで、その平均が上がるということは、すなわち店舗のサービスレベルが上がるということだと捉えています。

また、全メンバーの平均時給とは別に、主力メンバーの平均時給も確認するようにしています。全メンバーの平均だと1100円のお店だったとしても、平均値を引き上げている1200円のメンバーはほとんどシフトに入っておらず、1050円のメンバーが主力だというのであれば、お客さまに提供できている価値は1050円のレベルだということになりますので。

そして、店長と「店舗内メンバー数、全平均時給、主力平均時給」の表を見ながら、「この1000円の子を、3カ月で1050円に引き上げよう」「4月に1250円の子が抜けるから、それまでに1050円の2人を時給1100円のレベルに上げておこう」などと、具体的なサービススキル向上の計画に役立てています。

【店舗別時給集計表】
【店舗別時給集計表】
※提供資料を基に当社で編集


成果が出るロープレ運用法

―サービススキル向上の具体的な施策として、ロープレを積極的に行っていらっしゃると伺いましたが、どんな進め方をされていますか?

ロープレは、店のオープン前の時間を使って、月に1回以上取り組んでもらっています。5分のロープレだとすると、ロープレで5分、撮影した動画を見るのに5分、フィードバックが5分で、合計15分くらいのイメージです。人数が多い店舗では、グループに分けることもあります。全員がウェイター役をやれなくても大丈夫です。お客さま役をやるだけでも効果はあります。特に新人スタッフやキッチンスタッフは、お客さま役をやってもらう方が良いかもしれませんね。

進め方の一例としては、次のような工夫をしています。

【1】お題決めで参加意識を高める
まず、「商品説明」「入店対応」など、テーマに応じたお題を、みんなが考えて一人一枚紙に書いて箱に入れてもらいます。例えば「入店対応」がテーマなら、お題は「初来店のお客さまへの入店対応」「サラリーマンのお客さまへの入店対応」などです。ウェイター役のスタッフはくじ引き形式でお題を選びます。こうすることで「やらされている感」がなくなり、この後のロープレへの参加意識が高まります。

【2】動画を撮影して、自分を客観的に見る視点を育てる
ロープレ中は必ず動画を撮っておき、ロープレが終わった後はこの動画を見ます。
ロープレのフィードバック時に起こりがちな問題は「本人が指摘事項にピンと来ない」ということです。例えば「笑顔がないね」と言っても、「え?笑顔出てませんでした?」とか。ですから、動画を撮っておいて、それをみんなで見る。最初は嫌がる人もいますが、所作、表情、言葉遣い、サービスのディテールまで事実として振り返ることができるので、自分を客観的に見る視点が育ちます。

【3】全員でフィードバック
ロープレの動画を見た後、みんなでフィードバックをします。フィードバックの回数を積み重ねること、他の人のフィードバックを聴くことで、サービスに対する分析力が飛躍的に上がります。

まず、フィードバックはウェイター役をした本人から「輝きポイント(良かった点)」と「伸びしろポイント(改善点)」を挙げてもらいます。本人の自己評価からスタートする理由は、他の人のコメントからだと、気を使ってしまって正直な感想が言えなかったり、逆にズバッと言われて本人が嫌な思いや反発を感じたりすることがないようにという、双方への配慮です。先に本人が言うことで、みんなも意見を言いやすくなりますし、本人も意見を聴く体勢になれるので、必ず自己評価から始めるようにしています。

またフィードバックの内容を考える際には「ロープレ評価表」を使って、視点がぶれないようにしています。視点も何もなしの自由評価だと、フィードバック者のスキルに左右されてしまいますし、あれもこれもと言われて「結局、何を改善すれば良いの?」となってしまいかねませんので、フィードバックのカテゴリはしっかりとこちらがハンドリングして、目指すべき方向性を示せるようにしています。

【ロールプレイング評価表】

※提供資料を基に当社編集


「サービスコンテスト」を運用

―その他の取り組みについて教えてください。

昨年末から年明けにかけて、サービスコンテストを始めました。参加は自由でしたが、パートナーの約3割に当たる40人くらいが応募してくれました。サービスコンテストは、コンテストのために練習するといったことにならないように「普段、心掛けてやってくれていることをアウトプットする場」にすることを意識しています。

