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外食企業10店舗の壁を信頼関係で突破、ミステリーショッピングリサーチ得点急上昇の理由

株式会社リン・クルー

http://www.rincrew.co.jp/


『季刊MS&コンサルティング 2010年夏号』掲載
取材・文:西山 博貢
※記載されている会社概要や役職名などは、インタビュー(掲載)当時のものです。ご了承ください。

京都内を中心に30店舗を展開する、株式会社リン・クルー(以下、リン・クルー)では、ここ半年でミステリーショッピングリサーチ(覆面調査)の平均得点が約15点上昇した。その背景を伺うと、築き上げた信頼関係をベースに、ミステリーショッピングリサーチの重点項目を一つ決め、徹底しているのだという。しかし、その裏にはミステリーショッピングリサーチ活用における重要な成功要因が含まれていた。取り組みの詳細と成果のポイントを、取締役営業部長の伊藤健浩氏に教えて頂いた。

リン・クルー成果のポイント

  1. 旧来の縁で結ばれた社長と幹部陣の信頼関係
  2. 20店舗を超す規模でありながら、幹部対社員の個別のコミュニケーションが信頼関係のベース
  3. 全員が共通して頑張ることのできるシンプルなミッションを一つ、具体的かつ分かりやすく提示
  4. 守るべき最低限のラインと最も大切にしたい考え方を明示し、幹部自ら検討内容を継続的に発信・指導

取締役営業部長の伊藤健浩氏


リン・クルーの成功要因

リン・クルーの成果創出の理由をまとめると、先の「成果のポイント」に挙げた4つに集約されるだろう。特筆すべきなのは、30店舗という規模でありながら、幹部陣と社員の個別で密なコミュニケーションが風土として根付いていることだ。一般的には、10店舗を超えると社長対社員の個別のコミュニケーションが難しくなり、社内のコミュニケーションが希薄化しがちである。しかし、信頼関係で結ばれた幹部陣がそれを代替している。

また、全員が共通して頑張ることのできるシンプルなミッションを一つに定め、具体的かつ分かりやすく提示し、日常的にそのミッションを追いかけるようにしている。リン・クルーのミッションは、ミステリーショッピングリサーチの評価項目の一つを徹底することだ。

そして、守るべき最低限のライン(頑張ってほしいスタッフに書かれない)と最も大切にしたい考え方(お客様の気持ちに共感し、おもてなしを行う)を明示し、伊藤氏が自ら各店舗に継続的に発信し続けていることもポイントだ。

それでは、それらの成功要因を具体的に掘り下げていきたい。


急拡大の弊害を個別のコミュニケーションで解決

リン・クルーは、代表である林直樹社長の独立をきっかけに、元々同じ店や近隣の店で働いていた仲間同士が集結し立ち上げた会社だ。業態がヒットし業績が好調だった上、元々強い信頼関係があった仲間ということもあり、社内のコミュニケーションも最初から順調だったという。

しかし、店舗展開が続いて10店舗を超えた頃から、店舗内の人間関係が悪化し、離職が増え、店の運営もままならない時期を経験した。その時取った解決策が、幹部と社員の個別のコミュニケーションだ。互いが個別に酒を呑み交わしながら悩みや想いを共有し合った上で、メールや電話で具体的なアドバイスやフォローを実施した。以降、日常的に個別のコミュニケーションを取り合っており、どうしたら社員各個人に働き甲斐を持ってもらえるかを考え続けているため、現在離職はほとんどないという。それができたのは、強い想いを共有する幹部同士の信頼関係があってのことだ。


全社員が共通のミッションを目指す

リン・クルーでは、70あるミステリーショッピングリサーチの項目の中から、最も重きを置く1項目だけを徹底するようにしている。それは、「自然なお勧め」だ。簡単そうに見えて難しく、総合評価との相関性が高い項目であった。業態力やマニュアルの力ではなく、現場の裁量が強く影響する項目でもある。実際に、この項目が徹底できている店舗は平均約170点、できていない店舗は平均約145点だったことから決定した。しかし、重要なのはどの項目を選ぶかではなく、全社員でシンプルなミッションを共有できていることだ。

