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【7~8月:スーパーマーケット業界】新型コロナウイルス対策調査の傾向分析レポート

緊急事態宣言が全国で解除されて以降、徐々に新規陽性者数が増えてきた中で、経済と感染症対策の両立を模索してきた7月。そして感染症対策の効果も出て新規陽性者数が減少傾向になってきた8月。そんな7月から8月にかけて弊社が実施したスーパーマーケット業界の店舗へのミステリーショッピングリサーチ(覆面調査)の結果を分析すると”今の消費者”が期待している新型コロナウイルス対策の水準が分かってきました。どこまでが「できていて当たり前」と感じ、どのようなアクションは「より一層安心できる」対策なのでしょうか。

対象期間  … 2020年7月13日~8月29日

対象調査数 … 557調査


1.「感染症の不安」を感じてしまっているお客様は全体の2割弱程度

調査には、まず「感染症の心配なく、店舗を安心して利用できると感じましたか。」という設問があり、4つの選択肢(非常に安心だった、問題なし、やや安心感に欠けた、非常に不安を感じた)から1つを選んでもらいます。

7月13日から8月29日の間で調査が行われた557調査において「やや安心感に欠けた」と答えた人が全体の15.8%、「非常に不安を感じた」と答えた人が全体の0.9%で、合わせて計2割弱(16.7%)の人が来店した店舗でお買い物をする中で不安感があった、という結果になりました。これは飲食店全体(18.1%、n=4378)と比較すると若干低い結果ではありますが、そこまで大きな差はありませんでした。

感染症対策の先陣を切って取り組んできた各店舗、事業者の皆さんの努力により、ソーシャルディスタンスやマスク着用など、各種取り組みの徹底度は高いのですが、その細部に感染症対策へ引き続き力を入れている店舗とそうでない店舗、惰性で続けている店舗で安心感に差が生まれてきているものと推察されます。



図1 7月~8月のスーパーマーケット業界の店舗調査における感染症対策の安心感 回答分布


2.感染症対策の安心感が再来店意思に与える影響は、スーパーマーケット業態においても大きい 

2割弱の人がお買い物をする中で不安感があったと答える一方、「非常に安心だった」と答えた方が3割(30.0%)そして「問題無し」と答えた人が5割強(53.3%)と、店舗による差が大きいことが分かります。そして、データをより詳しく見ると、この「感染症対策の安心感」は「このお店にまた来たいと思ったか」という再来店意思とも連動していることが分かりました。

図2 感染症対策の安心感別の「必ずまた来たい」獲得率

*不安・・・非常に不安を感じた or やや安心感に欠けた

  • 非常に安心と感じる店舗では、51.0%もの人が「必ずまた来たい」と回答しており、これは問題なしと感じる店舗よりも「必ずまた来たい」と答える人の割合が34.8pt高かった。

図3 感染症対策の安心感別の「たぶん(絶対)来ない」選択率

*不安・・・非常に不安を感じた or やや安心感に欠けた


  • 不安に感じる店舗では、31.5%の人が「たぶん(絶対)来ない」と回答しており、これは問題なしと感じる店舗よりも「たぶん(絶対)来ない」と答える人の割合が20.3pt高かった。


つまり

店舗利用時にお客様が感じる感染症対策への安心感は、離反要因にもリピート要因にもなりえる。

ということが分かります。


3.「お客様への積極的な働きかけ」や「カゴやカートなど備品の消毒」は、できていない率が高い傾向

では、具体的な感染症対策の中で「できていない店舗が多いもの」は一体どうなっているのでしょうか。それをまとめたものが下記の図4になります。

図4 感染症対策設問における「できていない」割合

一口に感染症対策設問と言っても、店舗での実施状況には大きなばらつきがありました。特に「スタッフからの店舗の感染症対策に関する説明」や「カゴやカートなど備品の消毒」については60%以上の店舗で「できていない」という結果になっていました。また、袋詰めにおいて他のお客様と間隔を保つ案内や誘導も難易度が高く、できていないとされる店舗が60%弱となっていました。


4.スタッフや店舗から「積極的に伝えること」が安心感をつくる

それでは感染症対策に対して「非常に安心」という高評価を受けている店舗では、一体どのような項目が特に徹底がされているのでしょうか。逆に不安を感じさせてしまっている店舗では、どのような項目が特におろそかになってしまっているのでしょうか。

