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サービス業の原点は人材の教育。主体性を引き出す仕組みづくり


株式会社ロッテリア

http://lotteria.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2013年春号』掲載
担当:角 俊英・編集:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

ロッテグループシナジーを活かした商品開発や、他ブランドとコラボレーションした商品など、話題性のある試みでメディアの注目度も高いロッテリア。目新しい提案の背景には、ミステリーショッピングリサーチ(以下、MSR)、独自のCS調査、そして改善を重ねているES調査と徹底した人材育成に対する取り組みがあった。「サービス業の原点は人の教育」だとする同社に、徹底して顧客に向き合う姿勢についてうかがった。

顧客視点を第一に、独自性と品質に注力

全国約500店舗を展開するロッテリアは、生活者に長年親しまれている日本有数のファストフードチェーン。その立場に甘んじることなく、斬新な企画で顧客を楽しませ、近年ではメディア掲載も目立っている。

ご存じの通り、ロッテリアは菓子メーカーとして知られる株式会社ロッテのグループ会社である。昨年、ロッテリア統轄本部長に就任した長元恒氏は、「メーカーとサービス業の違いはありますが、共通しているのは徹底的な顧客目線。お客さまを大切にすることで、ここまで事業を続けられてきたと自負しています」と語る。

そんな同社の姿勢を象徴するキーワードのひとつが、同社が独自に掲げる「QCST」だ。Q:クオリティー、C: クレンリネス、S:サービス、の3つは飲食業などでよく掲げられているが、ここに加わっているTはタイムを表している。これを加えたのは、提供時間の短縮 はもちろんのこと、たとえ同じ待ち時間でも、気にかけている素振り一つ、声かけ一つで顧客の印象は大きく変わってくるため、振る舞いにも最大限の配慮をという考えからだ。

株式会社ロッテリア 統轄本部長 長元恒氏、営業推進部 部長 遠藤昭栄氏(写真中央)、同部 営業推進課 マネージャー 早川敬子氏(写真左)。全国約500店舗の中では店舗によって好不調はあるが、この数年の取り組みで一定の底上げは実現したと判断。これからは、顧客に「選んでもらえる」「足を運んでもらえる」ポイントを探り、強化していく。


本当に売っているのは、マニュアルを超えた対応力

接客の姿勢は「目配り、気配り、心配りが基本」(長元氏)だとするロッテリアが掲げるスローガンは、「ひとあじ違う ロッテリア」。“ひと”と“あじ”を進化させ続け、感動を重ねていくことで差別化を図り、顧客から世界で一番愛される店舗を目指す意志を込めている。

実際、接客にあたるのは現場のスタッフが中心となることから、前述の概念をどう現場で実現するかがポイントになる。とはいえ、それこそが多くの多店舗展開企業が課題としていることだ。

実は長元氏自身、学生時代にロッテリアでアルバイトを経験した上で、新卒入社し、店長やエリア責任者などを経て、本部へとキャリアを進めている。そんな自身の経験も踏まえて「マニュアルの一歩先の対応が大事」だと話す。

「それにはやはり、一人ひとりのオリジナリティが必要です。そう考えると、私たちは商品を売ってはいますが、商品を介して人材のサービス力を売っているくらいの意識であたらなければ、お客さまに『不満はない』ではなく『ありがとう』と言っていただける店にはなれま せん」(長元氏)。

その考えが表れているのが、長元氏が行なったこんな施策だ。同等の商圏があるにも関わらず、売上に1・5倍の差がついていた2店舗の店長を入れ替えた。するとわずか半年で、その売上は逆転。「好調な店舗はそのまま伸ばしていきたいのが本音ですが、店舗の好調・不調を左右するのは人なのだと、皆にも示す必要があると思ったのです」。

マネージャー会議:東西に分けてマネージャー(店長候補)会議を実施。運営戦略や成果発表のほか、店長になるための勉強会を行なっている。全員が最後に店長からのメッセージをもらい、涙する姿も見られるという。