年末の予選は筆記テスト。「商品知識」「言葉遣い」「接客対応」「お店のビジョン」などのカテゴリで出題しました。強制的に知識を覚えさせるのではなく、コンテストをきっかけに勉強しようという気持ちになってもらうことが目的です。平均点は50点くらいで低かったですが、まだまだ足りないと痛感したスタッフが多く、効果はありました。その後、回答と解説を配って、単なるコンテストで終わらないように注意しました。

年始に行った本選では、ロープレやプレゼンを行いました。ここでもコンテストのための練習にならないように、ロープレは「よくあるシチュエーション」がポイントです。「バッシングの速さと丁寧さ」、接客対応では「二組同時接客」で、うち一組は「後からお待ち合わせでご来店の対応」をしてもらいました。他に「チームからの応援」というのも行い、本選出場者の店舗のスタッフが、「彼(彼女)がお客さまや店舗にとってどれだけ必要か」をアピールするというものです。最後に本人達からの「『サービス3大宣言』から、普段どんな想いで接客しているか?」を発表してもらいました。

最終的には、予選と本選の200点満点で採点して、優勝者を決めました。

私がサービスマネージャーになった当初は、「サービスに興味はあるけど、どう力を伸ばしたらいいかわからない」という状態のスタッフが大半でしたが、最近は理論で伝えられるスタッフが増えたので「サービスに興味があって、お互いにどう伸ばすかを考え実行」という状態になってきました。刺激の一つとしてコンテストは効果があったと思います。コンテストが終わった後は、「来年は私もあそこに出たい」という子が何人も出てきて、良いサイクルが生まれています。


お客様の声を教育に活かす ―MSRの活用方法―

―MSRの活用状況について教えてください。

MSRは昨年から導入しました。昨年度は四半期に1回のペースでMSRを行っていましたが、今年度は調査回数を増やし、四半期に2回、年8回で取り組んでいきます。

今年度からは気付きシートを必須としています。MSRの結果から、月度や四半期の目標を「みんなで決めて、みんなで取り組む」ことで、チーム意識が醸成されますし、その結果として継続力・徹底力・精度も上がるからです。

―サービス教育全体の中で、MSRをどう位置づけていらっしゃいますか。

オペレーションスキルも含む個人のサービススキル教育はOJTやロープレで、それに対してMSRはチーム力を向上させるための施策として活用しています。気付きシートを使って、みんなで決めて、みんなで取り組む。もちろん個人教育にもなりますが、それ以上に、みんなが店舗運営に参加できる機運づくり、という位置づけが大きいですね。

サービス力で差別化しようとすると、「一人ひとりのサービス」が良いということだけではなく、チームの連携を含めた「店としてのサービス力」が高いことが大事になります。ですから、店長と料理長の仲が悪いとか、ホールとキッチンで連携が取れていないというのは、その時点でアウトです。お客さまにとっては、ホールもキッチンも関係ないですから。


私達は「キッチンマジック」と呼んでいるのですが、お客さまがキッチンのスタッフと目がバチっと合う、それだけで感動を生むんです。ホールスタッフが笑顔でお薦めし、一言添えてご提供ができるのはもちろん大事なのですが、お客さまからするとキッチンスタッフが接客に携わる方が、何倍も嬉しいんですよ。なので、「私はホールだから」、「私はキッチンだから」ではなくて、一つのチームとして、スタッフ全員でお客さまをお出迎えする。そこに全員が全力で取り組む。みんなその大事さを頭では分かっているけれど、なかなかできない部分だと思います。それを、MSRを活用しながら実現しようと考えています。


遠山啓之(とおやま ひろゆき)
株式会社プレジャーカンパニー サービスマネージャー

2000年、株式会社グローバルダイニング入社。モンスーンカフェ恵比寿店の店長などを経験した後、高いサービス構築力を見込まれ、一日で一組のお客さまが入るかどうかだったフレンチレストランの店長に就任、月商1400万円の繁盛店へと立て直す。2013年、株式会社プレジャーカンパニー入社。サービスの教育、教育の仕方の教育、人材マネジメント・組織作りの教育を担当。

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取材:株式会社MS&Consulting 外食事業部 コンサルタント 染谷朋江
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

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