それらを表1と表2にまとめました。

表1 「非常に安心」と「問題なし」の実施率GAP上位5項目

表2 「不安」と「問題なし」の実施率GAP上位5項目


この結果を見ると、大きな傾向は前回と変わらず

  • 「カゴやカートなど備品の消毒」「スタッフから店舗の感染症対策に関する説明」といった項目は「できているとより安心を感じられる」効果のある行動だと考えられる。(表1)
  • 一方「店頭での分かりやすい消毒液設置」「感染予防に関する各種注意喚起の案内・POPがある」といった項目は「できていることが期待水準」となっており、ここができていないと「安心感が欠ける、不安」という気持ちになってしまう。(表2)

つまり、

まず感染症対策を徹底し、不安を取り除いた上で、

スタッフや店舗から積極的に伝え、安心してもらうことが重要

だということが分かります。


5.調査コメントから分かること

店舗での感染症対策に「非常に不安を感じた or やや安心感に欠けた」と回答した調査員が「店舗を利用していて、感染症に関して不安に感じたものがあればご記載ください。」の設問に書いていたコメントをいくつかご紹介します。

入り口の風除室に消毒液が1つありましたが、あまり目立たなく、表示も消極的な表現だったように思います。風除室から店内への入り口は大きく左右に分かれており、消毒液は左側にしか設置されていないので、右側の自動ドアから入店するお客様はそのまま通過し、多くの方が消毒液を使わず入店されていたように見えました。

会計後、レシートをトレイに置かず手渡しで渡され、次のお客様にもポイントカードを手渡しで返していたのが不安に感じました。対策については難しいところもあると思いますが、簡単に対策できるところはしてほしいと思いました。

商品を袋詰めする台が小さく飛沫防止のビニールシートもありませんでした。袋詰めをする台はソーシャルディスタンスの確保が難しい場所の1つだと思いますので、ビニールシートなどがあれば一層安心だと思いました。

店に入ってすぐの場所に消毒液が無かったので、設置してほしいです。また、入り口前の目に付きやすい場所に「マスク必須」のポスターが無かったので、貼ってほしいと思いました。

マスクしていないお客様が沢山いらっしゃったことが少し不安でした。

ショッピングカートやカゴの消毒が済んでいるのかが分からず不安でした。消毒済み、未使用のスペースと使用済みのスペースで分けて管理してあると状態が分かりやすいと思いました。


まず多かったのが「消毒液があるが分かりづらい場所にあった」というコメントです。「とりあえず形だけの対策なのではないか」という不信感から不安に感じることが多いようです。数値の面でも「不安」と「問題無し」の調査を比較したときに最も実施率の差が大きい項目となっています。(表2)

次にあったのが「マスクをしていないお客様がいる」「店舗からマスク必須とアナウンスしてほしい」という意見です。きちんとマスクを付けて予防意識の高いお客様から見ると、マスクを付けていないお客様が多い店舗というのは不安に感じてしまいます。そのときに店舗からの働きかけ(ポスター掲示など)があると店舗に対する悪い印象は軽減されるようです。

そして「消毒済みのカゴと使用済みのカゴやカートを分けてほしい」という声は複数ありました。スタッフの労力、コストもかかる部分にはなりますが、大手スーパーなどでこういった取り組みがされているのを知っている消費者からすると、不安感のないお店という判断基準のひとつとなっているようです。

6.まとめ

今回の調査で感染症対策の実施度には店舗によってかなりばらつきがあることが分かりました。また、その実施度はお客様の「安心感」につながり「また来たい」「もう来たくない」という再来店意向へつながっていることも分かります。しかし、お客様の不安を払しょくするには、コロナ対策を徹底するだけではなく、それらの対策が「お客様に伝わっているのか」を確認していくことが重要です。


チーフデータサイエンティスト 錦織浩志
チーフデータサイエンティスト 錦織浩志
東京大学大学院工学系研究科を修了後、2012年に株式会社MS&Consultingへ入社。産業技術総合研究所との共同研究にプロジェクト開始当初からプロジェクトリーダーとして参画。社内初のデータサイエンティストとして大量の顧客満足度や従業員満足度の調査データ分析を担当。