その意義を伝えた後、実現させるためのやり方は現場に任せる方針だ。他の点数は見ずに、このポイントだけを徹底し、その結果を毎月フィードバックしている。

それ以上の部分は、インセンティブ制度として評価している。ホールスタッフはミステリーショッピングリサーチの4番と5番の項目(気配りと笑顔に関する総合評価)、キッチンスタッフは3番目と7番目の項目(料理の美味しさと提供時間)で、これらの項目が満点であれば、一律5,000円を支給。また、「輝いていたスタッフ」にアルバイトスタッフの名前が挙がった場合も、当人に5,000円を支給する。支給後のモチベーション向上は見た目からも分かるという。


明快な基準

良いところにばかり目を向けて、悪い点があれば放っておくのではサービス品質が担保できない。守るべき最低限のラインは、お客様を不満にさせないことだ。リン・クルーでは、それを具体的に、「『頑張ってほしいスタッフ』に書かれないこと」と定めている。ミステリーショッピングリサーチで頑張ってほしいスタッフに名前が挙がれば、3日以内に顛末書を書かなければ全社広報の対象となる。この制度を開始してから、「頑張ってほしいスタッフ」に名前が書かれる確率は格段に下がった。

また、最も大切にしたい考え方を「お客様に対するおもてなし」であるとし、毎月、ミステリーショッピングリサーチを深く読み取った結果を、伊藤氏が各店舗別に発信している。ミステリーショッピングリサーチの深読みを通して、お客様の気持ちの背景を読む訓練が各個人の人生の充実につながると考えているからだ。

ミステリーショッピングリサーチを深く読み込んだ上で、各店舗に毎月届くレポートの読み取りのポイントを細かく伝えている。「ミステリーショッピングリサーチはコメントに毎回説得力があり、疑いを掛ける余地がありません。また、受け入れやすく納得感がある。それを利用して、お客様一人ひとりの評価の背景を考えてもらっています」と伊藤氏は話す。


改善活動を円滑化させた取り組み順序

このように数々のポイントがあるが、これらの取り組みを実施した順序からも学ぶところは多い。

リン・クルーの場合、ミステリーショッピングリサーチの導入前には、既に幹部同士・社員同士の信頼関係が築けていた訳だが、その上で、1年目は、ネガティブ視点からポジティブ視点への変化をテーマとした。考え方だけを伝え、活動は全て店に任せた。まずはミーティングシートを使ったミーティングを継続し、ミーティングをやっているかどうかだけは毎月チェック。ミステリーショッピングリサーチ平均点は上がらなかったが、最初に信頼関係と情報共有・話し合いの場というインフラを整備した。


体制が整い始めたところで、役職に関係なく誰の意見も尊重することを体現するため、期間限定の投票箱で意見を募る「発掘!アイデアマン制度」を発足した。最初に本部が意見を受け入れる姿勢を示すことで、言いたいことが言え、チャンスを与えてくれる雰囲気を醸成した。

2年目で、本格的な改善活動をスタート。まず取り組んだのは、ミッションの簡潔化と明確化だ。ミステリーショッピングリサーチ重点項目を設定し、ミステリーショッピングリサーチによりお客様の気持ちの背景を読む訓練を開始した。そして、社内制度への組み込みを行った。最低限のラインを設定すると共に、インセンティブ制度を発足。2年目で急速に成果が表出した背景には、土台づくりを行い、風土をつくり、ミッションを定め、制度に落とし込むという段階を経ていたことが一つのポイントであったと言えるのではないだろうか。


「今、これまでの取り組みを振り返って一番大切だと感じるのは、やはり信頼関係と仲間意識です。幹部は皆、元々いわゆる“ディスコの黒服”の出身でした。ディスコの世界では、先輩は後輩を守らなくてはいけないという文化がありました。それが今の組織にも根付いているのだと思います。人と人の個人的なつながりというのを、これからも大切にしていきたいですね」と伊藤氏は語ってくれた。


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