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城山観光ホテルのCS改善運動

城山観光株式会社

http://www.shiroyama-g.co.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2011年冬号』掲載
取材:有賀 誠・文:西山 博貢

城山観光株式会社は、2009年5月からミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)を使ったCS改善活動に取り組んでいる。改善活動の内容について、フロント、ブライダル、レストラン、ホテル経営、それぞれの立場からインタビューにお答え頂いた。

フロント担当の東園桂様:MSRを導入された後の状況を教えて下さい。

MSRを導入して約2年を迎えますが、実際我々フロントスタッフが「ここには自信がある」とか「ここは弱いな」と思っていた強みや弱みを同じようにお客様も感じていることが分かり、改善の方向性に自信が持てるようになりました。

1963年に開業した城山観光ホテル。2011年3月の九州新幹線全線開通を控え、サービス向上にも力が入る。


一方で、お客様からの改善点を見ると、「景観や眺望がもう少し良い部屋だと良かった」というところがトップで、良かった点を見ると、朝食会場や温泉がトップにきます。これらはどちらもハード面で、自分達の接客にあまり関心を持たれていないということでもあります。自分達の接客が良いということを一番に挙げてもらえていないということを課題に感じています。そこを少しでも改善しようということで、ホテル全体でCS向上委員会というチームをつくりました。今取り組んでいるのは、キャンペーンなどを企画し、お客様満足に向けて頑張っているスタッフを表彰するというものです。

例えば、「従業員同士の挨拶なくしてお客様への自然な接客・挨拶はできない」をキャッチフレーズとして掲げる「挨拶キャンペーン」。自分のテリトリーのお客様には積極的に挨拶しますが、すれ違いざまのお客様には挨拶をしないということが見受けられますので、これの改善に取り組んでいます。他にも、入社2年、3年目の輝いているスタッフを表彰する「ルーキー賞」、新入社員に対する「ニューフェイス賞」、そして、皆が獲得に熱を上げている「サービス力賞」があります。お客様に対する接客や、収益性を考えたオペレーションの提案、会社の取り組みへの参画度などを総合的に評価する賞です。また、「CSコンペ」というイベントを12月に開催予定です(2010年11月インタビュー時点)。入社五年目までの従業員が部署の代表となり、お客様満足のための取り組みを幹部陣の前で発表するというものです。 「ファイブスター制度」というものもあります。総支配人宛てのアンケートが客室やレストランに置いてあるのですが、そこでお客様から名指しでお褒めの言葉があると、模範社員として制服に付けることができる「スターバッジ」という小さなバッジを部署長さん経由で渡します。年間を通して5つ以上集めた人にはその上のランクのバッジをあげるようにしています。これらの活動の、象徴的な成果として、お客様に対してだけでなく、従業員同士の挨拶が活発になってきたことに驚いています。

フロント担当の東園桂様


MSRからはフロントの課題が色々と細かい点まで見えました。最初のお出迎えのところから、客室まで案内し、1日を過ごして頂き、夕食の説明、温泉、そして朝食までは良いことが多い。しかし、チェックアウトの対応にかなりバラツキがあることが分かりました。例えば、600名ほどのお客様が泊まられて、かつ、団体様の出発が朝の8時に同時に2本あるような時、お客様への感謝の気持ちよりも、「その方々をどんどんさばいていかなくてはならない」という気持ちが先に走り、ただ「ありがとうございました」と言うだけの、誰でもできるサービスになってしまっていました。そういう点は皆が個人差はあれども改善意識を持っている事が多く、ご指摘がきっかけとなって改善の動きが進んでいます。

例えば、先程の問題については、スタッフ全員が意識している「接客8大用語」というマニュアルに「今回のご滞在はいかがでしたでしょうか」「またお越し下さいませ」の2言を付け加え、7時半からの朝礼で徹底して習慣付けを行い、自然に言葉が出るような試みを始めました。

こうした配慮が行き届きにくいポイントをマニュアルによって規定し、さらに「お客様のご評価を伺う」という行為を加えることによって、必然的にお客様満足に意識が向かいます。お客様に指名されるようなレベルの接客を板につけていきたいですね。

フロント:お客様に名高い観光地を存分に味わって頂くため、フロント担当の約7割が「鹿児島検定」を取得。CS改善活動によって、スタッフ個人の接客レベル向上への意識がさらに高まってきたという。


ブライダル担当の上野由加里様:ブライダル運営において大切にされている事は何でしょうか。

新郎新婦の要望ばかりを聞くブライダルコーディネーターというのは、本当に満足のいく結婚式を演出することができません。例えば、新郎新婦のご要望を叶えてあげたいという気持ちは誰もが強く持っていますが、お二人の一番の喜びというのは、お二人だけの満足よりも、来てくれた人に「良かったね」と言ってもらうことです。そう考えると、お二人にとってのベストな対応は、お二人の理想を詳しく伺うと同時に、「ゲストとして招かれた立場ならどう感じるか」をあえて冷静に考えて頂けるようにすることであったりもするのです。

ブライダル運営は、まずブライダルコーディネーターがプランをつくった後、当日の式運営はほとんどの部分を宴会部やレストランを始めとした各部署の現場スタッフの方々にお願いしていますので、ゲストの気持ちを知るため、そして理想的なプランを実現するためには、スタッフ間の情報交換・意志疎通がとても重要です。

当然、多くの人が関わる分、仕事量もかなり多いので、単価アップや業務改善のスピードも大事になってきます。その為、それだけに意識が向きがちですが、「またここに戻って来られる場所でありたい」という気持ちを共有し、新郎新婦とゲストそれぞれの立場に立って考える事こそが、ブライダルに携わる者にとって必要であると思っています。MSRはそのための貴重なツールとして捉えています。

城山観光ホテルの創業と共に半世紀の歴史を持つウェディング。出産や子供の入学、金婚式など、ウェディングから始まる人生の様々なシーンに対応できることが強みだ。


スカイラウンジレストランの橋元健太郎様:MSR活用研修のご感想はいかがでしたか?

