株式会社アイ・コンセプト

最高のお勧めメニューを通じて、お客さまの感動と人材育成を実現

株式会社アイ・コンセプト​​​​​​​

http://profile.ameba.jp/ai-concept/


『季刊MS&コンサルティング 2013年秋号』掲載
湯瀬 圭祐・編集:住田 千穂
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。


高級寿司業態と同レベルの鮮魚を低価格で楽しめる海鮮居酒屋「居酒屋にほんいち」を運営する株式会社アイ・コンセプト。北海道を拠点に2店舗、2013年8月には東京にも進出しているが、現在20カ月連続で全店舗売上前年比100%超を達成している。同社の経営戦略と、社内で「キラーコンテンツ」と呼ばれる、企業成長と人材成長の要となっている存在・取り組みについて紹介する。

MSRによって明かされた、販促戦術の限界

同社は、今でこそ、月間の売上前年比100%を超えることが当たり前となっているが、かつては前年比98%前後の状態から抜け出すことができなかった。

当初は媒体の作り込みや広告によって繁盛店をつくることができるという自信があり、実際に業績も安定していた。一方で、現場のスタッフにとっては、なぜお店が繁盛し、お客さまにいらしていただけるのか、実感できなかったという。また、同社では店舗ごとの改善活動や取り組みが定着しないことが悩みの種で、スタッフに「お勧め」を強化するよう指示してもいつのまにか実施されなくなっていることが何度となくあった。

しかし、3年前からミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を導入したことで、これまでは見えなかった面が明らかとなった。売上は順調に伸ばしていたものの、顧客満足度が思いのほか低いことが分かってきたのである。代表取締役社長の市川暁久氏は当時を振り返り、「正直ショックだった」と話す。同社の最大の強みは、独自の仕入れルートにある。自社で水産卸会社を経営し、高級寿司業態と同程度の鮮魚を市場価格の半値以下で仕入られることで、鮮魚の質は北海道でもトップクラスだという自負があった。しかし、なぜかMSRのレポートには「刺身は普通だった」「刺身をそこまで押す理由が分からなかった」などのコメントが並んでいた。自分たちの思っているほど、商品の魅力が伝わっていなかったことが、MSRを導入して一年半、変わらない結果を見て、実感せざるを得なかったという。

代表取締役社長インタビューの様子

代表取締役社長 市川暁久氏:「レポートは現場のスタッフが隅々まで目を通すことが重要」と市川氏。「自分のお店やサービスが実際にどう思われているのか。良い時も悪い時も全て書かれているレポートというのはなかなかありません。コメントから想像する力を養うことが必要です」。


結果を重く受け止めた市川氏は、お客さまに、提供している商品の鮮度の品質と値ごろ感が伝わるようにしたいという想いを強くした。それを実現するために考案したのが、同社が「キラーコンテンツ」と呼ぶ取り組みだ。「キラーコンテンツ」とは、原価を度外視して品質と安さをアピールする目玉商品のことだ。新鮮な刺し身が10品から11品も入った「漁師町の板盛」(500円)、お客さまが「ストップ!」と言うまでダシ巻き玉子の上にかにを載せ続ける「蟹ぶっかけだしまき玉子」(680円)の2つのメニューは、どちらも原価率100%をはるかに超えている。

蟹ぶっかけだしまき玉子

蟹ぶっかけだしまき玉子:お客さまがストップをかけるまで蟹をかけ続ける、「漁師町の板盛」と並ぶ看板メニュー、「蟹ぶっかけだしまき玉子」。オーダー率は9割を超える。社内で「キラーコンテンツ」と呼ばれ、原価率100%をはるかに超えるメニューだ。


「キラーコンテンツ」とそれを活かす「現場力」

同社では、店舗や業態の強みを明確に表す「キラーコンテンツ」の導入と、その魅力を伝える「現場力」の2つに同時に注力していったことにより、前年対比100%超え、月間400名前後の客数増を成し遂げ続ける店舗をつくることに成功した。それらに注力するにあたってポイントとなったのは、(1)お客さま目線の定着、(2)お勧めの強化、(3)働きがいの向上、の3つだという。

現在同社では、毎月のMSRから得た気付きを各自が1枚のシートにまとめ、次月はモニターからどのようなコメントが書かれるような店舗でありたいかを、店舗全員が集うミーティングで検討し、目標に落とし込んでいる。自らつくった目標に向けてスタッフが主体的に取り組むということは、広告戦術を中心としていた以前の状態では考えられなかったことだ。その過程を通じて、多くのスタッフが働きがいを感じている。

目の前の仕事が自分の仕事であるという感覚を持つことで、提出物の納期も自然と守られるようになり、その内容の質も上がってくる。スタッフの意識が変わり、それに伴い、かつては長続きしないのが悩みだった改善活動にも、全員が前向きに挑戦するようになっていった。

