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経験による価値の実感が理念浸透のポイント 年間利用客413万人の賞賛の裏側

株式会社スーパーホテル

http://www.superhotel.co.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2015年春号』掲載
取材:大塚信也/編集:鬼熊春子、宮本紗和
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

おもてなし経営企業選、経営品質賞、JCSI(日本版顧客満足度指数)1位、J.D.パワー宿泊満足度ランキング1位など数々の賞賛を浴びる株式会社スーパーホテルは、国内に109店舗、海外に2店舗のビジネスホテルを展開。LOHASをコンセプトにした宿泊スタイルと快適安眠に徹底的にこだわった価値提案によって、合理化と顧客満足を両立させ、年間利用客数延べ413万人に愛されている。自分の夢を持ち人の喜びを自分の喜びとして受け止められる「自律型感動人間」を目指すべき社員像とし、理念経営の実現を目指す同社の取り組みについて、経営品質部部長の山本健策氏(写真左・左側)と星山英子氏(写真左・右側)に話を伺った。

平成25年度の経済産業省「おもてなし経営企業選」にも選出され、既に「おもてなし経営」実践企業である御社ですが、それを支える力はなんでしょうか?

山本氏:当社では、どのような会社でありたいか、どのようなホテルを作りたいかという想いを「創業の精神」としてまとめております。これは、会長の山本が作ったものです。当時は経営環境がもっとも厳しかった時期で、そうした環境下で、この「精神」は大きな支えになったのではないかと思います。

それでも、「全スタッフに100%のレベルでこの理念が浸透しているか?」と言われれば、そこまでのレベルには到達できていないと思います。私が個人的に思っていますのは、理念とか思想というのは、ある程度の経験がなければその意味や重要性を実感できないものだということです。たとえば学校を卒業して社会に出たばかりの新入社員から「社会の幸せ」なんていう言葉が出てくるほうが嘘っぽい。

ですから経営理念を浸透させようと考えた場合、この「経験」が重要なポイントになってくると思います。経営理念に基づく行動をしたり、あるいは経営理念を部下に教えたりすることで、何かしらの成功体験をする。そういう経験を重ねる中で「この考えは間違いない」という実感を得られるからこそ、理念が浸透していくのではないでしょうか。

経営品質部部長の山本健策氏(左側)と星山英子氏(右側)



それを実感されるエピソードがおありだと伺いました。

山本氏:当社がタイに出店したホテルの支配人の話です。彼はそれまで、徹底した数値管理を得意としていて、逆に理念などのメンタリティに関してはあまり重要視しないようなタイプのマネージャーでした。その彼がタイで支配人となり、タイ人のスタッフを相手にマネジメントしなければならない立場になったのですが、それまでの彼のやり方では全くうまくいかなかったんですね。ビジネス書に書いてあるようなマネジメント論を振りかざしてみても、彼らには少しも響かない。

その彼が最後に行き着いたのが理念だと言うのです。当社の経営理念をタイ語に翻訳し、スタッフを集めて勉強会を何度も開くなどして理念浸透に取り組んだところ、レベル的にはまだまだですけれど、だんだんまとまりが出てきて、素地ができあがってきたと。それで、それまでは経営理念という目に見えないものをあまり重視してこなかったこのマネージャーも、改めて経営理念の大事さに気づかされたということでした。 彼と同じようなインパクトのある経験を日本で味わうのは難しいと思いますが、このような経験があってこそ、理念は浸透していくのではないでしょうか。

7種類の枕の中から宿泊客が好きなものを選べる「ぐっすり枕コーナー」は社員からの提案。「自律型感動人間」が体現されている好事例だ。


海外スタッフに、日本人が作った理念が通用するものでしょうか?

山本氏:海外スタッフとなると国民性の違いは確かに大きいです。日本と同じと考えていては、いつまで経ってもうまくいかないでしょうね。勤勉性一つ取っても、やはり日本人とは違います。時間に遅れることも平気な人が多いですし。もっとも、世界的に見れば日本のほうが異質で、彼らのほうが一般的なのかもしれません。

しかし、では果たしてタイ人には愛社精神や帰属意識が芽生えないかというと、私はそうではないと思っています。だって、彼らにだって家族愛があり、愛国心があるわけですから。そういう基本的なところが同じなら、愛社精神や帰属意識だって芽生えるはずでしょう。 そこをどうやって芽生えさせるのかは今後の課題ですが、「国民性が違う」の一言で諦めて、金を使って優秀な人を雇ってくればいいという短絡的な考え方に帰着してしまうと、負のスパイラルに陥ってしまうのではないかと思います。

日本で言うところの家族経営…会社の仲間たちに尊敬の念を持って、互いに尊重しあい、この仲間とこの仕事をするのが楽しいと感じられる、そんな組織を作りたいですよね。「こういうやり方でやります」という明確なものはまだ作れていませんが、やはりポイントとなるのは理念浸透だと思います。そして理念浸透の鍵となるのが、支配人とナンバーツーの二人の連携だと思います。支配人教育とナンバーツー教育を徹底的に行うことによって、現場スタッフの啓蒙活動がスムーズに進んでいくのではないかと。

経営理念を実現するための行動を記した「経営指針書」と、理念を手帳サイズのカードにまとめた「Faith(フェイス)」を全スタッフで共有。


「脚のないベッド」を採用することでベッドの下の清掃作業をなくし、かつお客さまにとっては天井が高く感じられるようにしている(スーパーホテルLohas東京駅八重洲中央口店)。