現場と本部をつなぐ「気づきメモ」

展開する店舗数が多くなるほど、どうしても現場と本部との間に距離が生まれやすくなり、現場の実情を理解することが難しくなりがちだが、同社では現場ス タッフが携帯する「気づきメモ」という取り組みによって解決を試みている。「気づきメモ」というのはスタッフがシフトごとに手書きで記す、小さめのメモ用紙のことだ。ここに、勤務中に接客を通して気づいたことや、店舗や本部に対する意見などを書き込むことになっている。

「気づきメモは、2006年から導入しています」と話すのは、営業推進部 営業推進課マネージャーの早川敬子氏。すべてのメモは店長を通じて速やかに営業推進課へ共有され、早川氏をはじめ4名のメンバーで目を通し、店舗で共有すべき指摘や好事例は店舗へ、設備や商品、マーケティングの問題など、関連部署との相談が必要なものは該当する部署へとスピーディに発信し、改善やプラスア ルファのサービスに生かしている。

実際に、女性の顧客が食事中に口紅がストローに付くのを気にしていたことから赤いストローを採用したり、エビバーガーのエビカツをトッピングで複数枚注文し、一部を「惣菜用」として持ち帰っていた顧客がいたことから、惣菜用のサイズにしたエビカツのみを販売した りと、顧客の些細な行動への気づきから新しいサービスにつながった事例は数多い。

「気づきメモ」は月間2万枚が本部に集まり全てに目を通しているという。「私たちも皆、店舗経験者なので、このメモを読むと店舗の状況がとてもよく分かります。メモにはホープと呼んでいるサービスに特化したアルバイトリーダーがコメントを入れ、書いた本人に戻して いますが、本人だけでなくホープの成長にもつながっていると思います」と早川氏。

気づきメモ:シフトに入る度に提出する、手書きの「気づきメモ」。営業推進課が集約し、有効な意見は適宜関連部署へ展開。「文字からも人柄が分かります」と早川氏。


本部は“サポートセンター”。メインはあくまで店舗

メモは本部で共有するものの、基本的には本部から対策などの指示は出していない。営業推進部 部長の遠藤昭栄氏は、「特にお客さま対応に関する気づきなどは重要ではありますが、どうするかは店舗次第。マニュアルを超えた接客を目指しているので、直営店であっても店長の裁量に任せるようにしています」と話す。ちなみに社内では“本部”という言い方はせず、”サポートセンター”が通称。「あくまでメイ ンはお客さまが来られる店舗。我々はそれをサポートする脇役です」(遠藤氏)というのが同社の考え方だ。

同社ではCS向上のため、長年独自の顧客アンケート調査(CS調査)と専門家による抜き打ちの店舗調査、また独自の社員アンケート調査(ES調査)を重ね、店舗の改善に生かしてきた。

しかし、これまでの調査はそれぞれが独立しており、同社の理念や戦略に基づいた継続的なプランニングができるパートナーがおらず、各調査を統合して分析し、課題を発見して長期的な改善計画を立案するという次のステップに進めずにいた。「せっかく異なる切り口の調査を行なっていても、それらをうまく融合させ、全社的な取り組みにしなければ大きな変化は望めないと考えていた」と遠藤氏。

そこで昨年より、MS&Consulting社によるMSRを導入。継続的に行っているCS調査とES調査の調査内容を見直し、MSRを含めた3 つの調査を一本化した。そしてこれらをMS&Consulting社にて総合的に捉えて分析を行い、店舗の現状を把握することに着手した。以前は各調査の結果をそれぞれの店舗に戻し、その後は各店舗内で資料として扱っていたが、今では、お客様が店舗を選択する視点を最重視して、CS調査、MSR、 ES調査を店舗診断書にまとめ店舗別に作成して配布。それを基に店長が店舗ごとの計画を作成し、改善サイクルに落とし込もうとしている。さらに、年間の調査計画に基づいて適切なタイミングで研修を行なうことで店舗の改善活動をサポートし、すべての取り組みを「QCST」という共通の方針に基づいて展開させているところだ。