それと同時に、「キラーコンテンツ」の捉え方も変化していった。「キラーコンテンツ」の導入当初は、原価率が低いものを一緒にお勧めすることによって、原価が上がる事へのリスクヘッジをしていた。しかし、MSRの結果を受け止めてから半年間悩んだ結果、誰もが圧倒的に価値を感じるものを、わかりやすく他店と差別化した価格で提供し、なぜそれができるのかをお客さまに伝えることで、スタッフに強み、武器をもたせたいという思いから、先に挙げた2品を提供することにした。

テーブルで「こんな値段で、こんなに美味しいお魚が食べられるなんて!」というお客さまの感動を目の当たりにすることが、スタッフの感動も生む。そして、スタッフ自身がさらにお客さまに感動していただけるようなお勧めや提供の仕方を考え、改善していくことで、接客レベルと共に働きがいも上昇しているのだ。

看板メニュー「漁師町の板盛」

テレビ東京「ガイアの夜明け」でも紹介された、特許取得済みの鮮度保持システム「海雪プロジェクト」で運搬された鮮魚が10~11種も盛られている看板メニュー「漁師町の板盛」。この技術は飲食業では同社のみが取り扱っている。


スタッフの自主性の尊重が、人の成長と組織への愛着を生む

同社では、全店舗共通の「キラーコンテンツ」の他にも、各店舗独自のお勧めメニューを設定している。その基準は、(1)スタッフ全員が自信をもって勧められ、(2)仕込みがシンプル、(3)オペレーションが重たくない、④原価率が高くない、の4つあり、それらに基づいて店舗スタッフ全員の話し合いで決めている。お勧めメニューを決定した後は、スタッフがお勧めを行なう際のご提案のシナリオ作成と目標設定を行ない、毎日、ロールプレイングで練習を繰り返す。当初は、実際にお勧めを行なうスタッフに偏りが見られたが、今ではスタッフ全員がお客さまとの会話を楽しみながら、積極的に行なうようになっている。

「お勧めを強化することで、スタッフがお客さまに接する回数や時間が長くなります。そこに会話が生まれることでお客さまの印象に残り、喜んでいただくきっかけにもなる。そこから生まれるやりがいがスタッフを成長させるのです」と、市川氏は話す。改善活動を行なうにあたり、スタッフの自主性を大切にしたことで、業績の向上と人の成長を同時に実現しているのだ。

かつては、アルバイトスタッフから「社員になりたい」、「長くこの会社で働きたい」という声を聞くことはほとんどなかったが、最近、初めてアルバイトからの社員登用が実現した。それに、卒業など止むを得ない事情以外による離職はほぼゼロとなっているそうだ。

にほんいちのころっけ

にほんいちのころっけは、3店舗で月間「3000個」を販売し、全国各地への発送数は月間に2万個を超える超人気商品。


成果の日次共有と評価により、楽しみながら成長できる環境づくり

同社がロールプレイングと同等に重視しているのは、取り組みの共有と評価(表彰)だ。それも、飽きずに「毎日」意識してもらえるように工夫し、楽しめる競争環境づくりを行なっている。その方法の一つとして、LINEを利用した取り組みがある。「売り上げたお勧めメニュー/出勤時間」の計算により個人の業績を数値化し、LINE上で毎日全員が共有しているのだ。それを月次で集計し、店舗ごとに一位獲得者を表彰している。

また、キッチンとの連携を促すため、1位となったホールスタッフが、「自分が取ってきたオーダーを一生懸命作ってくれた」という基準でキッチンスタッフを指名。市川社長は、各店舗2人ずつの選抜スタッフを、普段なかなか行くことのできないような高級な居酒屋へ連れていき、業績を称えるとともに情報共有の機会としている。

海雪プロジェクトの鮮魚

【海雪プロジェクト】によって届けられる鮮魚の魅力を最大限に伝えるため、お勧めには特に力を注ぐ。


アイ・コンセプトが目指す、飲食業の未来と存在意義

「食は人類最大の文化。現場では『飲食』ではなく『文化』を伝えたい」と市川社長は語る。北海道の長い歴史の中で築かれ、豊かな自然に育まれてきた「文化」の素晴らしさを発信するために、流通があり、店舗が存在するとの考えだ。接客によって「文化」を表現し、お客さまに楽しく、より深く理解していただくことが最も大切であると、現場のスタッフたちにも伝えているという。「お客さま目線」と「働きがい」向上への飽くなき努力は、地元北海道へのエールであり、自らの属する飲食業への問いかけでもあるのだ。

漁港直送の海鮮

北海道6漁港より直送の海鮮ルートを所有する。その他「いくら」「かに」「加工品」なども自社流通で入荷する。


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