トップとナンバーツーのお話ですと、将来独立されることを視野に入れて、支配人・副支配人を募集されていますね。

山本氏:3年間ホテル一棟の運営を任せる独立支援制度「スーパー・ドリーム・プロジェクト」ですね。支配人がご主人、副支配人が奥様と、ご夫婦で申し込まれるケースが最も多いです。実は現場がうまく回るか回らないかは、副支配人としての奥様の力が大きいんです。副支配人のモチベーションやコンディションがダウンしてしまうと、自然と店舗の売上や稼働率もダウンすることが多いです。ホテルという組織の中ではお母さんのようなポジションですから。

星山氏:そのため副支配人のメンタルケアは非常に重要で、副支配人に良いコンディションを保っていただくためにいろいろなことをしています。例えば月に一回のエリアミーティングです。以前は情報交換の場がなかったので各現場が孤立してしまうということがありました。そういう状況でストレスがかかる副支配人も多かったので、その対策としてエリアミーティングを開催し、同じ状況にいるメンバー同士でいろいろ話をしてリフレッシュしてもらおうという狙いで始めました。

また何かメンタル面の悩みがあるときには、いつでも専門医に電話で相談できるフリーダイヤルの窓口も設けておりますし、女性同士だからこそ話せるということもあると思いますので、研修センターの女性スタッフが行って直接話を聞くというカウンセリング訪問もしています。

山本氏:フェイス・トゥ・フェイスで直接話すということが大事です。私たち本部と現場とは常に乖離があるわけで、お互いが満足している状態を実現するのは本当に難しいです。

以前私がIT部門の責任者を務めていたときの話ですが、当時は今よりも本社の人員が少なかったこともあって、「これやっておいてください」「あれやっておいてください」とメールで指示を一方的に送りつけていたんです。そうしたら、毎年やっている支配人満足度調査の結果が30%と、本社の中でもダントツの満足度最下位部門となってしまいました。それで慌てて、いくらIT部門と言えどもコミュニケーションはフェイス・トゥ・フェイスだと方針を切り替えて、部門全員でできる限り現場に足を運んで、直接話をするようにしました。そうしたら何とその翌年、満足度が一気にトップに躍り出たんです。数字は確か80%。それで「やっぱりこれなんだ」と思いました。

当社はIT化ホテルという呼ばれ方もしますが、そのITを操作するのは人間ですから、いくら良いシステムを使っても、人が付いてこなかったら何の意味もありません。ですから今でも新たなシステムを入れるときは現場を一つ一つ回って、フェイス・トゥ・フェイスで落とし込んでいきます。このやり方は100店舗になっても変わりません。

働く人の楽しみの一つは入浴の時間だという常務取締役 小森潔氏の考えから、約半数の店舗では天然温泉を導入(写真はスーパーホテル四国中央店)。


「健康+環境」をコンセプトにした「スーパーホテルLohas東京駅八重洲中央口店」。2014年6月に、Lohasのコンセプトをより高めるため全館禁煙とした。


2014年3月から全店で導入されたミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)について、伺わせてください。

星山氏:MSRの良いところは、全店が同じ内容で毎月実施するということだと思います。それからフリーコメントが充実しているところも良いですね。お客さまからご意見・ご感想をいただく手段はMSR以外にもありますが、それらはお客さまが感じたことだけが書かれており、こちらが知りたいことを網羅的にというわけにはいきませんので。

「顧客満足度日本一」、「Lohas日本一」というビジョンを掲げ、品質向上の実現に向けて努めている。


MSRを活用して成果を出されている店舗の共通点を教えてください。

星山氏:MSRを活用して結果を出している店舗の支配人は、回覧したり事務所の壁に貼り出したりして、自分だけではなくアルバイトスタッフもレポートを見られるような工夫をしています。さらに「次はこうしましょう」と目標や対策を書き込んでいるところも多いです。やはり目標を明確にするということは大事ですね。サービスというソフトの部分に関しても、数値管理・目標管理は必要だと思います。これからどうしていくかという目標を定めて、支配人だけではなくアルバイトスタッフも巻き込んで、皆で実行していく。まとめてしまうと、成果を出しているのはそういう店舗ですね。

山本氏:顧客満足を高めるためには、その大前提として顧客を迎えるスタッフが幸せでなければいけません。そしてスタッフが幸せであるためには、その家族も幸せでなければならない。家庭内に不和があったり、お子さんが病気だったりと、家庭に何か問題があってスタッフのモチベーションが下がると、それがお客さまにも伝わって、お客さまのテンションも下がってしまいます。

さらに考えれば、地域に働きに来られた方をお迎えするビジネスホテルは、地域産業の起点と見ることもできます。つまりお客さまの満足度を高めるということは、その地域に働きに来られた方の活力を養うことであり、地域の社会・経済の活性化にもつながるということです。

当社の「創業の精神」の中には「相互信頼とチャレンジ精神」という項目があり、その中で「お客さまや地域社会の人たち、取引先、社員から信頼される、挑戦し続ける堅実経営の会社を創りたい」と謳っていますが、私たちスタッフの幸せと、お客さまの幸せ、地域の幸せというのはそれぞれ別の話ではなく、一連のつながった話であると捉えています。これからも、多くの人たちの幸せを支えているという誇りとやりがいを持って、お客さまをお迎えしていきたいと思います。

ほとんどの店舗で、焼き立てのパンや有機JAS野菜のサラダなどにこだわった無料の朝食をバイキング形式で提供している。


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