「同社では全メイト(アルバイト)8,000人を対象に、意識・能力の向上を目的としてメイトオペレーションコンテストを毎年開催している。店舗選抜⇒地区選抜を経て全国大会を関東にて開催し、部門毎(プロダクト、セールス、新業態)に全国No.1のメイトを決定。接客力の切磋琢磨を促している。


全国店長会議:年に1度全国の店長約400名が集まり、運営戦略の検討・共有をはじめ、店長の成果発表や優秀店長の表彰などを行っている。


アルバイトスタッフの主体性を引き出す

調査内容は会社方針を示す機会となる。そこで、調査の実施にあたっては、継続して実施する調査についても会社方針に基づいて調査内容の見直しを図った。例えばES調査では、それまでは「スタッフが満足して働くことが顧客満足にも反映するだろう」との考えから、ス タッフの不満の所在やその解消に着目したアンケート項目になっていた。それを昨年から、顧客に対してスタッフが感じていることや行なっている取り組みなどを問う内容に切り替えた。

「例を挙げると、以前は『店長の話に一貫性があるか』など店長や働き方への意識を問う質問が中心だったが、それを『お客さまに対してどういう対応をしているか』など、主体的な姿勢を確認する内容へと変更しました。店舗をつくるのは自分たちだと意識するきっかけに なっていると思います」(早川氏)。

初めて取り入れたMSRの調査項目は非常に細かく、自由回答も多いため、はじめは戸惑う店舗も多かったという。 「調査員の方たった一人の意見ではないか、主観じゃないかという意見もありました。『その時間帯に入っていたのは誰だ』と、犯人探しになってしまったこと もありました。でも、実際に私たちが向き合っているのは一人ひとりのお客さまなので、一人の声こそ大事にしなければいけません。年4回の調査ごとに店長と 意思疎通を図り、また店舗でもミーティングを重ねて、今では皆が調査の意義を理解し、既存のCS調査と合わせて、店舗全体で改善に生かす動きが生まれてきています」と長元氏は話す。

ロッテリア創業40周年の記念店として、上野駅不忍口正面の西郷会館が改装されたグルメビル「UENO3153」1階にロッテグループ初のフードコートとして「L’UENO」(ルエノ)がオープン。「ロッテリア上野公園ルエノFS店」をはじめとする初出店のパスタ&ピザ「ピアトリア」、焼き立てパンを提供する「フォルサム」、スイーツショップの「銀座コージコーナー上野公園ルエノ店」が営業している。


また来たくなる感動レベルのサービスを

一方、この5、6年でQCSTは一定のラインに到達したと判断したことから、今年で一旦、専門家による抜き打ちの店舗調査は終了。この春からはMSR、CS調査、ES調査に絞ることとなった。これらと店舗の経営状況とを見比べ、店長による改善計画の立案、また本部の戦略立案に生かしていく予定だ。

「最も知りたいのはお客さまの来店理由や要望です。来期からは、お客さまが足を運びたくなる“感動”レベルにどうしたら届くのか、そこにフォーカスしていきたいと考えています」(遠藤氏)。

それに加えて、今後注力していくのはフランチャイズ(以下FC)店舗の拡大だ。現在、FC店の割合は約2割。 「経営はお任せしながらも理念や方向性はしっかり共有する必要がある。その統率力は必要」だと長元氏は話す。「お互いに言いにくいことなどがないよう、エ リア責任者がしっかりと信頼関係を築くことが大事ですね。当社では社員から独立してFCオーナーとなるケースも多いので、その意向がある社員には段階的に支援してバックアップを行なっています。FCは社員にとっての大きな目標になると同時に、本部にとっても安定的なビジネス形態です。今後はFC化にもっと力を入れていく予定です」。

今年も早々に話題性のある商品を次々と繰り出しているロッテリア。その人気の裏には、顧客の声から気づきを得て商品開発やサービス改善に即座に反映させる仕組みや、統一の方針に基づいた様々な地道な取り組みの努力も大きく影響しているのだ。この春からも引き続き、 複合的な調査に基づくCS改善活動を全社的な動きとし、顧客に“感動”を与えられる店舗を目指していく。

「L’UENO」(ルエノ)外観


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