これだけの活火山を目の前に、たった5キロ圏内のところに60万人規模の市街地があるというのは世界でも稀だと言われています。しかし、私たちはいつもホテルの中にいるので、自分達のホテルの良さ、そして桜島という土地の魅力を、いつの間にか当たり前のものに感じてしまい、自分達の強みが見えなくなってしまっていることがあることに改めて気が付きました。そういった背景から、これまでは、弱いところに力を入れて改善するということばかりを意識していたのですが、強みを客観的に把握することが効果的だと分かったことが最も大きな気付きです。

また、同じホテルで働いているとはいえ、なかなか他部署の方々と顔を合わせたり話をする機会がありませんので、部署を越えて考えや情報の共有ができて非常に良かったと思います。

ホテル最上階に位置するスカイラウンジレストランからは、洗練されたサービスと共に四季折々の鹿児島の風景が楽しめる。ほぼ全てのお客様が目的を持って来店されることを意識し、「究極のおせっかい」をテーマにサービス向上に取組む。


MSRのご感想とCS改善活動について教えて下さい。

お客様の声を実際に文章として読む機会はこれまでありませんでしたので、良いサービスを考えるためのツールが一つ増えたと感じています。レストラン内にいると、自分の持ち場ばかりに目が向いてしまいがちです。パブリックの通路や、トイレ、テーブルの上のディスプレイなど、お客様がよく目にするところは普段意外と意識できていませんでした。このように、分かっていたつもりが分かっていなかったお客様の目線を再発見出来ますので、内容はいつも部署内で共有させて頂いています。この1年で、第三者的なお客様目線で見られるようになってきたのではないかと思っています。


レストランにとってのお客様目線とはどのようなものでしょうか?

私はスカイラウンジを「ハレの日のレストラン」と表現していますが、城山観光ホテルに訪れるお客様はウインドショッピングをしながら「ここいい感じだから入ろう」という訳でなく、しっかりと目的を持って来て下さっています。そこで、電話対応係は、お客様から何を言われなくても「失礼ですが、何かお祝いでございますか」などと必ず一言付けるのをマニュアル化し、そこから情報を引き出して、お客様に合った料理やプランをお勧めするようになりました。

花束なども準備していますので、そういうプランをお勧めして、お連れの方に喜んで頂ければ、それがお客様の感動や信頼につながっていくのだと思います。

お客様は目的を持って来られているということを全員が認識すること。そのために、お客様を観察すること。私たちの仕事は「究極のおせっかいをすること」だと思いますので、お客様が求められていることを察して行動するという意識を持ち続けていかなければならないと思っています。ホテルのレストランですから、お客様の期待が大きいのは当たり前です。忙しい時もそうでない時もサービスを高いレベルで安定化させることを目指していきます。


支配人の得田秀範様:最後に、活動の成果と今後の目標について教えて下さい。

2011年には新幹線が開通しますが、より多くの方々にお越し頂くため、現在、インターネットの予約サイトでの魅せ方などを九州全体が協力して取り組んでおり、弊社でもフェアの企画やウェブサイトのリニューアルを考えています。また、現在はアジアを中心とした海外からのお客様が増えていますので、4ヶ国語表記にも力を入れています。一昨年前からテレビの中国語放送も入り、今では4カ国語の番組が観られるようになりました。ただ、従業員が言葉を話せないので、歓迎の気持ちを表現することにハードルを感じています。行く行くはどのような国の方にも快適に過ごして頂けるホテルにしたいと思っています。

支配人の得田秀範様


そうした背景もあり業績は好調ですが、特にブライダル部門は年間の挙式数が600件程度だったのが、この2年程で900件程まで増えました。ポイントカード会員様も今は3万6000名で、2年後の目標である5万名様に向けて月々約1000名様に新たに会員になって頂いています。

また、お客様からのお褒めの言葉をコメントカードから集計していますが、昨年度はお褒めの言葉の数を3倍にしようという目標を立て、コメントカードの書き方や受け渡し方の改善、また特典を工夫することで、前年対比2.8倍程に増やすことができました。今年度はその数に対して110%を目標とし、2010年10月末時点で58%と計画通りに運ばせることができています。

クレームについても、毎週、部署長がフロントからブライダルまで全員が集まって会議をし、改善を試みています。例えば、館内が分かり辛いというクレームが一番多かったので、日曜日にブライダルのお客様向けに立て看板を置くなどの改善をすることにより、以前に比較して1割程度にまで減らすことができました。

しかし、今後城山観光ホテルとして目指すべきところは、MSR平均180点です。忙しくてなかなかアクションを徹底できないということを言い訳にせず、一つ一つ改善案をきちんと決めて実行するという基本的な活動を徹底していきたいですね。

「CS向上委員会新聞」:2008年、スタッフが部門横断的に集まって発足させたCS向上委員会が発行する社内報。施設や景観だけでなく接客にも関心を持って頂くために、キャンペーンや表彰などの取り組みを企画・運営している。CS向上の取り組みにより、お客様からのお褒めの言葉の数が2008年度→2009年度迄で2.8倍となり、2010年度は前年対比110%を目指して活動を継続している。MSRの目標は平均180点だ。


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